その284 ポークマンズ・クエスト
”賭博師”さんが普段、ゲーム実況を撮影しているというそのスタジオは、――”理想のゲーム部屋”をそのまま形にしたような空間でした。
壁際の棚には、恐らくあちこちから集めてきた各種ゲーム機が並べられており、それだけでちょっとした博物館が開けそうなラインナップ。
もちろん別室の倉庫には、所狭しと各種ゲームソフトが並んでいます。
四方を防音材で囲い、ばんばんに空調を効かせたスタジオ中央には、ローカルエリアネットワークで接続されたハイスペックPCが四台。
そのそれぞれに、Xbox360の有線式コントローラーが接続されていました。
「ゲームはすでにインストールしておいた。おっぱじめようぜ」
「はい」
私たちはそれぞれの椅子に座って、各機材の調整を行います。
コントローラーを手に取ると、柄にもなく心臓がどきどきし始めていました。
蘇ることがわかっているとはいえ、――まさか、自分の命をかけることになるとは。
……いや、不安そうな顔になってはいけない。
藍月美言ちゃんに、かっこいいお姉さんであるところを見せなければ。
ゲームを起動すると、
『よくここまでたどり着いたな。
これが、“マスターダンジョン”における最後の試練となる。
本作がロードされているということは、――君たちは恐らく四人組だということだろう。
この課題を選んだと言うことは、君たちはある意味では幸運で、またある意味では不運と呼べるかも知れない。
“ゲーム#1”は、私が創りだした作品の中では最も難しい課題だが、その報酬としてもらえる経験値は大きい。
ただし、――得られる経験値には、君たち四人の間で差をつけさせてもらう。
一位のプレイヤーには、通常得られる経験値の4倍を。二位には通常得られる半分の値を与えることとする。
そして三位のプレイヤーには、通常の0,002倍、四位には0,001倍の経験値を。
このゲームのテーマは、”友情と、その崩壊”。
心してとりかかり給え。』
という、意味深なメッセージが流れます。
「まあ、この辺の説明は、今のオレサマたちには関係ないけどな」
確かに。
ゆったりと流れゆく”ダンジョンマスター”のメッセージをスキップすると、壮大なBGMと共に『ポークマンズ・クエスト』というゲームタイトルが表示されました。
すでに設定済みのプレイヤー情報を読み込んで、――私、トラ子さん、ミコトちゃん、タマちゃんのキャラクターが決まります。
キャラクターはどれも似たようなデザインで、……共通項は、三頭身にデフォルメされた子豚さんである、ということ。
どうやらこの、四色の鎧で色分けされた彼らが『ポークマンズ・クエスト』の主人公みたい。
それぞれ、
赤(私)、
黄(トラ子)
青(美言)
白(タマ)
……の、キャラが決定されると、しゃきーん! という剣を抜く効果音と共に、ゲームが始まりました。
▼
『昔々、あるところに、それはそれは仲良しと評判の子豚たちがおりました。
そんな子豚四匹はある日、国の王様のお触れを耳にします。
――邪悪な狼族の手の者に、我が国の美姫四人が攫われた。攫われた姫を救い出した者を姫の婿と認め、王位継承権を与えることとする。
これを聞いた子豚たちは、我こそが、と大発憤。
冒険の旅へ出る決意を固めるのでした。』
▼
そして、四色の鎧を身にまとった子豚たちの冒険がはじまります。
ゲームは『モンスターハンター』などでよく見られる、見下ろし視点の3Dアクション系みたい。
インディーズのゲームにしてはよくできていて、操作感も悪くなく、BGMも牧歌的な雰囲気です。
スタート地点は子豚たちの住む小屋で、私たちが操作する四匹が集まっている状態でした。
”賭博師”さんの合図があって、ゲーム実況の録音・録画が始まります。
「はい、……つーわけで今日は、アキバからもらってきたシロート制作のゲームを実況していくこととするッ! 事前に告知した通り、今回は、――みんなの救世主……」
ちらっと、彼女が視線を送ってきます。
私は顔面を硬直させながら、
「え、えっと。どうも。”名無しのJK”です。よろしく」
「おうおう、硬いなあ! いつも通り、下ネタ全開で行こう!」
「ちょっと待って下さいよ。私、下ネタはあんまり……」
「ほらほら、うんこって言ってみろ。うんこって!」
「ちょっと、あの」
「うんこうんこー! HAHAHAHA!」
はやくもこの人の配信のノリについていけそうにないんですけど。
私はやむなく、
「そ、それじゃあ、……う、う、う、うん……」
「ところでこのゲーム、まず何から始めりゃいいんだ!?」
「最後まで言わせないんかいっ!!」
”賭博師”さん、――元からそういう才能があったのかもしれませんが、実況初心者である私をリードする形でゲームを進行していきます。
彼女の仕切りに任せているうちに、私もだんだんリラックスし始めてきました。
とりあえず、私たち四人はゲームの操作を確認し、……次の目標をチェックしていきます。
どうやらこのゲーム、わかりやすい目標めいたものは存在せず、我々は今、ゲームの世界にぽんと放り出されてしまったような状態。
「とりあえずは、――オレサマがリーダー役ってことで」
「よろしくお願いします」
「じゃ、さっそく武器を選んでいこう」
私たちの目の前にあるテーブルの上には、ずらりと四種類の武器が並べられていました。
剣、槍、短剣、トイレが詰まったときに使うスッポンとするやつ(正式名称:ラバーカップ)。
四種の武器の隣には、注意書きが一つ、添えられてあります。
どうやら最初に選んだ装備は、最後まで使い続ける必要がある、とのこと。
「……なんか明らかに一つ、ハズレがありますけど」
「わからんぞ。案外、こういうのって大器晩成型の装備だったりする」
「確かに」
たまねぎ剣士しかり、コイキングしかり。ゲームあるあるですね。
「じゃ、ここは公平にじゃんけんで決めるか」
「はい」
そしてみんなで、じゃんけんぽん。一瞬にして負ける私。
結果として決まったのは、
赤(私)……トイレのスッポン。
黄(トラ子)……鉄の剣。
青(美言)……鉄の短剣。
白(タマ)……鉄の槍。
という具合。
「ん? ……剣を装備したら……なんだこれ。『あなたは子豚たちの責任者だ。君には他の四人に命令する権利がある。四人の財産は、あなたが管理するべきだろう』だってさ」
「へえ……」
選んだ装備か何かが条件で、キャラの
そして私が”賭博師”さんに続いてラバーカップを装備する、……と。
現れたメッセージは、以下のようなものでした。
『君は他の三人にいじめられている。
君がこの状況を脱するためには、どうにかして仲間を出し抜かなければならないだろう。
そしてできることなら、仲間たちに凄惨な復讐を果たし、攫われた姫を独り占めにしなくてはならない。
(注意)なおこの情報は、仲間には伝えない方が賢明である。』
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