第10話 天才の旅立ち
ショクシュ子が6歳になると、岸と益美はショクシュ子を連れて武者修行の旅と称し、名のある格闘家が居る道場へと赴くようになる。そう、道場破りを始めたのだ。
岸と益美は触手拳の道場を設立する事を考えていたが、資金不足と触手拳の名声の無さに悩まされていた。
触手拳は最強である。しかし、生まれたての格闘技が故に、ネームバリューは皆無。
柔道や空手ならば誰もが知る格闘技なので、道場を開けば少なからず門下生は集うだろう。
そこで名前を売り、道場の設立費用を集める事を考えると、二人は道場破りしかないと判断したのだ。
最強を騙る道場であれば、道場破りに対して逃げる様な真似など出来るわけも無く、看板を賭けて闘うしか無いのだから。
かつての益美も、初めて岸と対峙した時には逃げること叶わず、闘うという選択肢しか選べなかった様に…。
そうして始まった、ショクシュ子を連れての武者修行と言う名の道場破りの旅は、予想通りに向かうところ敵無しでの、快進撃として日本全国津々浦々を驀進するのであった。
触手拳に敵う格闘技など存在しない。何故ならば触手拳こそ、最強の格闘技なのだから。
そう言わんとばかりに岸と益美は、自らの触手拳を以って名のある格闘家達を撃破。
撃破した道場には看板代と称して、お金を巻き上げる。恐喝紛いの金銭の要求で触手拳の道場設立費用と、生活費を荒稼ぎするのであった。
そんな二人の子供であるショクシュ子もまた、共に道場破りに参加。
6歳でありながらも高校生を相手に、難なく勝利を収めるのであった。
空手の世界選手権で益美の後釜として優勝した少女達も、8歳になったショクシュ子の触手拳によって撃破。
才能のみで言えばショクシュ子は、母である益美を既に超えていると言っても過言では無かった。
◆
道場破りを始めて、はや10年。ショクシュ子は中学を卒業し、16歳の天才格闘少女として成長していた。
中学を卒業した翌月の4月の4日。ショクシュ子の誕生日に、両親からショクシュ子へとプレゼントが渡された。
ショクシュ子に渡されたプレゼント、それは一枚の旅行券とパスポートであった。
日本中を両親と共に道場破りの旅をしたショクシュ子。そんなショクシュ子には夢があった。
それは大人になったら日本だけでは無く、世界中を旅すること。勿論、旅とは道場破りの旅である。
世界中を旅して、まだ見ぬ猛者達を相手に闘う事と、触手拳の素晴らしさを世界中に広めること。
それがショクシュ子の夢であった。
若い女の子が一人で世界中を旅するなどと、本来であれば止めたいと思うのが親心。
しかし、ショクシュ子の性格からして、止めても無駄だと岸と益美は理解していた。
ショクシュ子が「触手拳は最強なんだから心配しなくて大丈夫!」と、自慢気に話せば、止める手だてなど皆無であることは、両親が一番よく分かっているのだから。
◆
両親の心配などよそに、ショクシュ子は意気揚々と飛行場に来ていた。
見送りに来た両親に元気一杯に手を振って、乗り込んだのが中国行きの飛行機。
象形拳の発祥の地である中国こそ、旅の始まりの地として相応しいと考えていたからだ。
独学で必死になって覚えた中国語と、両親からの英才教育によって育まれた触手拳。
この二つを携えてショクシュ子は、たった一人で中国へと旅立つのであった。
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