その387 城へ

 その後、”守護”の二人と別れた私たちは、小走りに”アビエニア城”を目指します。

 道中でエンカウントするのは、


「ちょーっとまったぁ”名無し”さん! わたしとぐわあああああ」

「さあ”名無し”さん! せいせいどーどー、しょーぶうぎゃああああぁあ!」

「いざ! いざいざいざいざ! あたしと喧嘩をげふううううううううううう」

「どーもみなさんこんにちは! では地獄送りにしてやふえええええええええん」


 レベル25前後の弱小”プレイヤー”ばかり。

 もちろんみんな、サクッとワンパンで片付けて、と。

 さすがに、ある程度ジョブスキルをとった人じゃないと、もう相手になりません。

 

 里留くんを倒して以降、下手すると殺してしまいかねない普通人の少女たちが追ってこなくなったのは助かりますが、これはこれで面倒ではありました。


「ってか、ここって結構、”プレイヤー”がいたんですねー」

「これだけ人が多いと、そりゃね。わざわざ公言してる子もいないし」

「でもみんな、平均的にレベルが低い感じ?」

「まーね、ここでの暮らしに慣れちゃうと、滅多にレベルもあがらないから。ここいらの”プレイヤー”って、30いけば強い方かな」


 と、ナナミさん。

 安全な場所でのんびり暮らすのも悪くないですが、あんまりサボると置いてかれちゃうってことか。


「まあ、……超人であることに疲れちゃった子も少なくないからさ。みんながみんな、”ゾンビ”狩りができる訳じゃない」

「それは、たしかに」


 あの、灰色の目をした連中が生前どういう人だったんだろうとか考えちゃうだけでもう、気が滅入っちゃいますし。


「ところで”名無し”は……麗華とのじゃんけんに勝ったら、どうするつもり?」

「とりあえず《魂修復機》を奪取して、みんなのために使えるようにすべきでしょうね」

「その他は? ――”非現実の王国”はどうなるの?」

「通常のコミュニティと同様の運営になるでしょう。”アビエニア”と”グランデリニア”の通行を自由にして……あとは、代表の方に一任します。……何か問題が?」

「問題はないけど」


 ナナミさん、少し嘆息して、


「そーなると、普通の避難所と一緒になっちゃうなーって」

「それは仕方ありません。少なくとも、今の状況で放っておくよりはね。でしょ?」

「まあ、そうだけどね」


 現状、《魂修復機》による利権は麗華さんが独占している状態です。

 でもこの世には、蘇りを求めている人が山ほどいて。

 そういう人たちのために、《魂修復機》は常に稼働しているくらいじゃないと。


「もしよろしければ、みなさんを雅ヶ丘のコミュニティに案内します。ナナミさんほどの”プレイヤー”なら、どこへいっても引く手あまたでしょうし」

「ん。考えとく」


 などと話しているうちに、私たちは”アビエニア城”の正門――、かつてアトラクションの入り口であった場所に到着します。

 アトラクションの終了から十数年経って、いまではすっかり寂れているだろうと思われたその場所は、なんと未だにちゃんとしたメンテナンスが行われてるみたい。

 それどころか、他のアトラクションよりもよっぽど住みやすく掃除が行き届いているようでした。



 私を先頭に、ナナミさん、明日香さん、美言ちゃん、綴里さんを殿とする陣形。

 念のため周囲を警戒しながら前進していると、


「はぁ――――――――――――――――――――――――――――――い!」


 と、元気いっぱいの挨拶と共に、一人の少女が落下してきました。

 空中でくるくる回転しつつ、着地は羽のようにふわりと重力を感じさせず。

 そうして彼女は、実に優雅な仕草でお辞儀をします。


「ごきげんよう! ヴィヴィアン・ガールズ!」

「おや」


 刀を半ばほど抜いた状態で向き直り、


「ドーモ、舞以さん」

「元気がないゾ! もう一度! ごきげんよう! ガールズ!」

「ええと……」

「元気が出るまで! 繰り返すよ! ごきげんようガールズ!」

「ごきげんようっ」

「ダメダメ! そこのシャイなちびっ子とメイドさんも!」


 私はもう十分だと思って、


「いやいや。さすがにそのテンション、ついてけませんって」

「うふふふふふふ」


 彼女、満面の笑みで誤魔化します。

 その表情からは、「何があってもキャラは崩さないぞ」という、謎のプロ意識のようなものを感じました。


「ところで、どうします? ここで私たち全員とやり合いますか? それとも、私たちと組んで、一緒に麗華さんをやっつけるか」

「勝負は……しない!」


 彼女の宣言に、我々はほっと安堵しました。

 さすがに彼女ほどの使い手と戦うとなると、こちらも無事では済みませんから。


「麗華直々のお達しでね。『友だち同士で血生臭いことはさせられない』ってさ!」


 む。

 その心遣いには感謝しますが、逆に不気味かも。


「……マジの殺し合いとなったら、舞以も揺れるからね。そうなると”不死隊”全体がぐらつく。それはさせられないってことでしょ」


 と、ナナミさん。


「うふふふふふふ」


 対する舞以さんは、反論に困ったら笑って誤魔化すやつ。

 付き合いの長いナナミさんにもそれがわかっているのか、苛立ち気味に訊ねます。


「で? 手伝う気もない、戦う気もない。……だったら、なんだって私たちの前に現れたのよ」

「それはもちろん……お城の案内に! なぜなら、迷うから! お城の中は複雑で、きっと迷ってしまうから!」


 あー。

 なんとなく、そういうノリで登場してきたなとは思ってましたけど。


 しかしその時ばかりは、私たち全員の意見は一致していました。


「いいえ。間に合ってます。さよなら」

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