その3 スキル選び

 レベルが上がった、と。

 確かにそう聞こえました。

 続いて、


――取得するスキルを選んで下さい。

――1、《剣技(初級)》

――2、《格闘技術(初級)》

――3、《飢餓耐性(弱)》

――4、《自然治癒(弱)》


 私は、恐らく同じ状況に置かれた人が言うであろう、最も単純な台詞を口にします。


「……は?」


――取得するスキルを選んで下さい。

――1、《剣技(初級)》

――2、《格闘技……


「いやいやいやいや! それはわかりましたけども! なんなんですか急に! 《剣技(初級)》? スキル?」


 幻聴(?)は、まるで電話の自動受付に出てくる機械女みたいに平坦な口調で続けます。


――《剣技(初級)》は、平均的な日本の剣道場で三年ほど鍛錬した程度の技術が即座に身につくスキルです。


 私は、こめかみを人差し指でとんとんとんとんと叩いて、なんとか冷静さを取り戻そうとしました。


「ええっと。……《格闘技術(初級)》は?」


――《格闘技術(初級)》は、平均的な日本の空手道場で五年ほど鍛錬した程度の技術が即座に身につくスキルです。


「《飢餓耐性(弱)》」


――《飢餓耐性(弱)》を取得すると、一週間以上飲まず食わずでも行動可能になります。


「最後のやつ」


――《自然治癒(弱)》を取得すると、軽傷であれば一日以内に全快できるようになります。


「へー」


 まあ、そんなとこでしょう。

 血塗れの切っ先をカーテンで拭うと、私はあっさりと事態を受け入れました。

 これが乙女の許容力というヤツです。たぶん。


 なんとなーく、ですが。


 自分はこう、選ばれたのだな、と思いました。

 なんかよくわからん、超常的な存在に。

 あるいは、私がゲーム三昧で引きこもっている間、すっかり世界が変わってしまって、この世界の人間全員に似たような現象が起こっているのかも知れませんが。


 まあ、起こった事態をどう捉えようと、私の勝手でしょう。

 こんな世の中です。どうせなら、自分のことを物語の主人公だと思いたいじゃありませんか。


――では、取得するスキルを……


「そんじゃまー、《剣技(初級)》でお願いします」


 せっかく祖父から日本刀をもらった訳ですからね。

 邪悪な親戚一同(失礼)に取り上げられて、それ以外の遺産はびた一文ももらえませんでしたが、想い出の品です。売ったらちょっとしたお金にもなるそうです。

 まあ、使っちゃった(意味深)ので、もう売れないでしょうけど。

 祖父の形見で怪物を斬り伏せる女剣士。

 どうです?

 憧れませんか?


――では、スキル効果を反映します。


 同時に。

 私の身体の内から、瞬間的に「変わった」という実感が湧き上がりました。


「ふぅヒュー……ッ!」


 なれない口笛も漏れ出ます。

 別段、腕の見た目は変わりません。典型的なゲーマーの細腕です。

 それがもう、なんというかもう……すごい。

 半端ない感じのアレです。

 ちょーすごーい(唐突な語彙力の消失)。


 試しに刀を振るってみると、自分のものとは思えない俊敏さで、刃が空を閃きました。

 これが「三年分」の技術というやつでしょうか。

 先程までの、へっぴり腰で刀を構えていた少女はどこにもいません。


 ……で。

 そこまで考えて、私はいったん冷静さを取り戻しました。

 それで私は、どうしたらいいのでしょう?

 不思議な力を与えられたからには、何かの目的があるはず。

 少なくとも私には、そう思えました。


「ねえ幻聴さん。次、どうしたらいいですか?」


 って訳で、空に向かって問いかけます。端から見れば危ない娘に見えたかも知れません。

 一瞬の間。

 そんな都合よく返事は貰えないのかな、あるいは幻聴呼ばわりしたのがまずかったかなと思っていたら、


 ――自由行動。人助けをしたり、敵を倒すことでレベル上げを行うことを推奨。


 答えになってるのかよくわからない返答。

 要するに、テレビゲームと同じだと思うと、あっさりと得心がいきました。

 ロールプレイングゲームなんかでよくあるやつです。

 魔物をやっつけたり、クエストをこなすことでレベル上げを行う、と。


 うーん。


 どっかに引きこもって、ゲームばかりやって暮らしたいのに。

 しかし恐らく、この騒動が収まるまで、どこに行っても電力不足に悩まされるであろうことは間違いありません。だいたい、このままじゃあ新作のゲームが発売されない可能性もあります。そのような事態だけは避けなければなりません。



「そんじゃーまー、試しに、救ってみましょうか。……世界を」


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