サミシタガリヤ

ランプライト

第一章

エピソード01 「お調子者の先輩は謎の美少女の為に僕を嵌めた」

村木:「お前さ、海外旅行って行った事アンの?」


村木哲郎むらきてつろう チャラ男。 身長180cm、見た目イケメン。 「こび」を売るのが上手い、というか人当たりがよく世渡り上手なタイプ。 だから上司からの受けは良い。 一方で、ヒエラルキーが下の者に対しては決して優しくない。



翔五:「いえ、無いです。」


星田翔五ほしだしょうご オタク。 もともと背も160cmあるかないかで長身と言う程でもないし、どちらかと言えばメタボ体型、運動神経には全く自信が無いし、顔も平面で一重のつり目、お世辞にも格好良いとは言えない。 そんな外見よりも何よりも、人と付き合うのが苦手なのだ。 一人でいる方が何かと気を使わなくて済むし、落ち着く。 だから当然、友達は少ない。


これが僕。(一応、物語の主人公)




ここは相模原の少し引っ込んだ所?に居を構える とある会社のフロア。 5階建ての堅牢な建屋の3、4階は全フロアぶち抜きで、それぞれの部・課ごとに島を作って机を並べていた。


久保田精機 冷却用部品の製造メーカ。 従業員450名。 主に自動車や設備用の水ポンプの部品を設計・製造している。 業界トップではないが、新興メーカとして要元の要求に柔軟にこたえる運営姿勢で業績は上がりつつある。


その一画に在るウォーターポンプ用ベーン(羽根車)の設計グループ。 メンバーは5人。 課長の山ノ井サン(♂)、課長補佐の佐藤サン(♂)、主任の村木先輩(♂)と派遣社員の秋田サン(♀)。 それに僕(♂)。


課長と課長補佐がマネージャー会議に出かけて行って 少し緊張感の和らいだフロアの中で、主任の村木先輩がいきなり話を振って来た…と言うのが今の状況。



村木:「どうよ、会社の金で半年間海外旅行できるっての、良く無くない?」


相変わらず言葉使いが変だ…



最近、うちの会社ではイギリスの自動車工場に部品を供給する計画が承認され、プロジェクト立ち上げの為に現地の協力会社に 暫定的なリエゾンオフィス(間借りオフィス)を設けて、其処に長期出張者を派遣する事が決まっていた。


村木先輩は 今回のリエゾン派遣の筆頭候補と噂されている。



村木:「お前もさ、3年目だっけ、そろそろ一人前になってもらわないといけない訳、丁度良い機会だと思う訳、わかっかなぁ〜。 新人サポータの俺的に、なんつっか、親心的な?」


…いや、何言ってるか全然分んない。



翔五:「もしかして僕が先輩の代わりにイギリスに行くって言う事ですか? 有り得ませんよ。 英語だって喋れませんし。」


村木:「大丈夫!だっつうの、そんなもん俺だって喋れないっしょ。 要は気合よ、気合。」


翔五:「と言うか、山ノ井サンがOKするとも思えないですけど。」


村木:「俺がプッシュしておいてやっからよ、其処ら辺は全然OKだっつうの、お前的にはやっぱあれだろ、行きたい訳だろ…。」


翔五:「いえ、別に。」


…途端に村木先輩の表情が険しくなる。

…何でだ??



村木:「行きたくないの? まじ、信じらんね。 普通行きたいっしょ、イギリスよイギリス、ベッカムいるっしょ。」


…確か現役引退してた、



村木:「それとも何、俺の言う事だから敢えて聞けないって感じ?」


…なんでこんなに面倒臭い??



翔五:「そういう訳じゃなくて。 僕じゃ能力的に不十分だと思うんで、」


村木:「だから、俺が保証するって言ってんじゃん、お前の能力。 俺の言う事が信用できないって言ってる訳? お前もしかして。」


…なんでなんでこんなに面倒臭い???



翔五:「そんな事言ってないですよ。」


村木:「これはさ、お前の為な訳。 若いうちに海外経験するって、誰にでも出来る事じゃない訳。 お前、選ばれてる訳、何逆らってる訳?」


…いや、選ばれてないし、、



村木:「嫌なの? そんなに逆らいたい訳?」

翔五:「嫌とかじゃ無くって、」


村木:「OKじゃあ、嫌じゃないって事で決まりな。」

村木:「俺、山ノ井さんに お前がどうしても行きたい…つってるって「推薦」してくっから、後は大船に乗ったつもりで任せときって。」



村木:「良かったな。ほんと、お前ついてるよ。」


そう言って、先輩は僕の肩を軽くポンポンと叩くと、

トコトコと何処かへ出かけて行った。




僕は一人溜息をつく。


… 一主任が提案した所で海外派遣者が決まるなんて事は有り得ない。



芽衣:「全く、もうちょい言い返したらどうなん?」


入れ替わりで隣のグループから1っこ上の先輩(♀)が近づいて来る。


忍ケ丘芽衣しのぶがおかめい 体育会系OL。 身長は155〜160cmくらい。 トランジスタグラマーなボディからは 大人になりきらない少女の香が匂い立っている。 地味目な顔は縁の濃い眼鏡と左右に束ねたお下げの所為せい、でも 大人しそうな雰囲気に隠された うるんだ瞳とうるおった唇には 健康男子のハートを射止めるのに十分すぎるポテンシャル が秘められていた。



翔五:「別に、悪気があって言ってる訳じゃないですし、むしろ僕の為って言うか…」


新人歓迎コンパで酔い潰された僕を一晩中介抱してくれた事件以来、…僕はこの先輩には頭が上がらない。



芽衣:「あんなん悪気しか無いやん、要するに自分が行きたく無いだけやんか、 それともアンタは行きたいん?」


翔五:「あんまし、」



芽衣は僕を押しのけて椅子を奪い取ると、机の上のパソコンを操作する。



芽衣:「本当の理由教えたろか? コレ、こないだアイツがフェイスブックにアップしてた記事。」



翔五:「「友達」…なんだ、」

芽衣:「ひつこいんやもん、仕方しゃーなしやん!」


芽衣:「しかも「イイね」せえへんとイチイチ確認してくるし、鬱陶うっとうしいったらあらへん!」



翔五:「可愛い人ですね。誰ですか?」


芽衣のニュースフィールドには 村木がアップした「美少女の写真」が映し出されていた。



芽衣:「何やよう知らんけど、どっかのアイドルみたい。 今年のクリスマスに「この子と会えるイベント」が有るんやって。 アイツそこでコノ子と顔見知りになるんやってうそぶいてたんよ。」


芽衣:「アイツが日本を離れたくない理由は要するにコレ、よ。」



傷一つ無い端正な小顔は透き通る様に白く、長い睫毛に大きくて深い瞳、ウェーブした艶やかな髪は腰まで届く豊かな長髪 。 まるで造り物の様に一点の欠陥も無い美少女。


…僕は、何時の間にか  その美少女の画像に釘付けになっていた。



翔五:「アリア、」


…記事の中に見つけた その子の名前 を口に出して呼んでみる。




芽衣:「何やったら うちが断ってきたろか? 山ノ井さんに事情話して、」


…ふと、我に帰る。

…そうだ、仕事中だった、



翔五:「いえ、それは…言う時は自分でチャンと言いますから。」

翔五:「て言うか、山ノ井サンがOKするとは思えないし、」


芽衣:「ほんまに大丈夫なん?」




その時、

いっこ年下の先輩は、ぷくっと頬っぺたを膨らませて 

僕の顔を…心配そうに見つめていたのだ…。

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