問題児が異世界から来るそうですよ?え?四人目は魔王だそうですよ?

腐りかけ@

第1話

問題児







私、八神燈火は孤独である。自分で自分を孤独だというのは、なかなかにおかしい気がするが孤独なものは孤独である。


今、私がいるのはどこかも知れない部屋の中である。家具の一つもなく。そもそも、ものが無い。


白かった筈の壁は、で汚れ、床にはが転がっていた。


「はぁ………ここから出ようか」


私は肉が纏っていた赤く汚れたはくいを黒のワンピースの上に羽織って廊下を歩いていく。


「♫♫♫〜〜〜」


「む?なんだろ?手紙かな?どれどれ」




『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能を試すことを望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの"箱庭"に来られたし』


「わお!」


 読み終えた瞬間、眼前には見たことの無い風景が広がっていた。


 それだけなら、まだよかった。


 燈火のいる場所は、空中に投げ出された形だった。それも、目測だが上空数千メートルと言ったところだろう。


「あらあら、これは予想外」





ドボン!ーーーーー!









陸に上がった燈火と他3人と1匹は

それぞれに罵詈雑言を吐き捨てていた。


「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」


「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」


「…………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」


「俺は問題ない」


「そう。身勝手ね」


 黒髪ロングの少女とヘッドホンの少年はフン、と互いに鼻を鳴らして服の端を絞る。


「此処……どこだろう?」


「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」


 猫を抱いている少女の呟きに、ヘッドホンの少年が応える。


「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」


「そうだけど、まずは"オマエ"って呼び方を訂正して。

――私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴方は? 」


「………春日部耀。以下同文」


「そう。よろしく春日部さん。それで、洗濯をしているそこの白髪の貴方は?」


「ん?私か?私は八神燈火だ」


そう言うとまたバシャバシャ、と

着ていた服を洗っている。


「最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」


「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。

粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」


「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」


「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

 心からケラケラ笑う逆廻十六夜。

 傲慢そうに背を向ける久遠飛鳥。

 我関せず無関心を装う春日部耀。

急に洗濯を始める八神燈火。

 


 

 そんな彼女らを物陰から見ていた黒ウサギというウサ耳の少女は、四人を召喚した人物であり、迎えに来た人物でもあるのだが、


(うわぁ………なんか問題児ばっかりみたいですねえ……)


 召喚しておいてアレだが……彼らが協力する姿は、客観的に想像できそうにない。

黒ウサギは陰鬱そうに重くため息を吐くのだった。


「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」


「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」


「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」


(全くです。というか白髪の方は話に混ざろうともしないのですか……)


 黒ウサギはこっそりツッコミを入れた。


 もっとパニックになってくれれば飛び出しやすいのだが、場が落ち着き過ぎているので出るタイミングを計れないのだ。


「――仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話を聞くか?」


「なんだ、貴方も気づいていたの?」


「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ? そっちの猫抱いてる奴も、白髪の奴も気づいてたんだろ?」


「風上に立たれたら嫌でもわかる」


「ん?あぁ、あそこにいる小動物

かい?」


「……へえ? 面白いなお前達」


 軽薄そうに笑う十六夜の目は笑っていない。


四人は理不尽な招集を受けた腹いせに殺気の籠もった冷ややかな視線を黒ウサギに向ける。


黒ウサギはやや怯んだ。


「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? 


ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」


「断る」


「却下」


「お断りします」


「鍋にしていい?」


「あっは、取りつくシマもないですね♪てぇ!最後のはやめ」てください」


 バンザーイ、と降参のポーズをとったあとにとわててる黒ウサギ。


 しかしその眼は冷静に四人を値踏みしていた。

 黒ウサギはおどけつつも、四人にどう接するべきか冷静に考えを張り巡らせている――と、春日部耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み。


「えい」


「フギャ!」


 力いっぱい引っ張った。


「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」


「好奇心の為せる技」


「自由にも程があります!」


「へえ? このウサ耳って本物なのか?」


 今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。


「………。じゃあ私も」


「終わったら言ってね」


「ちょ、ちょっと待――!」


 今度は飛鳥が左から。


 燈火は、また洗濯に戻ってしまった。あまり興味は無いらしい。


 憐れ黒ウサギ。なむ。




「――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話しを聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」


「いからさっさと進めろ」


「そうだそうだ」


 半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。四人は黒ウサギの前に座り込み、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。

「それではいいですか、御四人様。定例分で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! 


ようこそ"箱庭の世界"へ! 


我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」


「ギフトゲーム?」


「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! 

