だい29にゃ・神殿

 渓谷を越え、丘を越え、草原を越えて、僕の視界には海に浮かぶ神殿が見えてきた。

 海に浮かぶって言っても、そう見えるだけで実際には島の上に建っているみたい。


 神殿の外見は、一言で言うならまさに神秘的。

 少し汚れているが、それでも白い建物は見ていて非常に美しい。

 長く、大きな階段の向こうには大きな入り口が僕たちを待っているようだ。


「にゃ? にゃんにゃ!」

「ニャァ! ニャン」

「にゃぁ~ん」


 猫耳少女たちが、神殿に渡る方法が無くてにゃんにゃんしだす。

 島に建っている神殿に向かうには、橋を作るか他の手段を考えないといけないんだけど、僕は手っ取り早く魔法を使う。


「スカイウィング!」


 馬車の窓から身を乗り出しながら杖を掲げて魔法を唱える。

 すると、馬車が宙に浮いて神殿へ飛んでいく。ちなみにこの時、猫耳戦士に支えてもらってた。


 馬車が神殿の階段に到着して魔法を解くと、モモちゃんとミーナちゃんが豚のケツを思いっきり蹴り叩く。


「ブッヒッヒィィィィーーーン!?!?」


 何時ものように、瞳を煌々と輝かせながら奇声を上げて階段を駆け上がっていった。

 馬車の中は『ガダガダガダガダガダガダ!!』と、激しく揺れ動いている。


「あばばばばばば! ま、魔法解くんじゃなかった! あばばばばばば!!」


 猛スピードで階段を渡りきると、かなり広い広間に出た。

 天井は吹き抜けになっていて、そこから陽の光が降る注いでいた。おかげで辺りが明るくて見やすい。


「ニャン!」

「ニャーン」


 猫耳戦士が先に馬車から出ると辺りを警戒してから手招きした。

 僕も、メロンお姉ちゃんに抱きついて馬車から出る。


「ちゅっぱちゅっぱ! きゅぽん! おぉ~凄い広くて真っ白だぁ~」


 全体的にシンプルながら神秘的な雰囲気を出す広間の先には二階へ続く階段があった。

 二人の猫耳戦士が先頭を歩くのに続いて、メロンお姉ちゃんに赤ちゃん抱っこされた僕の次に、シャオたんとモモちゃんにミーナちゃんが続く。

 階段の手摺てすりに触れてみると、薄っすらと埃が積もっていた。


「うっへぇ~……ばっちぃー」(っぺっぺ)


 階段を上りきると、大きな門が待ち構えていた。

 巨人でも出入り出来るんじゃないかと思うほどの大きさの扉には、びっしりと模様が描かれている。

 見かたによっては紋章に見えるし、文字にも見える。勿論読めないけど。

 シャオたんに模様を指さしてみると、


「にゃぁ? ん~にゃにゅにゃ」(きっぱり)


 良く分からないっといった表情をしていたから、この子たちにも何か分からないみたいだ。

 早速、猫耳拳士が扉を押して開けようとする。


「ニャーン! ニャンニャン……ニャ? ニャン! ニャンンンン!!」


 押しても引いても開かないどころか、ビクともしない。

 猫耳剣士も加わって、押したり引いたりしてみても、顔を真っ赤にさせるだけでダメみたいだ。

 もしかすると、何処かにスイッチがあるのかもとペタペタ扉に触れてみる。


「なんもない?」

「にゃ~にゃ?」

「にゃぁ~にゃ?」


 僕の隣で、モモちゃんとミーナちゃんも扉をペタペタし始める。

 調べているというよりは、触って遊んでる感じだけど、まぁいいや。

 扉を触ったり、たまにモモちゃんのちっぱいを触ったり、なんとなくミーナちゃんのお尻を弄ったり、ちょくちょくメロンお姉ちゃんに吸い付きながら、必死に探してみても特に何もなかった。


