その337 二ツの陣営
まず私と犬咬くんは、《雷系魔法Ⅲ》で再び電灯をつけながら、一つ作業を済ませておくことにしました。
それは、当初の目的であった、――西エリアにあるエスカレーターの破壊です。
これは、”ゾンビ”をこれ以上三階に侵入させないためには絶対に必要な措置でした。
道中の会話は二人とも、自然と早口にて。
「”死霊術師”は、死者を”ゾンビ”化したり、強化することができるジョブなんだ」
「ほう」
「俺はもともと、千葉のディズニャーに向かっていてね。そこに”死霊術師”が潜んでいる、という情報を掴んでいたから……」
……ふむ。
つまり、ディズニャーには、
・《
・”ゾンビ”を操る”死霊術師”。
という、二人の”死者を蘇生するもの”がいた、と。
なお、麗華と”死霊術師”の関係は不明。
二人とこの”鏡の国”との関係も不明。
新しい事実を知ったせいで、むしろ謎が深まった感じ。
ふーむ、ややこしい。
「ただ一つだけ確かなのは、その”死霊術師”というのが間違いなく敵ってことですね」
「はい……」
とはいえ、相関図が更新されました。
以下、私の脳内メモより抜粋。
▼
【勇者陣営】
”勇者”……善のカルマを極めた人。《不死》スキルにより”魔王”が生きている限り死なないらしい。今のところ、犬咬くんがそれっぽい。けど、以前会ったことのある數多光音さんはどこに?
”贋作使い”……ジョブは”商人”。女性。それ以外は謎。とりあえず”勇者”の味方みたい。
ポチ……以前、”贋作使い”の手先だとか言ってた男の子。
【魔王陣営】
”魔王”……悪のカルマを極めた人。《不死》スキルにより”勇者”が生きている限り死なないらしい。どんな人かは不明です。
”飢人”……身体に”ゾンビ”の血を取り込んだ”プレイヤー”たち。どうも以前の人格はほとんど無視されて、強制的に”魔王”の味方になっちゃうっぽい。
”死霊術師”……”ゾンビ”を操ってるやべーやつ。
▼
と、こんな感じ。
そこに、”守護”やら百花さんやらアキバの”王”など、中立っぽい人たちもたくさん絡んでいるっぽくて。
うーん。ややこしい(二度目)。
「迂闊でした。まさか浜田の奴、”死霊術師”と繋がっていたとは」
何やら独り言めいて悔やんでいる犬咬くんを放置して、私は四カ所あるエスカレーター全てに《必殺剣Ⅴ》を使います。
先ほど同様、エスカレーターは簡単に分断され、あっという間に使い物にならなくなりました。
ついでに三階にある非常階段にも《必殺剣Ⅴ》。
ダイナマイトを放り込まれたみたいに粉砕された階段は、もはや”ゾンビ”の役には立ちますまい。
「これでこっち側は安心ですね」
「ええ、たぶん。恐らくは……」
………。
なーんかこの人、煮え切らないなあ。
どうも隠しごとがある感じ、というか。
「ねえ、犬咬くん。もし、”死霊術師”についてまだ何か隠していることがあるなら……」
「いや、それはない、ですよ。俺だって当事者って訳じゃないし」
ぬ?
「当事者じゃないとは、どういう……」
「あ、いえ。……それより俺、思うんだけど、――”名無し”さんって、走る”ゾンビ”についてどう思います?」
あまりにも下手くそな誤魔化し方に少し苦笑しますが、一応、乗っかります。
細かい話は後でいいでしょう。
今は状況を切り抜けることに集中しなくては。
「走るって、――いや、そんなの見たことないですけども」
”ゾンビ”といえばよろよろ歩きと、相場が決まっています。
もちろん、映画の世界ではどうか知りませんが。
「なるほど……そういうことかっ」
「?」
「見てください、”名無し”さん!」
犬咬くんの指さす方向を見ると、……そこはやはり、”ゾンビ”でぎっしり渋滞しているのですが……。
「ありゃ」
どうも、”ゾンビ”たちの目の色が、変わっていました。
暗闇の中、ルビーのように赤く目を輝かせた彼らは、明らかにこれまでとは立ち姿が異なっているように思えたのです。
『ヴェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
その鳴き声すら、それまでと違って元気いっぱい。
というか、なんならこいつら、簡単なコミュニケーションができてるっぽい感じさえしました。
目を見張りながらそれを見ていると、――”ゾンビ”の一匹が、明らかに私に向けて人差し指を向けています。
するとどうでしょう。
地獄の亡者たちを思わせる彼らが、もの凄い勢いで突撃してきて、一階と二階を繋ぐ柱をよじ登ろうと集まってきたのです。
「ウワッ」
幸い、大理石でできたつるつるの柱には捕まることができなかったため、”ゾンビ”たちがこちらまで昇ってくることはありませんでしたが……正直、背筋がゾッと寒くなりました。
「難易度ハードモードって感じっすね……これ、ぜったいヤバい」
ゲーマーっぽい感想を述べるや否や、犬咬くんが走り出します。
「俺、三階の二人を回収して、屋上、目指します。”名無し”さんはもう一人のあの、可愛い人……”踊り子”さんを!」
私が頷くと、その時でした。
地鳴りを思わせる”ゾンビ”たちの絶叫が、”鏡の国”全体に響き渡ったのは。
死者の軍団の侵攻が始まったのです。
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