その5 学校へ行こう

 最初に目指したのは、普段私が通っている学校でした。

 理由は単純、近くて安全そうだから。


 両親を交通事故でさくっと失った私は、親戚一同から敬遠された結果、晴れて自由気ままな一人暮らし生活を満喫していた訳ですが、我が家となるマンションを決めるにあたって、何よりも優先したのは、「学校から近い」という、その一点にありました。

 通学に時間割くくらいなら、一分一秒でも長く寝ていたいタイプなんですよ、私。


 そんなこんなで、歩いて五分もしないところに、私の通う”雅ヶ丘高校”はあります。

 幸い、道中の”ゾンビ”のほとんどは、たった今ムシャってる新鮮な生肉に夢中で、私の方には見向きもしません。それでも、こちらに歩み寄ってきたのが、二匹。

 襲ってきた”ゾンビ”を仕留め終えると、また頭の中に例のファンファーレが鳴り響きました。


――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!


 レベルが上がったようです。

 さっきまでが「レベル2」なら、今度は「レベル3」といったところでしょうか。

 順調順調。

 しかし、やはりというか。

 レベルは、上がるごとに倒さなければならない敵の数は増えていくようで。

 その辺やっぱ、ゲームの感覚と近いんですねー。


――では、取得するスキルを選んで下さい。

――1、《剣技(中級)》

――2、《オートメンテナンス》

――3、《格闘技術(初級)》

――4、《飢餓耐性(弱)》

――5、《自然治癒(弱)》


 ふむ?

 ”ゾンビ”だらけの道ながら、少し考え込みます。


「《剣技(中級)》はなんとなくわかりますが、《オートメンテナンス》というのは?」


――《オートメンテナンス》は、取得することで装備品の劣化を時間経過により60%まで回復します。


 私はもう一度首をかしげました。


「装備品、というのは、この日本刀のこと? それとも、食料の賞味期限を伸ばす、とか?」


 訪ねますが、幻聴さん(愛称)は、


――では、取得するスキルを選んで下さい。

――1、《剣技……。


 最初の台詞を繰り返します。

 なるほど、わりと融通は利かないご様子。


 ただまあ、ゲーマーとしての勘が囁いています。たぶんこの「装備品」というのは、私が今手に持っている日本刀のことだろう、と。

 要するにこれ、RPGとかでよくある、スキルツリーってやつでしょう?

 一つのスキルを強化すれば、そこから色んなスキルに派生していって、その系統のスキルがどんどん強化されていくってやつ。

 私は最初に、《剣技(初級)》っていうスキルを取得しました。

 だから、剣を使った戦いに特化するためのスキルとして、二つの選択肢が生まれた訳だ。

 と、なると、まだ取得していないスキルも、ある程度系統が分けられるのかも知れません。

 想像してみるに、


《格闘技術(初級)》→戦闘系? 素手による戦闘に特化する場合のスキル。

《飢餓耐性(弱)》→サバイバル系? 特殊なスキル? 謎。

《自然治癒(弱)》→生命力を高める系統のスキル?


 こんな感じかな。

 フームと唸ります。周り敵だらけですけど。


 私、こういうの上手に決められないタイプなんですよ。


 んで、後で攻略サイトとか見て「うわ、こっちの方が絶対良かった」って、すっごく後悔するんです。


 こんちくしょう。


 もう、「どーれーにーしーよーうーかーなー♪」で決めちゃいましょうかね(地域によって歌に多少の誤差が存在します)。

 少し悩んだ結果、私は、


「じゃ、《オートメンテナンス》ってので」


 と、応えました。

 せっかくの祖父の形見ですからね。長く使いたいんです。


――では、スキル効果を反映します。


 するとどうでしょう。

 なんと!

 驚いたことに!

 ……今度は、劇的な変化は現れませんでした。

 

 ありゃ、ハズレ引いちゃったかな?


 とも思いましたが、きっとこれは、後々効いてくるスキルなんでしょう……多分。

 ……今になってよくよく考えてみたら、なんか60%って微妙……微妙じゃない?


 まあいいけど。

 ぐすん。


 くよくよしながら校門の前にたどり着くと、


「わお」


 目の前にあったのは、元気よく運動場をうろつく複数の”ゾンビ”たち。

 校門は、半ば閉じられている状態のようです。どうやら、開きっぱになってる門を閉じることで“ゾンビ”の侵入を防ごうとしたようですが、どうやら作戦は失敗したようでした。

 見ると、二人ほどの見覚えのない我が校の生徒が、校門の手前で”ゾンビ”たちの昼食と成り果てています。


 気の毒に。


 同じ高校の生徒ということで、さすがにちょっとだけ思うところがあります。

 と、言うわけで、仇をとってあげることに決定。

 ”ゾンビ”の後頭部に手早く刀を振り下ろし、奴らを始末します。

 幸い”ゾンビ”どもは目の前にナマニクがあると夢中にならざるをえない性質らしく、反撃を受けることはありませんでした。


 あとは、……そうですね。


 いま、食べられちゃった生徒たち。

 彼らの介錯もしてあげましょう。

 私は、もう動かなくなっていた彼らが再び起き上がって来ることのないよう、その額に刀の切っ先を突き刺します。


 生とか。

 死とか。

 命の尊厳とか。


 あんまりややこしいことは考えないようにして、と。


 作業自体は、数十秒もかからずにミッションコンプリート。


 そうなると長居は無用です。

 私は正門をガラガラっと閉じ、外部とののアクセスを遮断しました。


 錠前をカチリと閉めて、これで一安心……するには、学校敷地内の”ゾンビ”を完全に一掃する必要がありますけども。


 そこで、きゅるるるるるっ、と、お腹の音が鳴りました。


 あっ。

 あー……っ。

 そーいや、お昼ごはんまだだったな。


 さっさと済ませてしまいましょう。

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