FallenGoddess 〜記憶喪失少女との自分探し〜

壱号

プロローグ

プロローグ・前編

「ワ…が………せか………ほ…か……すく…」


真っ暗な空間でボロボロの女の子が一筋の光が射し込んでいる場所に向かって前へ前へ這いずっている。

女の子の焦点は合っておらず意味の分からない言葉を小さくブツブツと呟いている。


「死……ワタ…これ………だれ…か……」


焦点の合わぬ眼で何を見つめ何の為に這いずるのか、それは彼女にしか判らないだろう。ズルズルと一歩一歩と光に向かって彼女は這っていく。


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「眠い……」


ボサボサのグレーの髪を揺らし煎餅布団からゆっくりと身体を起こした青年は窓の外を見る。心地よい陽気な陽射しが暖かく、太陽は空高く上がっておりおそらく昼前であろうと予測できる。


「んー? まだ11時かそこらだな。寝よ」


青年は外を見つめ数秒迷うと窓を開けっ放しのまま再び煎餅布団へ戻り二度寝の準備に入る。


「って! 何を二度寝決め込んでのさっさと起きろ!」


布団に入ってすぐに、腰まであるピンクのストレートの髪を激しく揺らし、全体的にフリフリがついた淡い赤と白の衣装を着た女の子がドアを激しく開ける。


「あー、ここにフリード何て言う奴はいない。他を当たれ他を」


トリシアの怒声を完全無視の態勢を決め込み布団から右手をヒラヒラと振って出てけと示す。

そんな事を信じる訳でも、素直に出て行く訳にもいかないトリシアは布団に詰め寄りフリードの躰を強めに揺らす。


「アホな事言ってないでさっさと起きてよ。は不在だし、急患も来てるし、そもそも星誕祭せいたんさいの準備と、やる事はいっぱいあるんだから」


だが、いくら揺すっても起きようとしないフリードにだんだんとストレスが蓄積されていく。


「ねぇフリードっ! ………クズニート」


ボソっとそんな悪口を言ったトリシアに対し、フリードも布団の中でイラっとしたらしく今日初めてトリシアと顔を合わせる。


「お前、それは酷いぞ。大体そんな細かい事でイライラしていたら、その発育失敗の体が成長しなくなるぞ」


トリシアの胸を指して堂々と答える。

実際トリシアはスレンダーで顔もかなり可愛いと言える分類だろうが出て欲しい所もスレンダーになっているだけである。


「んなっ!? 人が一番気にしてる事をぉ〜……」


彼女は少し頬を紅く染めると静かに背中から黒で塗られた木製バットを取り出す。


「フリードのボケェ!!」

「ごふっ!?」


怒声と同時に振り下ろされたバットはフリードの脳天に直撃し血を噴出させる。殴ったトリシアは涙目で怒りながら部屋から出て行った。


(あいつ……、俺を永遠に眠らせる気か?)


未だ血を噴出している頭を押さえてヨロヨロと起き上がり、一つため息を吐く。


「急患ねぇ。星誕祭せいたんさいの影響か?」


独り言を呟きながらクローゼットの中から蒼いジャケットを身に付け、ささっと髪にメッシュをいれて外出の準備を整えたフリードは、トリシアの診療所に向けてダラダラと歩き出した。


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「遅い」


診療所に着くやいなやトリシアに一言ピシャリと文句を言われるが、大体お前が殴るから遅れたんだが、と一言文句を言おうと思ったがグッと噛み締め診療所に入っていく。

ちなみに、診療所なのにフリフリの服を着てるのは金欠なのとこの町がど田舎である為、こんな感じの服しか買えなかったからである。


「で、黒化こくかした急患はどこだ? 俺を呼んだならそうなんだろ」


「えぇこっちよ」


トリシアは診療所の奥に歩みを進めてフリードを案内する。

案内されたその場所は、全体的にドンヨリとしており唯一あるベッドには男が一人縄を引き千切らんばかりに暴れていた。その目は正気を失ったかのように見開き、身体全体から黒いモヤのようなものを放出している。


黒化・・・今この世界で蔓延している不治の病。心の歪みが大きな原因と言われているが詳しい事は不明。

症状は身体全体に黒いモヤが溢れ出し、だんだんと理性を失っていき、最終的に本能の赴くままに殺戮を行う奇病だ。


「じゃあ、一発お願いね」


「へいへい」


フリードが右手に力を込めると、白いモヤがまとわりつき、それが発光を始め部屋全体を照らす。


「ほれ、正気に戻れ」


男の額にチョップをかますと、黒いモヤが霧散してさっきまで暴れていた男は嘘のように大人しくなり寝息をたてる。


「んー…やっぱり納得いかない。何で治せない奇病をニートのフリードが治せるのよ」


フリードを睨みつけるが、当の本人は飄々と肩をすくめる。


「何度言わせるんだ。人魔戦争じんませんそうで死にかけた時に神様がくれた力だって」


光武こうぶでしょ? 何でアンタ何かに……」


ブツブツと文句を言いながら部屋から出ていく。


「礼くらい言えよ……」


フリードは男の縄を解きながらため息をつく。


「フリードさんお疲れ様ですよー」


縄をあらかた解き終えると、部屋に元気な声が響く。声のした方に目を向けると、右手をあげ左腕にタオルをかけ、トリシア同様の服に身を包み犬耳をピクピク動かした小柄な女の子が立っている。


「おー、か。どうした?」


「先生が星誕祭の準備を手伝ってほしいみたいですよー。今年はアンリさんがいないから大変そうですよー」


「え~……」


隠す事なく全力で嫌な顔と態度を示すフリード。だが、その態度を見てもアリュールは言葉を続ける。


「手伝った方が良いですよー。何でも、『もし、渋ったり来なかったら星誕祭の間埋めるから』だそうですよー」


アリュールの話を聞いて、頭を抱えるフリード。まだ胸の件に怒ってるのだろうそれに、トリシアなら冗談でも何でもなくマジで実行しかねない。

彼女との十年来の付き合いがそう結論をださせる。


「あ、はい。行ってきます」


頭をガックリさげダラダラと足を引きずって診療所を後にした。

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