「なんなんだろ?」


 かれこれ数十分も経っている。

 モモちゃんとミーナちゃんはすっかり飽きてしまって、階段の手摺から滑って遊んでいる。

 面白そう……。


 メロンお姉ちゃんは階段に座って、モモちゃんとミーナちゃんを見ていて、猫耳拳士は下の広間で寝転がってる……。

 シャオたんは僕と一緒に扉を調べていて、猫耳剣士は僕の傍で警備に努めているっぽい。


「本当に開かないな~」


 隅々まで調べた結果。何にもなかった。

 扉を杖でトントン叩きながら、遊び半分で魔力を送ってみる。


「ひらけ~ゴマ味噌!!」


 すると、大きな扉が『ゴゴゴゴ!』と開き始めた。


「うっそ~~ん……」


 僕は皆を呼ぼうと後ろを振り向いた。

 下の広間には石で出来た騎士の石像がひしめいていた。


「うっそ~~ん!?!?」


 叫んでいる間に、猫耳拳士が滑り降りてきたモモちゃんとミーナちゃんを両脇に抱えて階段を駆け上がる。

 僕は援護しようと杖を掲げた時に後ろから叫び声が聞こえた。


「ニャァ!? ニャンニャニュ!!」


 剣を抜く音と猫耳剣士の声。

 振り向くと、開いた扉の向こう側にも、騎士の石像が待ち構えていた。

 この騎士の石像は全長180センチぐらい。石の剣に、石の盾を装備している。


 「前は任せて! 後ろはお願い!」


 僕の指示を聞いて、猫耳剣士が振り返って階段へ向かう。猫耳拳士の方も、モモちゃんとミーナちゃんをメロンお姉ちゃんに預けてから、階段へ向かって行った。


「にゃ、にゃ……」


 僕の隣にシャオたんが立っていて、短剣を引き抜いていた。

 その手は震えていて、顔つきもにも緊張と恐怖の色が若干見えていた。


「大丈夫! シャオたん、僕に任せて~」


 片手でシャオたんの手を下げさせながら、もう片手で杖を扉の向こうへ向ける。

 すでに、騎士の石像は迫ってきている。悠長に魔力を籠める時間は無い。


「エアーショット・改!!」


 凄まじい突風が、先頭に居た騎士の石像を薙ぎ倒していく。

 まるでドミノ倒しのように倒れていく騎士を眺めながら、次の魔法の準備の為に集中する。

 集中し始めた最中に、騎士の石像は倒れた仲間を乗り越えながら近づいてきていた。


「ブリザード!!」


 前のときよりも改良を加えた魔法が、騎士の石像へ降り注ぐ。

 無数の氷の塊が、次々に騎士の石像を粉砕していく。さらに次の魔法を唱える。


「バースト連射!!」


 扉の向こう側から、騎士の石像を簡単に破壊する爆発が何度も起きる。

 次々に響く爆発音が鳴り止むと、扉の向うにはただの壊れた石の山が出来ていた。

 これで、ゆっくり後ろを片づけられる、と思ったのも束の間。

 二階や三階から飛び降りるように次々と騎士の石像が出てきた。こうなったら突破した方が速いかもしれない。


「皆! 戦士ちゃん! こっちに来て! 早く!」


 シャオたんがモモちゃんを、メロンお姉ちゃんがミーナちゃんを抱いて走ってくる。

 猫耳戦士も応戦しながら後方へ下がっていくが、群がってくる敵に対応して、なかなか下がれないでいる。


「ストーンスパイク!」


 戦っている少し後方に、地面から石の杭を幾つも出現させて敵を吹き飛ばす。


「ストーンウォール!」


 さらに、石の壁を作って、足止めもする。

 これで時間が稼げる。


「ニャ~ン」


 猫耳拳士の脇に抱かれた。

 先に走っている猫耳少女を追いかけて、扉の向こう側へ向かうと長い通路に出た。


「ストーンウォール!」


 誰も追い駆けて来てないが、念のために通った通路を塞いでおく。


「ふぅ、これで一安心……って言ってる傍から……」


 通路の両脇に空いている穴から、騎士の石像が出てきた。大量に。

 猫耳戦士がさらに速度を上げて先頭に立つと、目の前の敵と戦っていく。

 僕は猫耳拳士に脇に抱えられた状態のまま魔法を唱える。


「――魔装強化術!」


 仲間全員に身体強化の魔法を施していく。

 続けて別の魔法を準備する。


「サンダーボルト!!」


 極太の雷で出来た矢が凄まじい速度で飛んでいくと、騎士の石像に風穴を開けていく。

 さらに風穴を開けてもそのまま突き進んで、線上にいた敵が崩れ落ちていく。


「サンダーボルト! サンダーボルト!」


 何度も連射して敵に風穴を開けていくが、敵の方も減った分だけ、もしくはそれ以上に増えてくる。


「どんだけいんだよぉ!! サンダーボルト!!」


 前方に魔法を唱えながら、時たま後ろから迫ってくる敵の足止めの為に壁を作りながら進んでいくと、いつの間にか三階へ上がる長い階段を駆け上っていた。

 猫耳拳士の脇に抱えられたままだから楽だけど、戦いにくくないんだろうか?


 「ンニャ?」


 視線を向けていたら、チラっとこっちを見て鳴いただけで終わった。

 片手だけでも、敵を殴って粉砕しているから別に苦じゃないんだろう。

 長い長い階段を駆け上がっていると、最初に見た扉と同じようなのが見えてきた。


「スカイウィング!」


 宙に浮いて猫耳拳士から離れると、一足先に扉に向かう。

 扉に触れて魔力を流すと、重そうな音を立てながらゆっくりと扉が開いて行った。


 どうやら掛け声は関係なかったらしい……。

 振り返って猫耳少女たちを追いかけ回す騎士の石像を見る。


「こんの! てへぺろ少女を追いかけ回す変態野郎が!! クラッグプレス!!」


 天井を剥がして落下させる。

 激しい音と土煙を上げながら、騎士の石像を押しつぶした。


「ストーンショット!」


 さらに、砕けた敵の破片を使って岩の散弾を浴びせる。

 頭を吹き飛ばされたり、腕や足を吹き飛ばされて動けなくなる敵が続出する。


「ウィンドカッター・改!」


 複数の風の刃を作り出して縦横無尽に暴れさせる。

 石の山が出来上がったところで振り向く。


「皆~扉に入って~」


「にゃーん」

「にゃぁ、にゃぁ、にゃぁ」

「ニャ~ン」


 ちょっと疲れてる子もいるけど、皆が扉に入ったのを確認してから僕も扉に向かう。

 部屋の中に入ってから扉に触れて、閉まる様にイメージしながら魔力を送り込むと、ゆっくりと閉まっていった。たぶんこれで敵は入ってこれないだろう。確証はないけど。


「ふぅ、これで一安心だ」

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