その286 チュウオウの街

 最初の街には、それから間もなくして到着します。

 我ら仲良し(笑)豚さんチームに対し、街の人々はフリー素材の使い回しと思しき人間タイプ。デザインに統制が取れてない感じはご愛敬です。


「へぇー! でも、結構作り込まれてますねえ。インディーズとは思えない」

「まあアイツ、”終末”より前は、暇つぶしのゲーム制作しかやることなかったみたいだからな……」


 それでも、こうして人を楽しませるために手を尽くせるというのは実に尊いことです。


『ようこそ! チュウオウの街へ!』


 ここがゲーム世界の中央ってことね。

 ニコニコ笑顔で出迎えてくれるのは、いかにもNPCっぽいおじさんでした。


『おや、仲良しと評判の豚さんたち! 今日はどうしたんだい? いつものように女を買いに来たのか?』


 そこで選択肢。『はい』と『いいえ』。

 ナニを応えさせとるんや、このNPC。

 今度ばかりは全員が『いいえ』を選択すると、


『え? じゃあなんで……ああ! あの、王様のお触れを見たのか! はっはっは! 君たちみたいに醜い豚人ポークマンが、あの美しいお姫様を手に入れるなんて、無理な話さ! たとえ助け出すことに成功しても、結婚なんて許されないよ! だって不細工なんだもの!』


 と、なんだか笑われてしまう始末。

 ちょっと嫌な予感がして……それからすぐに、”賭博師”さんが呟きました。


「このゴミはオレサマが殺る。タマ、手伝え」


 それからのコンビネーションは、大したモノです。タマちゃんと”賭博師”さん、二人してその男を引っつかみ、草むらまで追い込んだかと思うと、あっという間に彼を刺し殺してしまいました。

 その際、村人が口にした台詞は、以下のものです。


『おう!』『ぎゃあ!』『げえ!』『痛い!』『どうした?』『なにをする?』『わあ!』『うぎゃあ!』『やめてくれ!』『金なら払う!』『殺さないでくれ!』『靴を嘗める!』『死にたくない!』『そうだ娘を嫁にやろう!』『助けてくれ!』『の、の、の、呪われろぉおおおおおお!』


 なんでこのNPC、こんなに台詞のバリエーションが豊かなの?


「よし。これでオレサマもレベル上がったぞ。……ただ、持ってるアイテムはゴミだけだったが」


 め、メチャクチャだ、この人たち。

 いや、ゲーム的にこれが可能だと言うことは、むしろこれこそが正攻法なのかもしれません。

 どっちにしろ、トイレをスッポンとするやつしか手持ちにない私には、このやり方そのものが不可能なのですが……。


黄豚「や、やってしまった。……人殺しを……」

白豚「なんということを……」

赤豚「こ、この場合はしょうがないですよ!」

青豚「…………ククク………すぐヤミツキになる」


「よーし。稼いだ金で、旅の準備しよう。……んで、西の砦に突撃だ」


 そして私たちは、ずらずらと四人伴って、武器屋と思しき建物に向かいます。

 そこでわかったこと。

 どうやらこの『ポークマンズ・クエスト』においては、武器・防具の変更はできないみたい。

 どの武器を手に取ってみても、『人間用なので、装備できない』という表示が出るだけなのです。

 同じく、私が装備している”ラバーカップ”を”鉄の剣”に変更することもできないようでした。

 ゲームを有利に進めるためには、あくまで子豚たちのレベルを上昇させる他にはないみたい。

 それともう一つ。

 どうも私のキャラクター、仲間に対して太鼓持ちのような台詞を口にするたびに、”幸福度”なるゲージがごりごりと削れていくようです。

 するとどうでしょう。私の画面はどんどんセピア色に色あせていって、視界も狭く、キャラの移動速度も下がっていくではありませんか。アクションゲームにおいてこれは致命的です。


 どうも赤豚くん、時々仲間に嫌がらせをしないことには正気を保てないようで。


「ねえ、”賭博師”さん」

「どうした?」

「この”幸福度”なんですけど……気付きました?」

「ああ。……どうやらこのゲーム、”幸福度”が鍵になりそうだな」

「じゃ、そっちも」

「うん。かなりまずい。私のキャラは、悪事を働くと大きくマイナスされるらしい」

「ですね」

「それに、キャラごとにちゃんと個性もあるようだな。台詞を読む感じ、青色は人殺しに抵抗がなさそうだったり」


 それは知ってた。


「でも、どうやったらこの”幸福度”が上がるんでしょうか」

「そりゃあ……まあ。ヒントはさっき殺したオッサンが言ってたぜ」

「?」

「女を抱くのさ。”豚人ポークマン”はもれなく、それが大好きでしょうがないらしいからな」


 わあ……マジか。

 人殺しのストレスは、女を買って癒やすとか。

 これまた、ひどくチビッコの教育に悪い……。


「しかしまあ、一応、ファンシーな豚さんたちのすることですし、そのへんはうまーくぼかしてくれる、でしょう」


 数分後、私の期待は完璧に裏切られることになります。


 ”チュウオウの街”の娼館は、たぶん海外の3Dゲームで使われるMODデータからパクってきたと思しき、とてつもなく巨大な乳のギャル達がズラリと並ぶ空間であったためでした。


『ハロー、子豚チャンタチ! スキスキヨ!』

『ファ○クミー! フ○ックミー!』

『スゴク激シク、ダンススルヨ!』

『犯罪行為ニ、手ヲ染メチャオ☆』


 現実世界に存在した場合、恐らくまともな二足歩行すらままならぬであろう彼女たちは、体積の三分の一ほどを占める二つの乳をばゆんばゆんと揺らしながら、私たちに微笑みかけました。


「……アノヤロー、こんどあったら説教してやる」


 ぼやく”賭博師”さんのキャラから順番に、娼館へと入店していきます。

 そこにいたのは、妙にリアルなタッチの老婆。

 彼女は『イマ、パコパコデキルノハ、コヤツラ!』という謎のカタカナ語でしゃべりつつ、四人の女の子を提示しました。

 その女の子の容姿はあまりにもロコツで、『美人、普通、普通、お岩さん』の四択。

 幸福度の上昇率も、美人>普通>お岩と差があるようです。


「だんだんわかってきましたね……」

「ああ」

「このゲーム、……誰かしら必ず、損な役回りを選ばなくちゃいけないようになってるんですよ」


 ”ゲームマスター”は、このゲームのテーマを”友情と、その崩壊”と言っていました。

 つまりこの『ポークマンズ・クエスト』には、仲間割れを誘発する要素が大量に潜んでいる、ということです。


「ねえ、”賭博師”さん」

「なんだ」

「こんどその”ダンジョンマスター”に会ったら、一緒にぶん殴りません?」

「いいねえ」


 応える彼女は、苦笑交じりでした。

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