だい22にゃ・深青の騎士

「にゃんにゃ~」

「にゃんにゃんにゃんにゃ」

「にゃぁ~ん、にゃ、にゃ」

「にゅん! にゃぁ~」


 馬車に揺られながら猫耳少女たちの合唱が始まっている。

 ぶっちゃけ、ただ適当に歌ってる感じがするんだけど、なかなかこれが心地良い。


「「「「にゃん♪ にゃ! にゃ! にゃん♪ にゃん、にゃにゃ♪」」」」


 なんて、あざと可愛いんだ!!

 猫の手で尻尾や腰をふりふりしやがってチクショウゥ!!


「「にゃんにゃんにゃにゃにゃ! にゃんにゃんにゃにゃにゃ!」」

「「にゃぁ~ん にゃんにゃん♪ にゅ! にゃ! にゅ! にゃんにゃんにゃん!」」


――あぁ、この世界に来てよかった……。(しみじみ)


 ぴこぴこ動く猫耳から視線をなんとか剥がして馬車の外の風景を眺める。

 山と山に挟まれた渓谷を抜けて、今は辺り一面に草原が広がっている。小さな丘が見えたり、古そうな石の柱に苔が生い茂っている建築物が点在している。昔はここに誰か住んでいたのだろうか?


 幻想的な視界の後ろを振り向くと、この場所が山に囲まれるように存在している事が分かる。

 たぶん、あの渓谷以外にこの場所に辿り着ける道は無いと思う。


「……ふぁぁ~。いったい何時つくんだろ?」


 さらに一時間ぐらい馬車に揺られていると、御者台から『ニャーン』と、声が掛かってから馬車が停車する。


「にゃーん? にゃにゅ?」

「ニャン、ニュニュ。ニャーン」


 シャオたんから降りるように促されて、馬車から外に出る。


「おぉー! なんか少し空気が違うねぇー……」


 僕は途中で言葉を切って、進行方向を眺める。

 そこには、今まで何度も見てきたモノがあった。


「なんで、また巨人がいるん?」


 まぁ、正直予想はしていたけどね。


 僕の視界の先には、丘の上で片膝を突いて鎮座している巨人が居る。

 その巨人は深い青色で、見た目は騎士のようだ、さらに盾を背負い剣を地面に突き立てていた。


「にゃぁ? にゃん?」

「にゃ~んにゃ?」

「ニャン。ニュニャーン!」


 二人の猫耳戦士が身構えた、それに合わせて他の四人の猫耳少女たちが馬車へ戻っていく。


「にゃーん」


 シャオたんが杖を渡しに戻ってきて、渡し終えると馬車へ向かう。


「ニャァン!」

「ニュニャ!」


 僕を守るように猫耳戦士が両サイドに位置する。


「――魔装強化術!」


 僕を含めた三人に強化魔法を施すと、


「シュウゥゥゥゥーー!!」


 騎士の巨人がゆっくりと立ち上がった。

 全長は10メートル。今までの中で一番小さい。

 騎士が背中から盾を取って、地面に刺さっていた剣を引き抜く。


「お前もか……」


 僕はぷるぷる震える。


「合体巨人もカッコよかったけど! お前は素でカッコいいな! ムカつくぅぅぅぅぅ!!」


 ローブを靡かせて杖を騎士に向ける。


「爆ぜろリア充! 弾けろイケメン! イグニッション!!」


 戦闘開始早々に大量の魔力を使った爆発魔法を繰り出す。

 一瞬光ったと思った次の瞬間には、丘を削るほどの大爆発が起きる。


「シャァァァァ!!」


 爆風や土埃の中から騎士が飛んできた。


「っち! 散開しろ!!」


 騎士は一直線に僕に向かってくる。

 直ぐに、魔法で石の壁を作って足止めをしてから、次の魔法の準備の為に集中する。


「ウィンドトラップ!」


 僕の前方にある地面に魔法をかける。


「シュ!!」


 石の壁が騎士の一太刀で粉砕されてしまった。

 杖を振り下ろして次の魔法を発動する。


「アイスエッジ!!」


 複数の氷の刃が騎士へ向かって飛んでいく。

 さらに魔法で操作して、四方八方から襲い来るように調整してある。

 これで少しは傷つけられるだろう。


「シュ! シャァァ!!」


 しかし騎士は飛んでくる氷の刃を次々に剣で弾きながらも突き進んでくる。


「えー! ちょっ! まってぇぇ!」


 騎士は自分の剣の間合いまで踏込むと剣を振り上げる。

 が、先に仕掛けておいたトラップ魔法が発動して、騎士が踏んだ足元から突風が上空に向かって吹き荒れた。

 上空に飛んでいった騎士に追い討ちをかけるべく、さらなる魔法の準備をする。


「ウィンドカッター!!」


 風で出来た刃なら弾かれる事は無いだろ?