その特異な力は


様々な修羅神仏から


悪魔から


精霊から


星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその"恩恵"を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」


 両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手した。


「まず初歩的な質問からしていい? 貴方の言う"我々"とは貴方を含めた誰かなの?」


「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある"コミュニティ"に必ず属していただきます♪」


「嫌だね」


「嫌」


 十六夜と燈火は即座に否定する。


「属していただきます!」


 それには怯まず、黒ウサギは話を続け


「だが断る!(キリッ)」


「ぞ、く、し、て、い、た、だ、き、ま、す!!」


 それでも食いつく燈火を黒ウサギは黙らせ、今度こそ話を続けることに成功した。


「そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの"主催者"が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」


「………。"主催者"って誰?」


「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための(以下略)」


 これから数分黒ウサギと女子二人の会話が続いた。


「――さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。


が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。


ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいですか?」


「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」


「私も〜」


 清聴していた十六夜が威圧的な声を上げ立ち上がり、座ったままで燈火が挙手した。


「………どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」


「そんなものはどうでもいい。


腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ、俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」


 十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見まわし、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。


 彼は何もかもを見下すような視線で一言、


「この世界は………面白いか?」


「――――」


 他の三人も無言で返事を待つ。燈火は特に興味なさそうに。


 彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。


『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。というか引きずりこまれたわけだが


 それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、三人にとって一番重要な事だった。


 燈火はそれ以前に、なぜ自分なんかを? と疑問を浮かべているのだが。


「――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」


「そうか、なら良かった私からの質問はもういいや」







「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」


 外門前の街道から黒ウサギたちが歩いてくる。


「お帰り、黒ウサギ。そちらの二人が?」


「はいな、ことらの御四人様が――」


 クルリ、と振り返る黒ウサギ。 

 カチン、と固まる黒ウサギ。


「………え、あれ? もう二人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から"俺問題児!"ってオーラを放っている殿方と、白髪のちょっと危なっかしいというか、危ない女の子が」


「ああ、十六夜君と燈火さんのこと?十六夜君なら"ちょっと世界の果てを見てくるぜ!"と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」


街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて三人に問いただす。


「な、なんで止めてくれなかったんですか!」


「"止めてくれるなよ"と言われたもの」


「ならどうして教えてくれなかったのですか!?」


「"黒ウサギには言うなよ"と言われたから」


「嘘です、絶対嘘です! 実が面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」


「「うん」」


 ガクリ、と前のめりに倒れる。まさか召喚した人材がこんな問題児ばかりだなんて嫌がらせにも程がある。


「それで?燈火さんはどちらに?」


「「さぁ?」」


「た、大変です! "世界の果て"にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」


ジンが慌てた様子で口を挟む。


「幻獣?」


「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」


「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」


「ゲーム参加前にゲームオーバー? ………斬新?コンティニューは?」


「冗談を言っている場合じゃありません!」

 ジンは必死に事の重大さを訴えるが、二人は叱られても肩を竦めるだけである。

 黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。


「はあ………ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「わかった。黒ウサギはどうする?」


「問題児を捕まえに参ります。事のついでに――"箱庭の貴族"と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」


 悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。燈火の髪とはまた少し違う、優しい印象の緋色だ。

 外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと


「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能くださいませ!」


 黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に三人の視界から消え去っていった。


 巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。

「………。箱庭のウサギは随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」


「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが………」


 そう、と飛鳥は空返事をする。飛鳥は心配そうにしているジンに向き直り、


「黒ウサギも堪能してくださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」


「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。二人の名前は?」


「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」


「春日部耀」


 ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥と耀はそれに倣って一礼した。


「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」


 飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐる。

 その後に続くように、耀がついていった。


◇時は若干戻って◇


「なぁ、燈火。一緒に世界の果てを見に行かないか?」


「いいよ。そっちの方が面白そうだ」


「じゃあ、いくぜ!」


「イエッサー」


2人は音を置き去りにして走っていった。


「燈火。まさかこのスピードについてこれるとか、お前何者だよ」


「いやいや、私としては君が走っている方が謎なのだけれど」


走っていると2人の目の前に、大きな滝があった。


「これは」


「これはスゲーな、おい!」


大きなというより巨大な、膨大な滝

水が音をたて落ちていく。


「世界の果ての前座としてはまあまあだな」


「時に、十六夜くん。ちょっとこっち向いてくれるかな?」


「なんd…ムグッ」


燈火が十六夜にこちらを向かせたかと思うと、背伸びをしていきなりキスをした。








「ぷはぁ、ごちそうさまでした」


「と、燈火てめぇ、なんのつもりだ」


若干、十六夜の顔が赤い。


「何って、キスだよ。接吻だよ。ディープなヤツだよ」


「そんなことはわかってる。目的はなんだ、って聞いてんだ」


「HI☆MI☆TU」


いたずらが成功した子供のような笑顔でそう言った。










「見つけたのですよ!お二方!水神のゲームに挑んだと聞いてびくびくしてしまったのデスヨ」


「小僧!まだ終わってはおらんぞ!特別にこの攻撃を防げたら貴様の勝ちにしてやる!」


「なに冗談言ってんだよ!ゲームってのは、勝者を決めて終わるんじゃない!敗者を決めて終わるんだぜ!」


「ちょ⁉︎なにを」


しかし、黒ウサギが両者の間に割って入るより速く、決着はつくことになる。


 蛇神の丈よりも遥かに高く巻き上がった水柱が計三本。


 それぞれが生き物のように唸り、蛇のように襲いかかる。


 この力こそ、ときに嵐を呼び、ときに生態系さえ崩す、まごうとなき"神格"のギフトを持つ者の力だった。


「十六夜さん!」


 黒ウサギが叫ぶが、もう遅い。


 竜巻く水柱は川辺を抉り、木々を捻じり、十六夜の体を激流に呑み込む――。


「ハッ、しゃらくせえ!!」




 ――はずだった。





 突如発生した、嵐を超える暴力の渦。

 十六夜は腕の一振りで嵐をなぎ払ったのだ。


「嘘!?」


『バカな!?』


 驚愕する二つの声。


「ま、中々だったぜ、おまえ」


 胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、その巨躯を空中高く舞い上がらせ、直後川に落下した。その衝撃で川が氾濫し、水で森が浸水する。

 またも全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに川辺に戻った。


「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」


「私にもでるかな?」

 十六夜のとばっちりか、近くで笑いながら見ていた燈火もびしょ濡れだった。


(ワンピース着てたのが悪かったかな。全身に貼りついて気持ち悪い……)


「ほお」


「ちょ、な、なにしてるんですか!?」


 十六夜は感心したように。黒ウサギは慌てて。


 双方の合わない表情を、燈火は不思議そうに見ていた。


「む?どうかしたか?」


「どうかしたか?じゃありません! ちょっとは隠してください!」


黒ウサギが、燈火を十六夜から隠すように引き寄せる。


「いや、別にこんな貧相な体つき、見せても減るもんじゃないしかまわん」


「そう言う問題じゃありません! いまの燈火さんを十六夜さんに見せるわけにはいかないのですよ!」


実際のところ、十六夜が考えていたことは燈火のことではなく、黒ウサギのことだった。


まぁ、健全な男子として目が向かってしまうのは仕方がないが。


燈火のことはとりあえず置いておいて、代わりに黒ウサギに対し笑みを消した表情で話しかける。


「なあ、黒ウサギ。オマエ、なにか決定的なことをずっと隠しているよな?」


「うん、そうだね話してもらおうか」


「……なんのことです? 箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームのことも」


「違うな。俺が聞いてるのはオマエ達のこと……いや、核心的な聞き方をするぜ。黒ウサギ達はどうして俺達を呼びだす必要があったんだ?」


 意図的に隠していたことを看破された黒ウサギは、諦めるようにして、自分たちのコミュニティの現状を話し出した。



十六夜と、また服を脱いで乾かそうとしていた燈火を黒ウサギがなだめるハプニングがありつつもどうにか話が始まり


話に耳を傾け始めた。そしてコミュニティの誇りである旗と名、さらに中核となる仲間が一人として残っていないことを知らされた。


「もう崖っぷちだな」


「むしろもう真っ逆さま?」


「ホントですねー♪」


 話ながら現状を噛みしめていた黒ウサギはうなだれるように膝をついた。


「下手人は誰なんだい?」


羽織っていた白衣を木の枝にかけ干しているため、黒のワンピースのみになった燈火が質問した。


「箱庭を襲う最大の天災――"魔王"です。私たちはいつか、魔王から誇りと仲間を取り返したいのです。


そのためには、十六夜さん達のような強大な力を持つ人の協力が不可欠なのです!


 どうかその力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか…………!?」


「魔王から誇りと仲間をねえ。いいな、それ」


「……は?」


「HA? じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ、黒ウサギ。で?燈火はどうするんだ?」


 二人の視線が燈火へと向く。


「いや〜、黒ウサギには悪いんだけどさ。さすがに君のことを、私は信用できないんだよ。

ごめん、だから仲間にはなってもいいけど、ノーネームに入るのはお断りさせてもらう」


「そうか、つまんねぇな」


「ごめんね、十六夜くん。私は君ほど他人に期待しちゃいないんだ」


2人の間に微妙な空気が流れる。


「黒ウサギ、さっさとあのヘビを起こしてギフトを貰ってこい。その後は川の終端にある滝と"世界の果て"を見に行くぞ」


「は、はい!」


 黒ウサギは嬉しそうに跳躍し、戻ってくるころには、ウッキャーなんて奇声をあげながら戻ってきた。


 いいものでも手に入ったのだろう。


 それを確認した十六夜は


「じゃ、いくか世界の果てに!」

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