その198 三種の上位職
そうして私たちは、夜久さん対策を練り練り。
なお、決闘のルールは以下のものだそうです。
・勝負は一対三。
・私と綴里さんはあくまで補佐役。我々に対する直接攻撃はNG。
・使われるフィールドはサッカーコート一面分。
・凛音さん、あるいは夜久さんが行動不能になるかフィールドから外に出た瞬間に決闘終了。
・敗者は勝者に対して”従属”を行う。
・武器の持ち込みは不可。
・殺人行為はNG。
話によるとルールは佐々木先生によるウルトラC級のアクロバティックな説得により決定されたようで、なるほどかなりこちらに有利っぽい。
案外、夜久さんの人の良さにつけ込んだのかもしれません。
とはいえ現状、それに乗っかってようやく五分五分、といったところでしょうか。
「――ってわけだからさ。今回の主役はあたし。二人はあくまで、支援に徹してくれたらオッケー」
ぽよんとデカいおっぱいを指さして、凛音さんは自慢げにそう言います。
私はこう思いました。この物体、戦闘中に邪魔にならなければいいな、と。
「情報をまとめると――凛音さんがいま使える手札は、」
「《格闘技術(上級)》、《自然治癒(強)》、《皮膚強化》、《火系魔法Ⅱ》、《水系魔法Ⅱ》、《雷系魔法Ⅰ》、……それと《性技(初級)》です」
なるほどね。
「これをプレイヤーのレベルに直すと、13、……いや12相当になるでしょう。《性技》は今回、まったく役に立たないので」
「それって高い方なんですか?」
「いいえ、決して。……むしろかなり弱い、と言えるでしょう」
綴里さんは、あくまで淡々と応えます。
「ちなみに、これ以上凛音さんを強化する方法はないのですか?」
「……一応、一つだけあります」
「なんです?」
「以前の戦い、――”王”を殺したことで、私もかなりレベルが上がったのです。それにより、より上位職へのクラスチェンジが可能になっています」
「ほほう?」
一応すでに、”プレイヤー”周りのアレコレは予習済み。クラスチェンジというゲームめいたワードに戸惑うことはありません。
いちいち疑問符を投げかけていては、話のテンポが悪くなりますからねぇ。
「選択肢そのものは、――三種、あります」
ほう。三つも。
「”食人鬼”、”奴隷商人”、”解放者”。……それが、今私に提示されている新たなジョブになります」
えっ、ちょっとまって。
「しょく……?」
「”食人鬼”です」
「それ、そもそも職業じゃなくない?」
「そう言われましても……」
いやまあ、ドラクエにも”ドラゴン”とかいう謎職業あったりしましたが。
「……”食人鬼”にはどうやら、おいしく人間をいただけるよう、心と体を変質されるスキルが豊富にあるようですね」
「うへ。何それ」
「まあ、どう考えてもこれはさすがに却下です。検討する必要すらないでしょう」
ですね。さすがに。
となると選ぶべきは後者二つのうちどちらかになりますが。
「今のあなたのジョブは……”奴隷使い”でしたっけ」
「はい」
なんでそんなインモラルな響きのするジョブ選んじゃったんでしょう、この子。
「”奴隷使い”と”奴隷商人”だと、なんかほとんど同じに聞こえるけどねぇ?」
「はい。実際、取得できるジョブの内容も”奴隷使い”の上位互換、といった感じです。また、必要であれば”奴隷”を他プレイヤーに譲渡することも可能になる、とか」
「ふむ」
「ですが、その……上位系の職で覚えられる一部のスキルは、何らかのデメリットが存在するようです」
「具体的には?」
「”奴隷商人”によって覚えられるスキルには、使役している”奴隷”たちの自我を奪うタイプのものがあるようですね」
「ほう?」
「”奴隷使い”はあくまで、”奴隷”とある程度の信頼関係を築かなければ成り立たないジョブでした。しかし”奴隷商人”は、その関係性がなくとも戦えるジョブだということです」
「……ふむ」
奴隷解放宣言から百五十年以上経ち、現代社会を生きる者であれば誰しも感じるであろうもやもやが、私の胸に生まれています。
とはいえそれも、――この”終末”世界においては甘々な考え方なのかもしれませんけど。
「もう一つの……”解放者”というのは?」
「”解放者”はある意味、”奴隷使い”の天敵とも言えるかも知れません。このジョブは、すでに奴隷化された人を”解放奴隷”へと変質させるようです」
「”解放”……?」
「詳しくはわかりませんが、自我があるまま”奴隷”を強化したい場合は”解放者”という選択肢になるようですね」
「ふむ」
じゃ、それでいいじゃん。
「ただし、もちろんこれにもデメリットがあります。
まず一つ。これまで使えていた”奴隷”との念話が使えなくなるということ。
もう一つ。”解放者”は”解放奴隷”の行動に制約を課すようなことはできません。そのため、裏切り者が出たとしても、その者に下せる罰がない」
「裏切り者……に、なりそうな人、います?」
「いますね。とくに壱本芸大学を根城にしている連中は、確実に裏切るでしょう」
まじかー。
ややこしい選択を迫られるんですねぇ。クラスチェンジって。
「もしこういうことになるとわかっていれば、いろいろと事前に対処する方法もあったのですが……とにかくいまは、時間がない」
綴里さんは苦々しい嘆息を吐いて、
「もちろん、現状維持という選択肢もあります。しかし……」
「そのままでは夜久さんに負けてしまう可能性が高くなってしまう、と」
「おっしゃるとおりでございます」
フーム。
JK三人がする朝の議題にしては、あまりにも重い。
何ごとにも決断が早い凛音さんですら、「うむむ」と苦い顔を作る始末。
「よーするに、新しい力を得るには何かしら代償を支払う必要があるってことか」
「どうします?」
正直、決断は彼女自身に任せる他にない気がしました。
最初に言ったとおり、――今回の主役は、彼女なのですから。
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