第13話 ホモが好きな男子なんていません!

 

 

「数、多いな」

「ああ。連中はすぐ増殖するんだ。さながら腐った海のように」

「へぇー」

 

 十夜が所属する部隊のリーダー、グレンからそのような解答が返ってきた。

 十夜は、視線の先にいるゾンビ達へと意識を集中する。

 一番強いのは、背の高い女性型のゾンビ。それ以外の連中は、数段レベルが落ちる。

 

 

 種族:貴腐人ゾンビ

 職業:ホモの伝道士

 レベル:18

 干渉力:801

 

 

 種族:半生ゾンビ

 職業:ニーソの伝道士

 レベル:5

 干渉力:285

 

 

 種族:二次元ゾンビ

 職業:TSの伝道士

 レベル:6

 干渉力:313

 

 

「ゾンビ達にも、そういう文化はあるんだな……本当に死んでるんだろうか」

「死んでいるからこそ、生前に執着していた欲望に支配されてしまうのじゃろう」

「ほーん」

 

 なんかもう、色々と駄目だった。

 目から鱗ではあるが、正直知りたくなかったという気持ちもある。

 

 

 

 今日の十夜達は、大量発生したゾンビ達の駆除を請け負っている。

 数が多いため、かなりの人数が討伐に参加した。

 ゾンビの大量発生。年二回、夏と冬の風物詩との事だが、それが起きる原因はわかっていないらしい。

 が、十夜は鑑定結果よりなんとなく原因がわかってしまった。

 その原因の更に先、真なる要因までも。

 

「てへぺろっ☆」

「お前のせいか」

「いや。物流の活性化もかねた文化交流イベントとしては申し分ないと思ったのじゃが、予想外の勢いで広まって行ってしまった。もはや儂にもどうする事もできん。儂の小粋な心意気が招いた事態じゃ。許せ」

「お前って悪びれないよな」

「悪いと思うぐらいなら最初からやらんわ。後悔する事も責められる事もあろうが、それでも罪悪感など抱かぬ。世界は儂が動かす。儂の手を離れるまではな」

 

 男らしい。世紀末の救世主みたいな奴だ。

 方向性は駄目かもしれないけど。食と漫画にステータスを振り切った世界になってる気がするけど。

 

 

「ふっ。十夜よ見ておけ。腐った死体など、私の炎で一網打尽にしああああぁぁぁぁ...」

「はーい、クルカさんはこっちです。配置は守ってくださーい」

 

 唐突にクルカが現れたが、冒険者ギルドの職員に引きずられていく。

 悲鳴が尾を引いて、どんどん遠ざかっていった。

 

「何しに来たんだあいつは」

「あの娘、よく会いに来るのぉ。お主、何かしたのか?」

「いや、別段何もした覚えは無いが」

「かーっ! 男はみなそう言う。お主のことじゃ。きっと、いやらしすぎる視線で舐めまわすようにあの娘の肢体を陵辱したに違いない」

「それぐらい男なら当然だ。目くじら立てるような事じゃないだろ?」

「えっ」

 

 

 

 十夜達がお馬鹿な話で花を咲かせていると、隊列の前方にいる連中が合図と共にゾンビ達に攻撃を開始した。

 攻撃されこちらに気づいたゾンビ達が、叫び声を上げながら陸上選手並の全力ダッシュでこちらに駆けてくる。

 

「ホモォー!」

「ニーソ! ニーソ!」

「お前を美少女にしてやろうか!」

「はにほー」

 

 思いのほか機敏な挙動をしたので若干びびった十夜だったが、こちらの遠距離火力は過剰なまでに揃っている。十夜はほとんどやる事がない。

 今回の仕事は隊列を組んで進み、ゾンビ共に十字砲火を食らわせていくだけの簡単なものだ。

 接近してきた奴を倒すのが十夜の役割だが、突っ込んでくるだけが脳のゾンビ共がこの攻撃を掻い潜って接近できるとは思えない。

 

 ちなみに十夜も弓を使うことにチャレンジしてみたが、まともに狙いも定められなかったため放棄した。なんだあれ、人間の使う武器じゃねぇよというのが十夜の言葉だ。べ、べつにそんな使ってみたかったわけじゃないし? 憧れとか、なかったし?

