その380 新たなスキルの作り方

 ”非現実の王国”待機組との定期連絡にて。

 夜久銀助さんは、通話中も煙草をすぱすぱ吸いながら、人の良いバリトンボイスで訊ねました。


『俺としたい話ってのはつまり、《正義の鉄槌》についてかい?』

「はい」


 トランシーバーごしに、私はこくりと頷きます。


「仲間のうちで、新しいスキルを作りだした人は夜久さんしかいませんので。情報共有を、と」

『そういやそうか』


 夜久銀助さん、無線の先でしばらく考え込んだ後、


『オーケイ。いいよ。でも、少々込み入った話になるから、念のためメモの用意をしておいたほうがいい』

「ご心配なく。こちらは準備万端です」


 もちろん、私の目の前には新品のメモ帳が開かれていました。

 ”プレイヤー”の仕様って、わりと複雑だったりしますからねー。


『よし。いいだろう』


 ということで、講義が始まります。


『まず大前提として、”新スキル作成”は”フェイズ3”になった直後に解禁された、”プレイヤー”の新たな能力だ……ということは知ってるね?』

「ええ」


 以前に夜久さんから聞いた、”フェイズ3”によって解禁された情報。

 ここに改めて再掲すると、



・強力な”敵性生命体”の活性化。

・各地に散らばっている”ゾンビ”が都心へ集結する。

・”潜伏”状態の”ゾンビ”の再活性化。

・”ゾンビ”は今後、”無限湧き”となる。

・”魔術制御”に関する詳細なチュートリアル。

・新しい”スキル”を習得する方法に関するチュートリアル。

・全てのプレイヤーは、実績“フェイズ2終了”を獲得する。

・全てのプレイヤーに”クエスト”が提示される。

・”クエスト”が提示されるタイミングは今後一ヶ月間のうちランダムなタイミング。



 だったはず。


『なら、この新たな能力を利用している者は、それほど多くないことを知っておいて欲しい。……というのも、新しくスキルを産み出すためには、それだけでいくつか、スキルを取得する権利を放棄することになるからだ』

「ゲーム的に言うと、追加でスキルポイントを使う必要がある、って感じかな」

『そうだな。スキルポイント……うん。俺も今後はその言葉を使う』


 手元のメモにペンを走らせつつ。


『”新スキル作成”の、大まかな流れはこうだ。

 ①すでに憶えているスキルAを選ぶ。

 ②もう一つ、スキルBを選ぶ。

 ③できあがる予定のスキルCに、任意で追加効果・使用条件などを付与する。

 ④合計で算出されたスキルポイントを支払う。

 これで新しいスキルCを取得することができるわけだ』

「へえ。わかりやすい」


 一からスキルを産み出すというより、既存のスキルを合体させるイメージなんですねー。


『ちなみに俺の場合、《正義の鉄槌》を作り出すのに《カルマ鑑定》と《騎士の鉄槌》を使った』


 《正義の鉄槌》って確か、相手のカルマを自動的に判定して攻撃するスキルでしたっけ。

 なるほど《カルマ鑑定》が融合した性能になってる気がします。


「追加のスキルポイントは、どれほど必要なんです?」

『正直、よくわからん』

「あら」

『俺も色々試してみたが、まだまだ研究不足なところがあってな。条件やスキルの組み合わせによってまったく変わってくるらしい。参考までに言うと、《正義の鉄槌》を作るのに必要だったスキルポイントは3だった』

「3……」


 ってことは夜久さん、合計で5つ分のスキル枠を犠牲にした、と。

 役に立つかどうかわからない新スキル1つと、すでに憶えている、手堅く使い道がはっきりしたスキルの天秤。そりゃリスク高いですねー。

 これまで、それらしきスキルを憶えてる人をあんまり見かけなかったのも頷けます。

 もちろん、私みたいにスキルポイントに余裕がある人は別ですけど。


『ついでに言うと、できあがったスキルに付与する効果は、かなり融通が利く。それこそ、アニメキャラクターの能力を再現することだってできるかもな』


 マジか。

 この年から目指せる邪眼の使い手があるってこと?


『とはいえ、これは”なんでもあり”ってわけじゃあない。例えば、”絶対無敵の剣術”とか、”見ただけで即死させる邪眼”みたいなスキルは、作りだそうとしても膨大なスキルポイントを必要とするだろう。事実上、憶えることができないくらいのね』


 しょぼん。

 とはいえ、これはある程度予想できたことでした。

 この世界はワンサイド・ゲームを好みません。一種のMMORPGのようなもので、強力なスキルを使うには、それ相応の代償が必要なのです。


『それと、俺が現状、把握しているヒントはもう1つある。

 「スキルの使用に何らかの条件や弱点があればあるほど、付与される効果は強力になる」ってことだ。

 これを利用して、俺の場合は、邪悪な行為を行った者であればあるほどに《正義の鉄槌》の攻撃力が大きくなるように設定した。代わりに、善人に対してはほとんどダメージが発生しないが』

「ケルト神話で言うところの、――禁忌ゲッシュ、みたいな?」


 英雄クー・フーリンは、「犬の肉を喰わない」などの誓約の代わりに神の祝福を得たと聞きます。


『まあ、それよかもっとわかりやすく、ポーカーや麻雀なんかの役と同じだ。あーいうのって、成立する条件が難しいほどに、点数が大きくなるだろ。嬢ちゃんもとっくの昔に気付いていると思うが、俺たちの力は何もかも、ゲーム的な理論を元に構築されてるってことさ』

「ふむふむ……」


 ここまではまあ、それほど難しいことはなかったかしら。

 あとは実際にいろいろ試してみるのみ、って感じ。


『それで嬢ちゃん。君は、どういうスキルを作るつもりだ?』

「知りたいですか?」

『相談には、乗る。だがさっき言った通り、新スキル作成はあまりコストパフォーマンスが良いとは言えない。俺は《正義の鉄槌》を気に入ってるが、実際に良いものが出来上がるかどうかは五分五分ってところだな』


 それでも、――ぶっちゃけ、そこに頼るしかないんですよね、私。

 何せ、いま私が選べる上位職って、いまいち使いにくいものばかりで。

 もし今後、ピンチになるときが来たら、役に立つのはこの”新スキル作成”だと思えたのです。


「そうですねぇ。いま私が考えているのは、――」

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