だい40にゃ・島に住む悪魔

「隊長! 島が見えてきました!」

「そうか、敵は見えるか?」

「いえ! 敵影は見えません!」


 それはまだ日も登らないような未明。

 大船団が海を渡って南の島を目指していた。

 目的は島の征服。

 侵略者は黄色い肌を持ち、長い耳が生えたエルフだ。

 だが彼らは自分たちのことを黄金族ハイエルフと呼ぶ。


「我々はこのまま回り込んで島に上陸する、上陸準備を整えろ」

「「「ッハ!」」」


 私の傍に秘書が来る。

 同じハイエルフでとても頭のいい私の養子だ。


「4番手と言っても結構後ろの方なのですね?」

「あぁ、先鋒には味方が3000人ほどいるからな。

 我々が上陸できるのはまだまだ先だな」


 我々ハイエルフは島を征服するのに200隻もの大船団で海を進んでいる。

 一隻に50名ほどが乗っていて、最初に上陸するのは先鋒の60隻。

 次に我々も含む60隻が上陸し、最後に残りの80隻が上陸する。

 そして、私が指揮する一隻の船は右翼の中間に位置している。


「敵は何か仕掛けてくるでしょうか?」

「海上に敵は居ない。

 上陸中がもっとも狙いやすいが、浜辺にも敵は居ない。

 狙って来るとしたら上陸後。島の奥深くに誘い込んでのゲリラ戦しかない」


 そう、敵が取る作戦と言えばそれしか思いつかない。

 斥候からの情報が少なすぎるので、猫耳族自体がどれ程いるかは分からないし、使役しているとされるゴーレムの規模も分からないが、上陸して何処かを占領するか砦を作れば、万が一苦戦した時にも援軍が来るまで対応できる。

 もっともこの作戦で苦戦することなど考慮もされていないがな。


「しかし、本当に情報通りの魔法使いがいたなら……」

「それは、考え過ぎだ。

 警戒することに越したことは無いが、そんな化け物なぞ居ない。

 本当に凄腕の魔法使いが居たとしても、その時は我々が束になって戦えばいいだけの事だ」


 そう言いながらも、私は胸騒ぎがしている。

 何度も斥候を送っているんだ、敵側が海岸を警戒していてもおかしくないのに、偵察の兵士すらいないのだから。

 我々が上陸地点に選んだ場所は広い砂浜で、その先は大きく半円を描くようにジャングルの木が伐採されている。変わった切り方だが、きっと猫耳族が活動している範囲内なのだろ……う?

 ……こんなに近くに生活している場所が在るとしたら、何故斥候の最初の報告でこのことが報告されなかったんだ?


「……あのジャングルの切り方おかしくありませんか?

 普通、私達が上陸しやすいように、ああやって切るでしょうか?

 なんだか誘われているような……」

「……確かにおかしいな。警戒するようにほう――」


 会話の最中に前方で大きな爆発音と水飛沫みずしぶきが大きく上がった。

 突然、爆発炎上した船は船底を粉砕されて海に沈んでいった。


「っな!? 何があった!?」

「わ、分かりません!!」


「「「わあぁぁぁーー!!」」」


 さらに立て続けに続く爆発音と水飛沫。

 先頭を進んでいた船が2隻纏めて吹き飛んでいく。


「何処だ!? 敵は何処だ!?」

「クソ! なんだ! なんなんだ!?」

「敵が見えないぞ! 見張りは何をしている!?」


 周囲の船から怒号が飛び交うが、誰も原因が分からなかった。

 私も直ぐに見張り台を見て見張り兵に確認を取る。


「敵は見えなかったのか? 攻撃の軌道は!?」

「見えませんでした! 突然船が爆発して沈んでいきました!」


 突然船が沈む?

 そんなことをどうやって?


 急いでいかりの間まで走って眺める。

 再び近くで爆発が起きると、船首が爆散して水飛沫が立ち上がる。

 もしかして海中か!?


「攻撃は海の中からだ! 注意して海面を見ろ!」


 次は自分の番かもしれないと恐怖しながら、必死に海面を見詰めていると、海中に漂う丸い物体を発見した。

 なんだこれは? もしかしてコレが爆発した物の正体か?