 十夜は悔し涙をこらえつつ、前方の戦いを眺める。

 

「あれが普通の魔法か。意外としょぼいな」

「遠目に見たらしょぼく見えるかもしれんが、手榴弾ぐらいの威力はあるぞ?」

「お前のは山一つ焼き尽くしてただろ」

「儂を基準にするでない」

 

 接近してくる敵を警戒しながら前方の戦いを眺めていると、隊列の前方で弓を構えていた超イケメンエルフの体が突如輝き出した。

 発光しながら矢をつがえるイケメン。漫画なんかであれば特に違和感が無いかもしれないが、リアルにやられるのを見るとなぜか笑えてくる。理由は不明だ。

 その輝きは、やがて一点に集中していった。集中した先は、矢の先端。

 

「マジカルシュウッッ!!」

 

 マジカルて。

 名前はちょっとどうかと思ったが、しかし威力は確かなようだった。

 輝く矢はゾンビ達を貫通し、切り裂いていく。

 一撃で十体近く葬り去ったのではないだろうか。

 

「おお、すげぇ。とんでもない貫通力だな。見た目と名前はアレだけど」

「魔法は、魔法という形で放出するだけが能ではない。肉体を強化する以外に、武器に載せたりもできる。岩山を切り裂いた時にやったであろう? お主も発光しておったぞ」

「え、マジで?」

 

 そういえばそうだった。衝撃の事実だ。

 なんか恥ずかしい。

 

「お主も技の名前を叫んでみたらどうじゃ? 秘儀・斬岩剣とか。相手は死ぬ。ついでに自分も死にかける」

「やめろ。俺は必殺技の名前なんか叫ばないし、二度と自爆もしない」

「お主は自分で思っているよりマヌケじゃから、もう一度ぐらいはしそうな気がする」

「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……」

「儂らの戦いはこれからだ!」

「途中で打ち切られたら、死亡フラグもぶち壊せるかもしれないな」

「描写すらされず、いつの間にか死んでいる恐れも」

「唐突に『死んでいったあいつらのためにも!』みたいな回想で流されるパターンか」

「お前ら死んどったんかーいと突っ込みたくなるの」

 

 その後も話を軌道修正し、やたら必殺技を叫ばそうとしてくるニア。しかし十夜は取り合わなかった。

 何が悲しくて、自分で考えた必殺技の名前など叫ばなければならないのだ。頭おかしい。

 

「技の名前を叫ぶとか、かっこいいではないか! 自分をさらけ出してしまえば良いではないか! まったく、昔の若者の感性は……スカしおって。わけがわからないよ」

「必殺技を叫ぶ系のキャラって、真っ先に死にそうな気がするんだよなぁ」

 

 具体的には、第三話ぐらいで。

 首をパックンチョされてしまう。恐ろしい。

 

 

 と、前方で動きがあった。

 もうほとんどのゾンビが死滅したと思っていたが、突如として増援があらわれ、押され始めたようだ。

 ただのゾンビならどれだけ居ても問題はないのだろうが、連中の中にとんでもなく俊敏なガチムチゾンビが混じっており、そいつに手を焼いているようだ。

 あちこちから攻撃が飛ぶが、ゾンビは筋肉をマッスルハートさせ、その全てを華麗に回避する。ゾンビとは一体。 

 

「ち、厄介な。おそらく連中のボスだ!」

「仕留めろ!」

「いや、あいつ速くて……うわぁぁぁぁぁぁ!」

「ル、ルイスー!?」

 

 ボスを仕留めようと焦ったのか、隊列を崩し突出したライスが敵に捕まった。

 なんか、顔面をちゅぱちゅぱされているように見える。なんか微妙に嫌な光景だった。

 

「どれ、ボスの強さはーっと」

 

 直ちに(命への)影響はないようだったので、十夜はのんびりボスのステータスを確認した。

 ライスは、わりとマジで絶望の淵にいたのだが。

 

 

 名前:オットコヌシ

 種族:ホモゾンビ

 職業:ゲイ能人

 レベル:45

 干渉力:1477

 

 

「うお、やべぇ」

 

 おもに種族が。

 あと、職業も少し危険な香りがする。

 

「あのベロチュウは、求愛行動じゃの。まったく、こんな公衆の面前でとは。熱い奴じゃ」

 

