連れのロリババァが最強すぎる件
ぽぽりんご
第一章 コメディばっかりやってりゃいいと思うんじゃねーです。
滅びました、世界
赤く濁った空。
煌々と世界を照らす太陽はいまだ地平から頭を覗かせているが、巻き上げられた粉塵が空を覆い、光を遮っていた。
世界は、夕闇の赤と黒で染まっている。
光に照らされるのは、何も無い荒野。枯れ果て、乾ききった大地。
いつもの光景。
いつもの日常。
「糞喰らえ」
荒野にただ一人横たわり空を見上げていた男。
長月十夜は、そう吐き捨てた。
風が冷たい。硬い地面から伝わってくる冷気に体が凍える。
だが、立ち上がる気にはなれなかった。
うっすらと輝く月に向かって手を伸ばす。
ひどくぼやけている。
粉塵のせいか。それとも、もう目が見えなくなってきているのか。
だがそれでも、月の光は十夜の心に響いた。
変わらずそこにあり続けるという、ただそれだけの事が。
とても、愛おしい。
「……綺麗だ」
空なんて、久しぶりに見た気がする。
思えばここ数ヶ月、ひたすら歩き回るばかりだった。止まれば死ぬとばかりに、ただ足を進めた。
それで得られたのは、わずかばかりの食料程度であったが。
十夜は横たわったまま首を回し、荒野を見渡す。
伸びてくる影に塗りつぶされ、ろくに見通すこともできない。
だが、その方がいい。
この先に、もしかしたら何かがあるかもしれないと。希望が持てるではないか?
「でも、俺はここで終わりっぽいな」
生き残っている人間がいるのなら、せいぜい頑張って生きてくれと。十夜は祈った。
ずいぶん適当な祈りだったが、疲労が限界だ。もう眠い。
目を閉じてから、しばらくして。
十夜は頬を撫でる感蝕を受け、再び目を開けた。
空から、白いものが降ってくる。
夜の帳はすっかり落ちていたが、それは淡い光を放ちつつ十夜の体に降り注いだ。
「……雪、か?」
久しぶりに、慣れ親しんだそのフレーズを口にする。
雪は好きだ。好きだった。
若干体に良くない成分を含んでいそうだが、どうせ最後だ。思う存分降り注いでくれ。
雪に包まれて死ぬというのは、ずいぶんと自分らしい。願ったり叶ったりという奴だ。
「若いの。風邪をひくぞ」
と、唐突に声を掛けられて十夜は体をびくつかせた。
この場に似つかわしくない、女性の声だ。
幻聴かとも思ったが、自分の脇に座り込んでいる人の気配を感じる。
暗いため、顔はよく見えない。ただ、十夜の漆黒とは対照的な。雪よりも白い髪だけが、闇に浮かび上がるように輝いていた。
白く輝く髪。
幻覚でないとしたら、化け物の類か。
「風邪を気にするような状態に見えるか?」
「ああ、確かに。むしろ、時世の句を読むべき状況なのか」
老成したような語り草だが、声はずいぶんと若いように感じられた。
三十台? 二十台? もしかすると、十夜と同年代の少女かもしれない。
「……幻覚か、妄想か。よくわからんが、せっかく出会えたんだ。少し、話でもするか」
「ああ、
そうして十夜は、白い髪をした何かと言葉を交わす。
正体は気にならなかった。そんなもの、もはやどうでもいい。
走馬灯の代わりのように、十夜は今までの人生を語る。
そうして自分語りを終えると、話題はやがて愚痴へと変化した。
吐き捨てたいものは、山ほどあるのだ。
たとえ体が朽ち果てようとしていても。力尽きるまで、世界に対する不満をぶちまけてやる。
「漫画だのゲームだので、沢山過酷な世界が語られてるけどさ。そん中でも一番ハード設定なのは、現実なんだよなぁ」
「違いない。この世はクソゲーだな」
「開発者は首にすべきだ。この世界を作った神なんてものに出会えたら、頭をかち割ってやる」
「ふ……ははは! 神のどたまをかち割ってやると申すか。それはいい。それはいいな!」
「神もたくさん漫画を読んで、ゲームに没頭すればいい。そうすれば、どんな世界を作るべきか理解する事ができるだろう」
「ふむ」
一呼吸置いて、白い髪の女性は十夜に質問を投げ掛けてくる。
「ならお前は、この世が漫画やゲームのような世界だったら良かったと。そう思うのか?」
「ああ、そうだな」
十夜は夢想した。
あったかもしれない未来。欲しかった未来。失ってしまった未来。
「こんな世界よりは、そっちの方がよっぽどいい。夢や希望に溢れる世界。最後は当然、ハッピーエンドだな」
それを聞いて、白い髪の女性は少し考え込んだように動きを止める。
やがて答えでも出したのか、腰を上げた。
「そうか。理解した」
そして、十夜に向けて手をかざす。手のひらに灯るのは、暖かい光。
それを見た十夜は、ああやはり化け物の類だったかと納得した。
こんな所に、まともな人間など残っているはずがないのだ。
「安らかに眠れ。良い夢をみるがよかろう。夢を見れば見るほど、この世界はより良い姿へと変貌するであろうから」
それだけ聞いて、満足したかのように十夜は目を閉じる。
人ではなかったようだが、最後に話が出来てよかったと。人間らしい会話ができて嬉しかったと。
それだけを胸に残し。十夜は、長い長い眠りについた。
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