その301 英雄との対話
結局その日は、なんとなくトールさんに引っ張り回される感じになって、最終的にはウエスタン・エリアの”カウボーイ・キッチン”でハンバーガーをごちそうになったりしました。
残念ながら”守護”として働いているその他の”プレイヤー”と会う機会には恵まれませんでしたが、人一倍明るいトールさんのお陰で、退屈するようなことはなく。
この時に彼女とした、だらだらな長話は割愛します。
そのうち語ることがあるかも知れませんが、――まあ、端的に説明すると、
「私たちホントに、こんなところでボンヤリしてていいんでしょうか?」
「ダイジョブダイジョブ!」
「今も死にかけてる人がいるかもしれないのに」
「キユーだよ、キユー! 目に見エテナイことまで気にスンナヨ、ハゲるゼ!」
「もっと根本的に、事件を解決する方法があるのかも」
「イマ、ソレガ思いツカナイんダカラ、シャーナイシャーナイ!」
「この先、私、うまくやっていけるんでしょうか?」
「シラネーヨ! でも元気よくヤッテコーゼ!」
「もし、私の失敗で、仲間が傷つくようなことがあったら……」
「ソレヨリ、フライドチキン喰おうゼ!」
だいたい、こんなやり取りの繰り返しでした。
彼女との対話で私は、ちょっとした毒抜きを受けた気分。
心の中でどんよりしていた陰鬱の雲が、吹き飛んでいった感じです。
彼女くらい前向きな性格の方が、長くやっていけるのでしょう。
マラソンを覚悟するのであれば、自分のキャパシティを正確に理解しておかなければ。
「……トールさんって、いかにも英雄って感じですね」
「ソーカ?」
「ええ。ちょっと強引なところとか」
「『うるせェ!! いこう!!(どんっ!)』……ってカンジ?」
「そうそう。ふふふっ。日本の漫画、お詳しいんですか」
「日本に留学シテル外国人は、ひゃくぱーせんと日本のアニメとマンガ好きヨ」
「ひゃくぱーって……それは言い過ぎでしょうに」
「いーや、まじまじ」
……と、まあ、そんな風に過ごしているうちに、日が傾いて。
ちょっと名残惜しく感じながらもトールさんに別れを告げて、いつもの就寝用ブースに戻り、綴里さん、明日香ちゃん、美言ちゃんと四人で晩ごはんに出かけ、動画チャンネルの調子を確認し、明日の予定を話し合って、手を合わせて「ごちそうさま」して、その足でシャワー室に向かい、順番待ちの間に乾燥機付き洗濯機で明日使う服を洗って、その日はちょっと奮発して温水シャワーを浴びて、ほかほかになりながら洗濯物を取りだし、それを丁寧に畳んだあと、”語り姫”さんのTRPGリプレイ動画を眺めているうちに自然と眠たくなって、――ふと気がつけば、すっかり夜が明けていました。
根津ナナミさんとの約束は、たしか朝の八時にカートゥーン・エリア内にあるアトラクション、ニャッキーの家、でしたよね。
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その日ばかりは、体力温存のために日課の素振りを止め、一応、いつもの冷水シャワーだけ浴びてから軽く魔力を補給、そしてカートゥーン・エリアへと向かいます。
私がニャッキーの家に到着すると、すでに何人かの人だかりができていて、その中心には二人の女性がいました。
一人は、根津ナナミさん。
そしてもう一人は、――門番を務めていたあの子。”踊り子”の人です。
――ちなみにあいつも”不死隊”の一員だぜ。
昨日、”賭博師”さんから聞いた情報が、さっそく役に立ちそうですね。
二人はなんだか、軽装の私とは対照的に、かなりの重装備。
マスクをとって「お、オマエ、じつは女だったのか……(キュン)」みたいな展開やれそう。
”踊り子”さんは、こちらを視認するや否や、ぴょんぴょんと跳ねるような足取りでやってきます。
「あらあら! ごきげんよう、”名無し”ちゃん!」
そしてこちらが「どうもこんにちは」する前に、
「元気がないなあ! ごきげんよーう! ”名無し”ちゃーん!」
「アッハイ。ごきげんよう……」
「うふふふふふふふふふふふふふ」
相変わらず、微妙に波長の合わないノリだなぁ。
「以前は名乗らなかったよね。私、舞以。”踊り子”の
それに応えて、こちらも名乗ろうとすると、
「で、こっちはクロネコのジジ! 『にゃーん』(腹話術)」
奇術めいて、ポケットから子猫のお人形が飛び出しました。
「………………」
「アッハッハッハッハ! なーんちゃって!」
うわ。このテンションに一日付き合うとかこれ、地獄だぞ。
「えっと。……もう全員、おそろいで?」
「まだだよん。蘭ちゃんがまだ」
「蘭……というと、”守護”の七裂蘭さん?」
「そうそれ。顔見知り?」
「ええ」
「ま、それも当然か! ”カウボーイ・キッチン”の看板娘だもんね!」
あ、そうなんだ。
なんでも話によると、七裂兄妹の作る料理は絶品と評判なのだとか。
そういえば私も、里留くんの作るもんじゃ焼きをご馳走になったことがあります。
もんじゃよりお好み焼き派の私も、あのワザマエには参った……。
しばし、その場で歓談していると、少し遅れて、
「すいませぇええええええええええええええん、お待たせしましたぁ!」
と、駆け足で蘭さんが現れます。
久々に顔を合わせた私たちは、――ほぼ同時に、表情を硬直させました。
ピッチリシャツに、ホットパンツ。
蘭ちゃんと私の服装は、鏡で映したように、完璧に同じものであったためです。
同時に、舞以さんが弾けるように笑いました。
「アハハハハハハハ! なにこれ、双子みたいっ」
対する私たち二人は、苦い顔を作ります。
トールさん、――さては、仕込みやがったな、あんにゃろう。
まったく。
とんだ英雄もいたものです。
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