第22話 ヅラ



 遂に中国象形拳組合ピンクの象を代表する、三人の天才格闘少女との最後の対戦が始まった。


 オガミ ハナと対峙するショクシュ子。

 変装に付けていたヅラや眼鏡や出っ歯などを外して、改めて華と対峙する。



 ショクシュ子と向き合う華はポケットに両手を入れたまま、その場で微動だにしていなかった。

 しかし、額に浮かび上がる巨大な青筋が、華の怒りの凄まじさを物語っていた。


「早くかかって来なさい。それとも仲間が来るまで時間でも稼ぐつもりかしら?まあ、あれだけ人を虚仮にしておいて、私が待つ道理は無いけどね。日本人であることを恨みながら…私を虚仮にしたことを後悔しながら…己の弱さを嘆きながら…死ぬがイイ!」


 そう言いながらも、華は未だにポケットに手を入れたままである。

 しかし、そのポケットに手を入れた状態こそ、華が最も得意とする構えなのであった。


 華の手が微妙にぶれる。


 次の瞬間、ショクシュ子に向かって見えない斬撃が襲いかかって来た。



 殺気を帯びた大気を切り裂く斬撃。それをショクシュ子は咄嗟に回避。

 並の格闘家であれば、この一撃で八つ裂きになっていた事だろう。


 ショクシュ子の後ろにあった木の枝が、無残にも切り刻まれた。

 かなり離れた距離からの斬撃でこの威力。しかし、これ程の攻撃であっても華にとっては小手調べ。


 この程度も避けられない者では話にならないと、華からショクシュ子への挨拶がわりの斬撃であった。



小手調べの斬撃が、この威力。完全に避けた筈のショクシュ子の頬に、一筋の線が走る。

 その線から血が滴り落ち、最強の座に相応しい斬撃だと改めて実感した。


「流石はピンクの象、最強の使い手ね。他の二人とは明らかに別物のオーラを纏ってるわ」


「ふんっ!格闘技を踊りと勘違いしてる馬鹿鶴と、怠けることしか能がない馬鹿熊と一緒にするな!あんな二人と同じ三大天才格闘少女などと括られるだけでも虫酸が走る!」


「一緒にされたく無くても、私に負ければ三人とも同じ敗者よ?負け犬同士、仲良くしたってイイんじゃない?」


「誰が負け犬…まて、同じ敗者だと⁉︎」


「ええ、そうよ。すでに二人は撃破した後。残りの三大天才格闘少女は貴方一人。敵討ちでもする気になったかしら?」


「フハハハハッ!何が敵討ちだ!弱い馬鹿が負けただけだろう⁉︎最強はただ一人、私だけが居れば充分!寧ろ私の手で排除するべき目障りな馬鹿を掃除してくれたんだ。礼を言うぞ!さあ、最強である私からの礼だ。受け取るがイイ、敗北の味をな!」


 再び華の斬撃が襲いかかる。先程までの小手調べなどでは無く、避ける先を見定めての最大八つの斬撃が、ショクシュ子を急襲。








「奥義!無手鎌八ムッシュカマヤツ!」



 避ける先にも解き放たれる大気を切り裂く見えない斬撃。即ち、鎌鼬。


 全身触手化によるダメージ軽減も、鎌鼬が相手では効果は期待出来ない。

 ならばと、ショクシュ子は全身触手化を利用して、グニャグニャと身体をくねらせながら回避に徹する。



 必死で回避するショクシュ子。だが、相対する華は涼しい顔をしながらスタスタと歩み寄る。


 華が近づく程に回避は困難となり、ショクシュ子の顔に焦りが見え隠れする。

 回避も困難ならば、反撃の糸口すら見つからないのだから。


 これ以上距離が縮まれば回避は不可能。

 そう判断したショクシュ子は、一旦距離を置こうと後方へとジャンプ。


 しかし、それこそ華の狙いであった。


 横への逃げ道を斬撃で塞ぎ、近付いて斬撃を繰り出し続ければ、自ずと後方へと逃げると予想出来るからだ。


 無闇に後方へと跳んだショクシュ子。ここで華は、今まで以上の速さの斬撃を繰り出したのだ。


 今までの手加減していた奥義無手鎌八ムッシュカマヤツなどでは無く、本気の奥義無手鎌八ムッシュカマヤツ

最速の八つの鎌鼬が、情け容赦無くショクシュ子に襲いかかった。



 無闇に後方へとジャンプした事により、回避する事が叶わぬショクシュ子。


 その全身は無数の鎌鼬により切り刻まれ、大量の血飛沫が辺り一面を、血の海へと変貌させるのであった。


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