その248 楽しませぬ者、喰うべからず
「ゆーちゅーばー……?」
もちろん、――一人の女子高生として、その職業を知らないわけではありません。
「動画を投稿して、その広告収入で生活してる人たちのこと……ですよね」
「うん」
”踊り子”さんはニッコリ笑って、
「ま、実際にYouTubeを利用するわけじゃないけどね! そーいう言い方が一番伝わりやすいと思ってさ!」
私は、彼女に促されるままスマホを受け取り、その電源を入れます。
やはり、アンテナは立っていないようですが……、
「あっ、Wi-Fi繋がるんですね、ここ」
「うん。それであなたたちは、最高の”楽しい”を送り届けるの!」
楽しい……ですか。
そして彼女は、暗記した説明文を読み上げるように、話を続けました。
「うpった動画は”グランデリニア”と”アビエニア”両国民がいつでも見ることができる!
アカウントごとの動画再生数と”いいね”によって、お給料が支払われる!
お給料によってみんなは、豊かな生活を!
それが私たち、――ヴィヴィアン・ガールズの暮らしなの!」
”楽しませぬ者、喰うべからず”とは、そういうことですか。
「……つまり、おっぱい配信で人を釣って大金持ち、みたいな?」
「エロはみんな、食傷気味かなー。それだと女性票を獲得できないし。同じくグロ系もね。だいたい、そーいうエゲツナイの、二度と観たくないから安全地帯まで来たわけだし!」
言われてみれば、ごもっとも。
そういえば、明日香さんから事前に聞かされてました。
倫理にもとる虐待が行われているわけではない、と。
「しかし、ずいぶんと享楽的な……。そんなことでコミュニティが成立しているのですか?」
「もっちろん!」
”踊り子”さん、ばちこーんとウインクをしてみせて、
「ま、その辺のアレコレは、……君らの場合、”実績報酬アイテム”って説明がわかりやすいかな!」
ふむ。
つまり、何らかの不思議な力で無理矢理成り立たせてるってことですか。
「ところで、ここの女王様は死人を生き返らせることができると聞いたのですが」
「ん。できるよぉ。この前も一人、生き返った人が現れたんじゃないかな!」
おや、そんなお手軽な感じで生き返るんでしょうか。
「っつっても”蘇り”は安くないけどね? よーっぽどウルトラすーぱーなヴィヴィアンになれれば、別だけど」
話を聞きながら、だんだん私が記憶を取り戻した後の動きが見えてきた気がします。
私は小さく嘆息して、
「気になることがもう一つ。……入国後、外に出るための条件は?」
「ええっ!」
”踊り子”さん、なんだかオーバーに驚いて見せて、
「入る前から、出るときの心配を!?」
「一応、ですよ」
「もし”アビエニア”が気に入らなくても、”グランデリニア”はわりと普通のコミュニティだからご安心、だよ!」
「それでも、念のため」
「マジで?」
「ええ」
「外は、お化けと怪物だらけでとってもあぶないのに?」
く……くどいぞ、この人。
「しかし万が一ということもありますし、――」
その言葉をぶった切るように、
「スマホの没収、アカウントの一時消去くらいかな? ”非現実の王国”は、その手の自由は侵害しない。だってそんなの、楽しくないもの!」
「は、はあ……」
なんだか振り回されっぱなしな感じがしますが、とりあえず納得します。
殺人犯が統べる王国と聞いたから、よっぽどイカレたところだと思い込んでいましたが、どうやら思い過ごしかな。
「では、入国します」
「ようこそ、ヴィヴィアン・ガールズ!」
同時に、四重に張り巡らされたバリケードが、順番に開いていきます。
最後の壁でもあった、鋼鉄の扉が開かれると、そこでようやく”アビエニア”が垣間見えました。
「さあ、ついてきて!」
”踊り子”さんに引っ張られ、最初の鉄扉をくぐると同時に、付近のスピーカーから音声が聞こえてきました。
なんだか、いかにも”女王様”って感じの荘厳な声で、
『よく来ましたね、ガールズ。
ここまできたあなたなら、すでにお気づきのことでしょう。
この世界から、――笑顔が消えようとしていることを。
人々から、明日への活力が失われつつあることを。
この国に、不幸が蔓延しつつあることを。
それは何故?
食べ物がないから。文明が崩壊したから。大切な人を失ったから。
それだけではありません。
”楽しい”が失われてしまったからなのです。
人はパンのみに生きるにあらず。
この世には、サーカスこそが必要なのです。
もうおわかりですね?
あなたは美しき泉の妖精、”ヴィヴィアン”。
今こそ、その知恵と癒やしの力を解き放ち、人々の、明日への糧となるのです。
さあ、胸を張っておゆきなさい。
この世界の命運は、他ならぬあなたが握っているのですから!』
…………。
なんか、誰かが演出したシナリオ通りに流されている感じがちょっと気にくわないのですが……。
まあ、いいでしょう。
そうして、”踊り子”さんを含めた私たち四人は、この巨大なテーマパークの敷地に足を踏み入れます。
私の知る”ディズニャーランド”はもはやこの世のどこにもなく、ここが”非現実の王国”と呼ばれる奇怪なところだと思い知らされたのは、その次の放送を聞いた時でした。
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