第28話 新たなる覇道
全身を覆う生傷と体液が、ショクシュ子の死闘の凄惨さを物語っていた。
フラフラとした足取りで辿り着いたのは、木陰から死闘を見守っていたマネージャー詡王の元である。
「はは…流石に…血を流しすぎたみたいね…」
そう言うと、詡王の前で倒れ込む。
慌てて詡王はショクシュ子を支えて介抱にあたった。
「無理しすぎよ、ショクシュ子ちゃん!なんで勝敗が決したのに、いつまでもあんなにタップリと、ネップリと、ヌップリと羨ましい…じゃ、無かった!追い打ちをかける様な事をしたのよ!アレだけ血を流したんだからすぐに安静にするべきでしょ⁉︎」
詡王の正論にショクシュ子も賛成ではあった。しかし、それは格闘家としての話。
「仕方ないのよ…私は最強を目指してるけど、ただ勝つことだけを考えてる訳じゃ無いからね」
ショクシュ子は触手拳の基本理念を、詡王に説いて聞かせた。
触手は最強である前に、愛を忘れてはならないのだと。
愛なき者を見かけたらタップリと、ネップリと、ヌップリと愛を説くべきだと。
その素晴らしき触手こそ、最強にあるのだと。
まるで子供の様に熱く愛を語るショクシュ子に、詡王も苦笑いするしかなかった。
「でもね、ショクシュちゃん…それだけ愛を語るんだったら、もっと自分を大切にしたらどうなの?私が介抱しなかったら、下手したら死んでたかも知れないんだよ?」
「何を言ってるのよ、詡王ちゃん。私を介抱してくれる敏腕マネージャーが居るからこそ、安心して無理をしたんじゃない」
ニカッと笑うショクシュ子に、包帯を巻く手を止める詡王。
「も、もうっ!ショクシュ子ちゃんたら!」
必死で照れ隠しする詡王であったが、ショクシュ子の腕に巻いている包帯がグルグル巻きになり、異常なまでに太くなっていく。
流石に腕の太さが2倍程になる頃には、ショクシュ子も詡王にツッコミを入れた。
そんな事がありながらも二人は宿に辿り着き、飯も食べずにベッドに倒れ込むと、死んだ様に爆睡。
昼過ぎに目を覚ましたショクシュ子に、詡王は三大天才格闘少女の撃破を改めて讃えながら、用意した御馳走を振舞った。
大量の御馳走を平らげ、腹も膨れて一休みのショクシュ子。
食器の後片付けをしている詡王に、ショクシュ子から話しかけた。
「ねぇ、詡王ちゃん」
「なあに、ショクシュ子ちゃん?」
「これからの事なんだけどね…」
ショクシュ子の言葉に詡王の手が止まる。
当初の目的であった三大天才格闘少女の撃破は、詡王の助力もあり達成済みである。
そんなショクシュ子からの話となれば、別れの言葉であるかも知れないのだ。
顔面蒼白の詡王に、ショクシュ子は申し訳なさそうにこう続ける。
「詡王ちゃんに迷惑かけながらここまで来れたけどさ、申し訳ないんだけど…もう少し迷惑かけてもイイかな?」
「え?それって…」
「中国って広いじゃない?人口も日本の10倍以上あるし、まだまだ強い人って居ると思うのよ。だからね、ピンクの象に在籍する名の知れた象形拳の使い手も、全員撃破しない事には最強を名乗れないと思うのよね。そんな訳で迷惑かも知れないけど…」
「め、迷惑なんかじゃ無いよ、ショクシュ子ちゃん!私はショクシュ子ちゃんの覇道の為にここに居るんだから!ショクシュ子ちゃんがまだ見ぬ象形拳の使い手だって、中国にはまだまだ沢山居るんだよ⁉︎ここで逃げたら、触手拳は最強を名乗るに相応しく無いんだから!」
「うん、だからね…これからも迷惑かけるけど、ヨロシクねって事!」
ショクシュ子と詡王、二人はお互いに笑い合い、そして力強く握手した。
これから始まる新たなる死闘の数々、それは二人の友情により実現する事となる。
最強の格闘技である触手拳、その覇道が中国の地にて、新たに始まるのであった!
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