 ライスの断末魔の叫び声が辺りに響いた後、急に静かになる。どうやらディープキッスをされているらしい。

 ノンケでも容赦なく食ってしまうホモのようだ。危険な男だ、早急に排除すべき。

 ライスの救援をしようとしている奴もいるようだが、増援ゾンビ共を相手にするので手一杯。

 どうやら、こいつの排除は十夜の仕事となってしまったらしい。

 

「チャンスじゃ十夜。連中のボスを倒したともなれば、報酬がっぽり間違いなしじゃぞい」

「え、なんか気が進まないけど」

「いいから行け」

「はい」

 

 

 最強幼女に無理やり背中を押され、十夜はホモの前に進み出た。

 十夜を見たホモの目が光る。ライスを狙った辺りマッチョ好きなのかと思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。

 

「うれしいね、いいケツした連中が山盛りじゃないの。ここは天国? 俺はとうとう死んでしまったのか」

 

 気色悪いセリフと共に筋肉をムキッと膨張させつつライスを解放し、腰を前後にカクカク振りはじめるホモゾンビ。

 なんかゾンビっぽくないが、いいのだろうか。ゾンビとしての矜持とかはないのだろうか。

 解放されたライスはドサッと地面に崩れ落ちる。完全に気を失っているようだ。ついでに、男として大事なものも色々失ったかもしれない。

 

「隙ありぃっ!」

「うおっ!?」

 

 腰を振っていたとっとこホモ太郎の手から、青い雷がほとばしった。予想外の攻撃だ。

 それほどダメージはなかったが、十夜の体に痺れが残る。体が思うように動かない。

 その隙を突かれ、十夜はホモゾンビにうつ伏せの状態で押し倒された。

 そしてホモは十夜の首に手を掛け、無理やり自分の方に向けようとする。

 

「ぐええええ!?」

 

 ギリギリと首を捻り上げられ、十夜が悲鳴を上げる。

 背中に感じる熱くもっこりした感蝕が気持ち悪い。

 

「なんだこのホモ。強い……!?」

「何をしておる十夜! お主の力はそんなものではないだろう!?」

「わかってる! ちょっと予想外だっただけだ!」

 

 なんだか妙にノリノリなニアの声援を受け、十夜は地面に手を突き飛び上がる。

 二人分の体重なんて、今の十夜にとっては無いようなものだ。

 地面から離れ、自由になった足を前方に振り回す。

 鉄棒の前回りをするかのようにして、十夜はホモゾンビと体の位置を入れ替えた。

 

「なっ、僕のバックを取っただとぉぉぉぉ!? まさか、僕をバックから責めようというのか! この、僕を!」

「うるせぇ! 言葉を慎めホモ野郎!」

「めがぁ!?」

 

 顔を赤らめてハァハァ言いはじめた変態に、全力パンチをお見舞いする。

 哀れ、変態はきりもみ回転しながら地面へと激突した。

 十夜の全力攻撃を受けては、さすがのホモといえどもひとたまりも無いだろう。

 

「へっ。お前はもう、死んで」

『パララパッパパー!』

 

 と、後で黒歴史化しそうだった十夜の決めゼリフを遮り、突然ニアの声が頭の中に響き渡る。

 また変な事を始めたようだ。思いつきで行動するのはやめてほしい。

 そう思う十夜だったが、十夜も基本的に思いつきで発言している。五十歩百歩だ。

 

『十夜はレベルが上がった! 腕力が3、男らしさが2、かわゆい女の子に対する外道度が41上がった! ホモとロリコンに対する忌諱きい感が3下がった! 人として大切な何かを失った!』

「やかましいわ」

「つれないのぅ。せっかくレベルが上がったというのに。レベルが上がれば干渉力も増える。高レベルの冒険者は、お金が大好きな女の子達から大人気! ハーレムも夢ではないっ」

「……え、マジで?」

 

 若干ドキドキしながら、十夜は自分のステータスを確認した。

 べ、べつにハーレムとか、作りたいわけじゃないし? 俺が好きなのはお金が大好きな女の子じゃなくて、純粋で健気で一途いちずな女の子だし? でも、寄って来られたら邪険にはできないというか。

 カーッ、つれぇな! 人気者ってのは、つれぇなおい!

 

 

 名前:十夜

 種族:不定

 職業:無職

 レベル:2

 干渉力:8530

 

 

 ……あれれー。

 職業、無職のままなんですけどー?

 

 

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