だい19にゃ・白と黒の双璧

『ガタゴトドガグシャン』と、揺られて数時間。

 メロンお姉ちゃんにお姫様抱っこされながら馬車を降りる。


「ちゅっぱちゅっぱ」


 進んできた方へ視線を向けると、ジャングルが遠く方に見えた。ほぼ豆粒ぐらいにしか見えない。

 僕達が今いる場所からは大きな山が幾つも見える。

 思えば遠くまで来たものだ。


「ちゅっぱちゅっぱちゅーーー! きゅぽん!」


 最後に強く吸い付いてから口を放す。名残惜しい……。

 馬車から出てきたシャオたんに杖を渡される。

 モモちゃんとミーナちゃんも御者台から降りて来て、僕にへばりつく。


「いってくるよ。ちゅ! ちゅ! ちゅちゅちゅー!」


 濃厚でディィィーーーップ!! なKISS!! をしてから颯爽と歩きはじめる。


「あ、忘れ物」


 メロンお姉ちゃんから大きな袋を渡されてそれを担ぐ。

 それを、よっからどっこら持って巨人の許へ進む。


「お、おもいぃぃ……」


 巨人の方もゆっくりとこっちに近づいて来ていた。


 上半身が大きい、黒く輝く一つ目の巨人に、

 下半身が大きい、白く輝く二つ目の巨人だ。

 なんか、久しぶりに見たな。


 そろそろ魔法の射程内に入りそうなところであゆみを止める。


「よし……」


 僕は手でローブをなびかせ、ついでに息子あどれっとも靡かせる。

 もう片方の杖を持った手を掲げて、魔法と唱える準備をする。


「ふっふふふ……この前の僕とは一味も二味も違うってところを見せてやる!! 僕のケツみたいに濃厚だぁ!?!?」


 二体の巨人は僕のぷりちぃーなケツを見た瞬間に走り出した。


「ッヒィ!? ど、どどどこまで飢えてるんだぁ!?」


 急いで魔力を作り出す。

 まずは足止めから。


「ストーンスパイク!」


 巨人たちが通ると思われる進行先に、岩で出来た太い柱の杭を出現させる。


 だが、巨人たちはそんなものお構いなしに突っ込んでくる。

 しかも、ヤる気満々なのか、両手の指を高速回転させていた。


「お、おぃぃ! 気早すぎだろぉ!!」


 ッハ!? 僕のお尻は、魔性のお尻ぃぃ!?!?!?


 ここで僕の処女を失うわけにはいかない。


「ロックキャノン!!」


 赤土から迫り上がってきた岩を弾丸状にして発射させる。

 一発じゃ足りないな。まだまだ、出すぞ!


