だい39にゃ・選ばれし民
それは猫の島からずっと遠い、北の大陸にある巨大帝国の会議室。
豪華な装いで王冠を被ったエルフの周りに、同じく豪華な装いや軍服を着たエルフが話し合っていた。
その国は自分たちの住む大陸を征服し、それに飽き足らず他民族をも征服して虐げて、思いのままに生きていた。
それに抗う種族や国家もあったが、彼らの扱う強力無比な魔法によって今では誰もが彼らの支配を受け入れていた。
彼らの国の繁栄は止まることを知らず、大陸全土に及んでいた。
彼らは自らを、そして他種族も畏怖と恐怖を込めて彼らをこう呼んだ、
――
「なに!? また偵察隊が消息を絶っただと?」
「はい。定時連絡が昨日の昼から来ておりません」
王冠を被ったハイエルフの皇帝が声を荒げると、恐縮した様子で一人の軍服を着たハイエルフが答えた。
この国のハイエルフは決して皇帝に逆らわない。
この帝国の皇帝は代々もっとも魔法が上手く扱える者がなる。
そして、今の皇帝は歴代でも指折りの魔法使いとして賢者の称号を得ていた。
その魔法の力で勝てるものはこの大陸には一人もいない。
まさに世界最強として君臨していた。
「あんな未開の辺鄙な島に何があるというんだ?」
「報告では、危険な生物はいないとの報告も受けておりまして。
何が原因なのか分かりません」
「まったく。
高貴な我らの血が流れるとはな。
こんな事なら他種族でも使えばよかったわ!
あいつらは掃いて捨てる程いるからな!」
「それで、どういたしましょうか?」
誰も皇帝の発言を疑問に思わない。
自分たちにがもっとも優れた種族で、他の種族は自分たちが支配してやるのが当たり前だと思っているからだ。
「兵は準備出来ているな?」
「ッハ! すでに一万の兵士と、兵士を乗せる船は準備出来ております!」
軍服を着た別のハイエルフが答える。
「軍の構成は全て、我ら選ばれし黄金の民だったな?
最初に支配する土地に足を踏み入れるのは我々でなくてはな。
早く島にいる猫耳が生えた種族を見てみたいものだ、どんな声で鳴くのか楽しみでしょうがないな!」
皇帝は大きな声で笑うと、軍服を着たハイエルフたちに命令する。
「早く征服して我らの力を下等な種族共に思い知らせて来い! 出撃は明日だ! 行け!!」
「「「ッハ! 選ばれし黄金族に永遠の勝利を!!」」」
会議室を後にしたハイエルフたちが早くも勝利を確信して浮足立っている。
ハイエルフが使う魔法に抗える種族も対抗できる種族もこの世には存在しない。
確かに、身体能力という点に関しては他の種族に劣る部分もあるが、そんな弱点が弱点にならない程に強力な魔法を軍人だけではなくハイエルフという種族なら
勝利を確信して浮足立つ輪の中から一人だけ思案顔のハイエルフがいた。
彼は島に斥候を送っていた指揮官の一人だった。
そんな彼の許へ一人のハイエルフの少女が走り寄る。
少女をチラリと見てから彼は口を開いた。
「状況は?」
「どうやら他の斥候部隊も全滅しているようです」
彼は顔をさらに
最初に斥候を送った日から一ヵ月以上経っている。
その一ヵ月の間に何度か斥候を送っているが誰も帰ってこない。
南にある海を隔てた島の情報を瞬時に送れないからしょうがないが、少なくともそれまでの間にさらに複数の斥候を送っていた。
そして、今少女から得た情報からその斥候部隊も全て全滅したとの事だ。
ハッキリ言ってこれは異常だ。
他のハイエルフと違って、そこまでハイエルフが完璧な種族とは思わないが、帝国の民、そしてハイエルフとして最強の種族と自負している。
そしてハイエルフだけで構成されていた斥候が全て帰ってこない。
「他に情報は?」
「……実は一つだけあります」
「今までまともな情報が入ってこなかったんだ、少しは期待していいのか?」
「複数の目撃情報なんですが……正直信じられないような報告ですね……。
消息を絶つ前の定時報告時のものなのですが」
少女は少し歯切れ悪そうに返事を返してきた。
この少女は母親が難産で、私の副官だった父親が戦地で散ってしまって親がいない。
代わりに少女の父の上官だった私が面倒を見ている。
少女とは思えないほどに頭がいいが、そこまで強い魔法を使える訳ではなかったので秘書として使っている。
そんな少女が見せてくる報告書だ、確かな筋の情報なのだろう、恐らく内容が信じられなくて歯切れが悪かっただけだと思う。
そんな事を考えながら報告書を読むと、確かに信じられないことが書かれていた。
「さすがにこれは……」
「信じられませんよね。ですが、確かな情報です」
「お前のことは信用しているが、魔法を複数種類、しかも100以上も魔法を展開出来るなんて化け物でも無理だぞ? これが本当なら初代皇帝が倒した魔王なんて楽勝だろう?」
初代皇帝は神とエルフとの子供で、その才能は神にも迫るとされていた。
複数もの魔法を50も展開して魔王と互角に戦って勝利を収めたと物語の中で書かれているが、正直この話も信じられない。
優れたハイエルフの魔法使いでさえ、複数種類の魔法を10個展開するのが限界なのだから。
現皇帝の実力は知らないが、他の人の話だと30以上展開出来るらしい。
それが100だなんて……、ハイエルフでも無理だ。
しかも敵はハイエルフじゃない。
「敵は猫耳族だったはずだが?」
「はい、それとゴーレムも使役しているようなので、魔法はゴーレムが使っているのかもしれません」
「……猫耳族は恐らく人獣族に分類されると思うが、人獣族は魔法が不得意なはずじゃないのか?」
「一括りに人獣族といっても複数いますから、魔法が得意な種族もいるかもしれません」
「どちらにせよ警戒するに越したことはないな。逆にそれしか出来んがな」
「はい。十分にお気を付けください。それで私たちの出番は何時になりますか?」
「出撃は明日。我らの部隊は4番手だ。右翼に展開しながら島に上陸する」
「分かりました。準備しておきます」
「あぁ、死ぬなよ」
「はい、この恩を返すまでは決して……」
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