その283 ゲーム#1

「えーっと、……ちょっとまってくれよ。確かここに……あー、あったあった」


 そう言いながら”賭博師”さんが引っ張り出したのは、一枚のディスク。

 その表面にはただ、“ゲーム#1”とだけ書かれています。


「これこれ、これをずっとオメーとやりたかったんだよ」

「それは?」

「このきたねえ字、覚えてるだろ? ――”ダンジョンマスター”が出してきたあれさ。”♯4”があるなら他のもあるだろってんで、アイツからもらってきたんだ」

「ほほう」

「ちなみに、オレサマはこのゲームをこれまで一度もプレイしたことがない。完全初見ってやつだ。……だが”ダンジョンマスター”曰く、『”♯1”は地獄の鬼畜ゲー』らしい。血が沸くねえ」

「へえ」

「”♯4”もたいがい、ひどい内容だったなあ。……未だに思い出すよ。ゲーム中、オメーがどういう顔で遊んでたか」


 やばい。話題についていけない。


「せっかくだし、今日はこれで遊ぼう。思い出話に花開かせたりしてさ」

「思い出話って」


 私は視線を逸らしました。


「あんまり身内で盛り上がっちゃあ、そのー……視聴者さん? が、つまらないでしょ」

「今回は日間ランキング狙いとか、あんまりそーいうつもり、ないんだけど」

「稼げないのは困ります。――こっちには蘇生待ちの仲間がいますので」

「ああ……それな」


 ”賭博師”さん、そこで少し気まずい表情を作って、


「ところで、聞かないのかい」

「え?」

「オレサマが、――まだ、お前の友だちを蘇生できていない理由、さ」

「あー……ああ、あの件、ね。わかる。わかりみある」


 私は言葉を濁しました。

 やべえその話、初耳かも。

 恋河内百花さんが羽喰彩葉ちゃんという方を蘇生しようとしている、――という話は聞いた覚えがありますが……。


「なぜです?」

「撮影の後に教えるよ」

「えっ、それ引っ張る理由、あります?」

「オレサマの視聴者は目が肥えてんだ。もやもやした頭で撮影したとして、すぐに見抜かれちまう」

「なるほど」

「ただ、一つだけ確約させてもらうと、――オレサマはあの時の約束、忘れちゃいねえってことよ。ちゃんと前には進んでるつもりだ」


 なんやねん「あの時の約束」って。何の約束したんや、私。

 むしろ、もやもやが大きくなった気がするんですけど。


 ……いけないいけない。集中集中。


「ゲームは、ちょうど四人で遊ぶ。――タマと、そっちのツレにも参加してもらおう。ただ、マイクを置くのはオレサマと”名無し”のみとする」


 先ほど私が助けた少女、――タマちゃんと美言ちゃんの二人が、こくりと頷きます。二人とも寡黙なタイプっぽいので、声に関しては大丈夫かな。


「ちなみに美言ちゃん、ゲームの経験は……?」

「そこそこ」


 応える彼女の顔からは、どのような感情も読み取れません。

 ……まあ考えてみたら、お人形一つ与えられなかった家で、ゲーム機がもらえるはず、ないか。

 こんど、マンガとか3DSとか買ってあげよう。少しは彼女のささくれだった心に癒やしをもたらすかもしれませんし。


「ところで、”名無し”よう」

「?」

「はじめるまえに一つ、賭けをしないか」

「……”賭博師”相手に、ギャンブルする気にはなれませんよ」

「ペテンはやらない。《幸運》はオフにした。単純にゲームの腕の勝負だ」

「ふむ……」


 まあ、それなら。


「ゲーム実況ってのは、へんに勝ちを譲られたりしたら冷めちまうからなあ。やるからには本気。”魂”を賭けるくらいの勝負じゃなくちゃ」

「”魂”、ですか」


 なんか、どっかのマンガのキャラが言いそうな台詞です。


「それで、だ。……もしオレサマたちが勝ったら、さっきの作戦、改めて試してみたい。いいかい」

「さっきの、って……」

「オレサマとタマ、どっちかの頭をぶち抜いて、その上で麗華に蘇生を申請するってやつさ」

「それは……言ったじゃないですか。あまりにも無謀だって」

「それでも、――約束を果たすには、やらなくちゃいけない。タマだって今は、納得してオレサマに付いてくれてる」


 見ると、ふりふりのドレスを身にまとった少女は、真顔でこくりと頷きました。

 私は顔をしかめて、童女にしか見えないこの二人組が、自分の命を疎かにしている現状を憂います。


「賭に出るには、まだ手を尽くしていないでしょうに」

「賭に出るのは、オレサマが生まれついての性分でね」


 ……まったく。


「では、――いいでしょう」

「よしきた」

「ただし、もし私が負けたとき、死ぬのはタマちゃんじゃありません」

「?」


 私は、ぽんと自分の胸に手を当てて、


。私が、麗華さんが住む城の内部を調べてくることにします」

「……ほう」


 ”賭博師”さんの口元が、不敵に歪みます。


「さすがオレサマの見込んだ女だ! カンペキにどうかしてる!」

「やかましい」


 なんとなく……この人と私が以前、どういう関係だったかわかってきた、かも。


「ただし、私が勝った時は……」

「わかってるって! 大人しくしてるさ」


 良かった。

 こっちには、こっちの予定がありますからね。


「文字通り、命がけのゲームってことか。……いいねえ! なんだか楽しくなってきたぞ」

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