 騎士を追うように四本の刃が向かっていく。


「シャアァァァァァア!!」


 騎士は器用に体を捻りながら、四本の刃を華麗に回避した。

 さらに剣を振り上げて僕に向かって落下してくる。


「マジっすか!? だが甘いよ! 練乳に砂糖混ぜて蜂蜜で固めて食べるくらいに甘いよ!」


 四本の刃が方向転換して騎士の背中へ向かう。

 しかしそれよりも早くに騎士が僕に攻撃できそうだ。


「あわわわ! 甘甘だったのは僕の方か!?」

「シュウウウウウ!!」


 杖を両手で構えて集中する。

 もう数秒で僕は真っ二つにされるだろ。そんな恐怖の中で集中して魔力を籠めていく。


「ジェットストーム!!」


 杖から風が吹いて、僕の体が後方に向かって高速移動する。

 その一秒後に騎士の剣が振り下ろされて地面が裂けた。あそこにさっきまで居た事を考えるとゾッとする……。


「シュウゥゥ……」


 騎士がゆっくりと剣を引き抜きながら、剣を顔の横に構えて剣の切っ先を僕に向ける。まるで剣を角に見立てているような構えだ。


「うっ!」


 唐突に背中に寒気が走る。なんだかとってもやばそうな感じだ。

 手を地面に置いて魔力を送り込む。


「ダートリフト!!」

「シャァァァァァ!」


 僕の呪文と同時に騎士が物凄い速さで迫ってくる。

 僕は魔法によって地面が上空に伸びて、危機一髪で回避できたが、伸びた地面に騎士の剣が突き刺さりヒビが入っていた。


 「ッシ!」


 騎士が剣を捻ると、僕が乗っている足場がガラガラと崩れた。


「あばばばばば!」


 僕が落ちてくるのを待っているかのように構える騎士。

 落下しながらもどうしようかと考えていると、騎士の両側から猫耳戦士が飛び掛っていた。


「ニャァァ!!」

「ニャッッ!!」


 猫耳剣士の斬撃を剣で受け止め、猫耳拳士の打撃を盾で受け止めた。


「ニャ! ニャンニャン!!」


 猫耳拳士の流れるような打撃を、騎士が盾で捌いていく。

 さらに盾で強打されて猫耳拳士が後方へ転がっていった。


「ニャァーーー!!」


 その隙を狙って猫耳剣士が斬り付けるが、騎士は剣のつばで受け止めて鍔迫り合いに持ち込んだ。強化魔法が薄れてきているのか、徐々に猫耳剣士が押され始めている。


 地面に着地してから直ぐに猫耳剣士に魔法を掛け直す。


「――魔装強化術!!」


 強化術を掛けても尚押されている。

 騎士が鍔迫り合いをしながら猫耳剣士を蹴り飛ばした。


「ニャニャ!?」


 猫耳剣士は体をくの字に曲げながら飛んでいく。


「ウィンドインダクション!」


 猫耳剣士を風で受け止めて下ろす。

 騎士は顔だけをこっちに向けると、向き直って剣を構えなおす。


 ちょっと、強すぎませんかね?

 巨人を倒していって僕も強くなっていったけど、これはキツイですわ~。

 だけど、まだ諦めた訳じゃない。何故かまだまだ魔力が尽きる気配がしないからね。

 最初と比べると恐ろしいほどに魔力が増えている。これも練習の成果だな! 特に何かした記憶無いけど!


 ゆっくりと杖を構え直しながら、僕は騎士を見詰める。

 素早く、華麗な剣技を躱すのは体を魔法で強化すれば何とかなるかも。

 肝心なのは素早くちょこまかと動く敵をどう倒すかだ。


 さてと。どうやって倒そうか?

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