その308 久々の実績報酬

 土埃が収まるまでの間、私と蘭ちゃんは、二人して実績報酬アイテムの確認を行っています。

 そーいえば実績とるのって、なにげに記憶喪失になってから初めてですねー。

 アイテムそのものはもっといろいろあったはずなんですが、ぜんぶ雅ヶ丘のマンションに置いてきちゃったからなぁ。


 ま。なにはともあれ。

 幻聴さんかもん。


――実績”被害総額:十億円”の報酬を選んで下さい。


――1、”マジック・ポケット(重量制限有)”

――2、”携帯型マイホーム(お試し版)”

――3、”脱出スイッチ(使用制限有)”


 ふむ。

 例のあの、マンガのパロディのパターンのやつね。

 しかし…………なんでしょう、この…………()内の「ここから先は有料版をお使いください」とでも言わんばかりの感じは。


――“マジック・ポケット(重量制限有)”は、服にくっつけることで効果を発揮し、10キロまでの荷物を収納することができます。

――“携帯型マイホーム(お試し版)”は小型の家を模したミニチュアです。底面にスイッチがあり、これを押すことで巨大化、風呂トイレ完備の2階建てマイホームが出現します。

――“脱出スイッチ(使用制限有)”は、使うことで世界のどこかに繋がる扉が出現します。ただし移動先はランダムです。


「ほうほう……」

「これ、どれもいいですねえ! かさばらなさそうやし」


 そういえば綴里さんが、”マジック・ポケット”について話してたことがありましたね。たぶん彼女も同じ実績をクリアしていたということでしょう。


 んじゃ、もう一つのやつを。


――実績”被害総額:百億円”の報酬を選んで下さい。


――1、”マジック・ポケット”

――2、”携帯型マイホーム”

――3、”脱出スイッチ”


 なるほど、こんどはわかりやすい。

 さっきのやつに対して、こっちは”有料版”といったところか。


――“マジック・ポケット”は、服にくっつけることで効果を発揮し、1000キロまでの荷物を収納することができます。

――“携帯型マイホーム”は小型の家を模したミニチュアです。底面にスイッチがあり、これを押すことで巨大化、風呂トイレ完備の2階建てマイホームが出現します。なお、マイホームは玄関にあるチャイムを押すことで再び小型化します。

――“脱出スイッチ”は、使うことで世界のどこかに繋がる扉が出現します。移動先はランダムですが、あらゆる”敵性生命体”から五十キロ以上離れた安全地帯であることを保証します。


「へえー。どれも、めちゃくちゃ使いやすそう」


 さすが、そこそこ条件が難しいだけはあります。

 ”マジック・ポケット”は汎用性に長けていますし、”携帯型マイホーム”があれば長旅も安心でしょう。


「う、う、ウチ、マイホームにしようっと! ずーっと夢だったんです。自分だけの部屋!」

「ここで出すんですか? 戻って仲間と相談してからでも……」

「だめだめ! 相談なんかしたら、にいやんに取られてまうし」

「へえ」


 兄妹で育つと、そういう考え方になるのかな。

 結局蘭さんは、“マジック・ポケット(重量制限有)”と”携帯型マイホーム”を取得することに。

 すると中空に、真っ白な袋状の布と、玩具にしか見えない家の模型が出現しました。


「やったー! 帰ったらみんなに自慢しようっと!」

「……使うとしても、安全が確保されてからしてくださいね」

「わかってますやん♪」


 蘭ちゃんも結構、我慢のできない子ですねぇ。

 お年玉とか、すぐ使っちゃうタイプと見た。


 早速”マジック・ポケット”を右ポッケにくっつけて、”マイホーム”をその中に放り込みます。


 こうしてみていると、――ちょっとうらやましい気もします、が……。

 まあ、私の選択は、最初から決まっていました。

 ”脱出スイッチ”。これでしょう。

 これを、――佐々木先生とかそこら辺の人に渡しておけば、万が一のことがあった時も、雅ヶ丘の避難民だけは助かるでしょうし。移転先が良いところなら、そこに移住してしまっても良いかも知れません。


 ってわけで、今回の実績報酬アイテムの取得は保留ってことで。



「さて。――そろそろ、状況も落ち着いたことですし、ナナミさんたちと合流しましょうか」

「うちらの荷物、瓦礫とかに潰されてないでしょうか?」

「彼女たちも馬鹿じゃありませんし、それはきっと、大丈夫でしょう」


 特に”踊り子”の舞以さんは、素早さ特化のスキル構成だったと記憶しています。

 彼女の身体能力から逆算しても、逃げる余裕は十二分にあるはずでした。


「せやったら、ええんですけど……」


 そう言って二人、ビルから下を覗き込みます。

 土煙の晴れた東京タワー(壊)近辺は今、人っ子一人見えません。

 二人とも、うまく避難……できたのかな?


 と、思いきや、瓦礫の中から、ぼこり、と、何かが動くのが見えます。

 あれ? なんで……? と思っていると、その何かが、ぷくーっと膨らんでいきました。

 そこで私は、それがどうやら真っ赤な風船らしいことに気付きます。


「なんでしょ、あれ……?」


 私が首を傾げていると、蘭ちゃんが目を剥きます。


「あっ、あ、あれうち、知ってる! 《風船爆弾》ですよ!」

「なにそれ」

「”遊び人”のスキルです! ”名無し”さん、伏せてください……っ」


 彼女がそう警告した時には、すでに風船は爆発していました。


 ばあん!

 

 という、先ほどの東京タワー倒壊に比べればささやかな印象の破裂音がして、風船の中身が四方八方に飛び散ります。

 私はその一つの軌道を冷静に目で追って……ぱしっと受け止めました。


 風船の中身はどうやら、ぐにゃぐにゃにひん曲がった鉄釘の類だったみたい。


「んー……? これ、どういう……?」


 私が首を傾げていると、何かと何かが激突する音が階下から聞こえています。


「ありゃ。……これ……」


 状況はまだよくわかりませんが、戦闘が起こってるみたい。

 しかも、多分ですけどこれ、――戦ってるのは……。


 ”踊り子”の舞以さんと、”遊び人”のナナミさんですよね。

 人がのんびりしとる間に、何を喧嘩しとるンや、あの二人。

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