「これだ! これを避けて通れ!!」

「「「ッハ!」」」


 船員の皆がオールを漕ぎながら浮遊物を回避していく。

 他の船も爆発する物の正体が分かったのか、不規則に船を動かしていった。


「こんな物があるなんて……。

 だが正体が分かれば怖くは無い。このまま上陸するぞ!」


 他の船も回避を始めているが、それでも発見が遅れて沈没する船も出ている。

 早くも30隻近い船が沈んでいっている。


 だが、安心したのも束の間。

 直ぐに次の脅威が襲ってきた。


 それは光。

 光ったと思った次の瞬間には、船に命中して爆散する。

 沈んでいく船は、バラバラになった木片しか残っていない。

 乗っていた乗員の殆どが消滅してしまっていた。

 あまりの出来事に、船団から怒号が止んだ。


「な、なんだ今の光は……!」

「た、隊長!! あ、あれは何なのですか!? 魔法ですか!?」


 あれほどの威力の魔法は見たことが無い。いや、そもそも魔法なのかも分からない。

 驚いて声を上げる船員を落ち着かせるために声を張り上げる。


「落ち着け! 急いで上陸するんだ! 上陸の順番なんて関係ない! このまま船の上に居れば死ぬぞ!!」

「っは、っはい!」


 最初に光った場所と同じところから、さらに強い光が一瞬見えた。

 その光は真っ直ぐに中央にいた船を貫くと、その勢いのまま後続の船を次々に飲み込んでいった。

 轟音をとどろかせて沈んでいく船。

 たった一度の攻撃で、ざっと見積もっても20隻以上は消えていった……。

 隣で少女が震えながら口を開く。


「な、なにあの光は……。や、ヤダ。あんな島行きたくない、行きたくない」

「落ち着けララノア! 敵が狙ってるのは密集している場所だけだ!

 回り込めば上陸できる!」


 私は彼女を落ち着かせるように強く抱く、だが彼女の震えは収まらなかった。


「上陸しても、あんな化け物とは戦えないわ!?」

「あの光は一直線にしか進まない。回り込めば大丈夫だ! だから冷静になれ!」


 私も分かっている。

 上陸したとしても、あんな高威力の魔法を放つ化け物を倒せるのかと。


 光がさらに二射、三射と放たれる度に数十という船が爆散していく。

 それでも果敢に進んでいった複数の船が砂浜に辿り着いた。

 我々もようやく砂浜に到着すると、先に砂浜についた船から降りた兵士たちが砂浜を駆け上がって行く光景が見えた。

 これで、あの光を止めてくれれば、後続が安全に上陸出来る。


 「「「ブゥオオオォォオォォォオォオオォォォオォォ!!」」」


 その時、砂浜から5メートル程のゴーレムが20体這い出てきた。

 過半数が岩で出来ているゴーレムのようで、数体だけ金属で出来ているようなゴーレムもいる。

 先に戦い始めたハイエルフの兵士たちが、魔法をゴーレムに当てていく。

 魔法が命中すると、その箇所が破壊されて大きく抉れた。


 なかなか強力なゴーレムだが、我々にかかれば勝てるか。

 だが、ゴーレムの傷が直ぐに治っていく。

 魔法攻撃を受けた箇所が、もう完全に治っていた。


「な! 自己再生能力だと!?」

「隊長! 前方にゴーレムです!!」


 私が指揮する部隊が砂浜に降りると、兵士が叫ぶ。


「っ!? 半円陣形を組め! ゴーレムは再生能力があるぞ! 一気に片付けろ!」

「「「おお!!」」」


 ゴーレムを囲って三方向からの同時攻撃。

 ゴーレムが右を向けば、右に展開した部隊が回る様に逃げながら、他の部隊が攻撃する。

 そして、左にゴーレムが向けば、左に展開した部隊が逃げながら他の部隊が攻撃して翻弄していく。

 何度も魔法を撃っても再生していくゴーレムに苦戦しながらも、どんどん傷をつけていく。


「バースト!」


 ありったけの力で魔法をゴーレムの頭部に叩き込むと、ゆっくりと膝を突いて動かなくなった。

 砂浜の中央を見ると、被害は甚大だがそれでもゴーレムを倒すことが出来ているようだった。


「よし、次は迂回しながら光の場所を目指すぞ!」


『ゴオォオォォオンンン!!』


 部下の返事代わりに響き渡ったのは爆音。

 周囲に爆風を撒き散らし砂が顔を襲った。

 視界を守る様に手で覆っていると、頭上から子供の声が聞こえてきた。


「Arara~。KekkouyaruneKimitati?」


 それは聞いたこともない言葉だった。

 私は声のした方を見ると、宙に浮かぶ一人の子供が居た。

 黒い髪に黒い瞳、黄色かかった白い肌。服装はローブに杖とペンダント。

 他には何も着ていないが、同性が見ても綺麗だと思うその肌が、その姿に違和感を持たせなかった。


「っ!? ば、化け物だ……」

 

 ある程度魔法を使えるようになると他者の魔力が何となく分かるようになる。

 そして、私のその感覚が――

 ――この子供が化け物だと教えてくれた。

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