「ぐぬぬぬぬん!! ロックキャノン大量発射!!」


 魔力を地面に流すと、音を立てながら岩盤が迫り上がってくる。

 それを適当な大きさに分けてから、次々に発射させる。


 最初の一発目の岩石の弾丸は、二つ目巨人の腕に当たって腕諸共うでもろとも砕け散った。

 さらに、二射目三射目……十射目と飛んでいく。


 一つ目巨人は、胸をえぐられ手が吹き飛び、両足が吹き飛んで歩けなくなっている。

 二つ目巨人は、片腕が砕け散り、肩の半分が破壊され膝も砕けていた。


「……」


 僕は気を緩めずに次の魔法の準備をする。

 なにせこの巨人は再生能力を持っていたのだから。


 みるみると損傷した箇所を修復していく巨人は、一つ目が上に、二つ目が下になって合体した。


「っふふふふふ。その超絶合体であるスーパーウルトラマジデオオキナキョージーンを倒してこそ僕の最強が証明されるのだ!」


 完全修復したスーパーウルトラマジデオオキナキョージーンが走り迫ってくる。


「そんなカッコイイ姿見せつけやがって! むかむかする!! 行くぞ! 子供たちよ!!」


 僕は『テレキネス』で持って来た袋を開けて中身を晒す。

 その中には数百という小さな石人形が入っている。練習の為に延々作っていた人形だ。


「特攻だ! やっておしまい!」


 数百ある石人形が間隔を空けて、次々に巨人に特攻していく。


「ストーンフォート!」


 石人形が特攻して行く勇姿を見ながら後方へ下がって、魔法で作った岩の砦に身を隠す。


「ぐふ、ぐふふふふ!」


 次々に迫り来る石人形を巨人が振り払いながら突き進んでいく。

 それでも何体かの石人形が巨人にへばり付く事が出来たみたいだ。

 ニヤニヤが止まらない……。


「うっふふふふ! 爆ぜろ! リア充!! 二体でいちゃこらしやがって!!」


 叫ぶと同時に爆発音が響き渡る。

 一度や二度の破壊音ではなく、さらに連続して破壊音が鳴る。


「魔法で爆弾を内蔵した特攻石人形ちゃん……恐ろしい子……」


 爆発によって生じた土煙が晴れていく。

 合体した巨人は所々を小さく、または大きく破損させながら立っていた。


「……倒したん?」


 フラグを立てた瞬間に、自己再生が始まった。

 目に見えて分かるほどの再生力に驚きながらも次の石人形を投入する。


「ま、まだまだあるぞ! 行け、特攻石人形ちゃん!」


 石人形が動くと巨人の方も走り始める。

 触れて爆発する石人形にも構わずに僕に迫ってきていた。


「あばばばば! ダートシールド!」


 岩の砦の中に隠れながら、さらに魔法で自分の身を守る。

 巨人が砦を破壊しようと大きく腕を振りかぶった瞬間に石人形が次々に飛びついて自爆していく。


「こ、今度こそやっ――いや! フラグは立てんぞぉ!」


 巨人は腕を振り上げたまま止まっていた。

 かなりボロボロで自己再生もしていないようだ。


「や、やったーー! たおし――っ!?!?」


『ゴオォォォォォン!』と、巨人から振り下ろされた衝撃で岩の砦が揺れた。


「あわわわわ!! なんで!? なんで!?!?」


『ゴオォォォン! ゴオオォォォォォン!!』

 何度も鳴り響く音に怖くなって少しちびってしまう。


「まま、まずい! あ、あれだ! えっと、えっと――」


 再び振り下ろされた腕に、とうとう岩の砦が耐え切れなくなった。

『ガラガラ』と崩れ落ちる場所から急いで脱出する為に魔法を使う。


「――魔装強化術!!」


 全身を魔法で強化して、素早く逃げ出す。

 砦を飛び出した瞬間に、巨人と目が合った。


「あれ? 再生してない?」


 巨人はボロボロの姿のままだ。再生能力が落ちたんだろうか?


「う~ん……ん? あわわ――」


 僕を掴もうと振り払われた手が見えた。


「――エアーショット!!」


 空気の塊を発射して上空へ飛ぶ。

 元居た場所に、『ブン!』と風を切る音をさせながら手が通り過ぎて行った。

 あんなのに掴まれてたらペシャンコだよ……。


「っ!?」


 さらにもう片方の手が迫ってきていた。

 掴まれる寸前に、巨人の親指に自分の手を叩きつけた反動で腕に着地する。

 そのまま巨人の腕を走り渡る。魔装強化術使ってなかったら捕まってたな。

 さて、もうひと暴れしないと。


「ストーンショット! アイスニードル! ウィンドカッター!」


 ストーンショットの散弾で巨人が削れ、アイスニードルで小さな穴が開き、ウィンドカッターで僕を掴もうとして来る指を斬り飛ばしていく。


「ファイア!」


 巨人と目が合ったので、目眩ましに手から炎を放射する。

 目が見えなくなって暴れ始めた巨人が僕を叩き潰そうと腕を振り下ろした。


「さいなら~」


 足を重点的に魔法で強化して、巨人から離れるように宙に舞う。

 さらに、エアーショットで距離を稼ぐ。


『バキャ!』


 巨人が振り下ろした腕が自分の頭を強打していた、自分で叩いた部分が大きく陥没している。

 僕は上昇を続ける空中で、杖を巨人に向けて構えて集中する。


「ぐぬぬぬぅ! ぐぬぬぅぅぅ!

 爆炎の王よ、荒々しき破壊を望む王よ、我招きを聞き届けられよ!

 破壊の宴を開催する! ――イグニッション!!」


 一瞬光ったと思ったのも束の間。

 巨人の目の前で大爆発が起こる。

 耳がおかしくなるほどの大爆音が響き渡り、大小の破片が弾丸の如く飛んできた。


「っっ!?!? 結界展開!!」


 厚く広く展開した結界を目の前に出す。

 幾つもの破片が当たったり、食い込んだりしながら、僕は爆風で吹っ飛んで行った。


「あ~~れ~~」


 地面が近づいてきて赤土が見えてきた。

 大丈夫。落ち着いて魔法を使えば着地出来る。


「エアーショット」


 風を噴射して飛んできた勢いを弱める。

 だが、少し勢いが弱い。もう少し強くしようと魔力を籠めたら。


「あっ……」


 魔力が底を付いてきて維持が出来なくなってしまった。


「ぐべぇぇ!!」


 華麗な顔面着地をしてから起き上がって振り返る。


「やった!!」


 巨人は両腕と両足だけを残して、他の部分は粉々になっていた。

 我ながら恐ろしい破壊力だ。何故かどんどん魔法の力が上がっていってるからな!


「っふっふふふふふ……あ、あれ? ……い、いしき、が……」


 ゆっくりと赤土に倒れこみながら、僕は意識を失った。

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