その149  六人の”プレイヤー”

「みんな、喜べ。新しい仲間だ!」


 ”地下一階”の『冒険者の宿』に着くやいなや、両馬さんが嬉しそうに叫びます。

 そこにいたのは、五人の男女。

 どうやら皆、食事の最中だったようで。


「あらあら!」「……どもっす……」「はじめましてぇ」「うっす」「お、新入りか」


 彼らの外見的特徴をさくさくっとまとめますと、

 中年のおばさん(天然パーマ)、

 根暗な感じの中学生男子、

 ギャル(金髪)、

 ギャル(茶髪)、

 ギャル(黒髪ロングストレート)。


 ……ギャル率高くない?

 なんか、髪の色以外で見分ける要素が少なくて、ちょっと困るんですけど。

 三人とも、服装まで似た感じですし。

 まあ、女子の仲良しグループではよくあること……なのかな?


「失礼ですが、みなさんを《スキル鑑定》しても?」


 一応訊ねると、五人はそれぞれ顔を見合わせた後、


「へえ、そんなマニアックなスキル取ったんだぁ」


 と、ギャル(金髪)。


「マニアック? ……《スキル鑑定》が?」

「うん。だってあたしたちの中で、そのスキル持ってる人、いないよー?」


 どのスキルを選ぶかは人それぞれなので、なんとも言えませんが……。


「結構有用なスキルですよ? 自分と相手の力量差を把握できますし」

「そうかなー?」


 ギャル(金髪)は、何やらふむふむと考えこんでいます。

 彼女なりに、何か思うところがあるのかもしれません。

 そこで、


「ま、別に構わへんよ。どーせ仲間や、隠すもんでもなし」

 

 大阪弁の中年女性の許可を頂いたので、スキルを確認していきます。


 ………………結論。

 全員、よくここまで来れたな、って感じ。

 大阪のおばちゃんと中学生男子はかろうじてレベル30以上ですけど、ギャル勢に到ってはレベル20にも達していません。13とか14とか、そんなん。

 『レベル=その“プレイヤー”の強さ』でないことは、ここまでの経験である程度わかっていますが……さすがにこの低さはどうなんでしょう。

 なんとコメントすべきか迷っていると、


「オメーら、ハナクソみてーに弱ぇな」


 ”賭博師”さんの率直な性格に乾杯。


「あははは~。あたしら、ほとんどリョーマくんとイッチに引っ付いてきただけだからねぇ~」


 イッチというのはどうやら、根暗な中学生男子のことを指すようで。

 名を挙げられると、イッチ君は不敵な笑みを浮かべました。


「まあ、……ね(ドヤァ)」


 うむむ。

 中学生男子とは思えぬ貫禄。

 これが守るべき人がいる者特有の自信、というやつなのでしょうか。


「ところでおねーさん、いまどれくらいゴールド持ってんの?」

「ゴールド?」


 首を傾げたのは、何故それを彼らに教えなくてはならないのか、よくわからなかったためです。


「鈍いなぁ。今後、おねーさんたちの食い扶持が増えるってことだから、これまで以上に狩りに出なきゃいけない。”地下一階”の”羽スライム”は、一匹当たりからもらえるゴールドが多い分、狩るのが大変なんだ」

「ああ、そういうことなら」


 現在、五十万ゴールドほどで……と、いいかけて。

 ”賭博師”さんが、そっと肩に手を置きました。


「心配ご無用。必要なゴールドは、自分たちで稼ぐ」


 そして、小声で私に、


「ここの連中と慣れ合うのはよそう」


 と、呟きます。


「”王”の一件を聞いちまった以上、オレたちは先を急がなきゃならない義務があるからな」


 ……両馬さんが好みとかなんとか言う割には、冷静でいてくれてるみたい。

 まあ、それも当然か。

 ”賭博師”さん、”ホビットの飲み薬”を飲んだ瞬間から、まともな恋愛は諦めているらしいので。


「オレたちはオレたちのやり方で“地下一階”をクリアする。だからオメーらも、あんまりオレたちに関わらないでくれ」


 一瞬、ギャル三人組の表情に白けたものが混じりましたが、両馬さんが満面の笑みで場をとりなしました。


「……もちろん、君たちのやり方を尊重する。だがこの階層、かなり厄介だよ」

「厄介、というと?」

「ここでは、雑魚モンスターとの遭遇率が異常に低くてね。一日中狩りに出ても、食事と宿代を差し引いたら、数ゴールドの黒字がやっとなんだ」


 ああ。

 そういう感じの。


「つまりみなさん……日々の生活費をまかなうのもやっとな訳で?」

「正直に言うと、そうだ」

「それならいっそ、遠征して“金スライム”を狩るとか」

「“金スライム”だって?」


 両馬さんは目を丸くして、


「そんなの、ここまでで数回しかお目にかかってないよ」


 あれ?

 と、少し首を傾げます。

 “金スライム”との遭遇率って、そんなに低かったっけ。

 ……もう“金スラ”とか、作業的に狩るだけの存在なので、感覚が麻痺まひしちゃってるんですよねー。

 “賭博師”さんが、小声で囁きます。


「オレサマには《幸運Ⅴ》があるからな。“金スライム”との通常遭遇率も、連中とはかなり違っているはずだ」


 ああ、そっか。

 考えてみれば私たちって、かなり楽して“ダンジョン”を攻略してきてるんですよね。

 荷物になるって理由で、雑魚スライムが出したゴールドとか平気で捨ててきちゃってますし。

 いやはや、相棒が“賭博師”さんで良かった。


「今のところは、みなさんの気持ちだけ受け取っておきます……。それではダメですか?」


 その後、両馬さんたちは少しだけ粘りましたが、すぐに納得してくれました。どうやら、わりと物わかりの良い方たちだったようで。助かります。


 と、いうことで。

 私たちはなるべく、お互いの活動に干渉しないことに決まったのでした。



『うん、それが正解♪』


 ”竹コース”の二人部屋にて。

 無線機で連絡をとった春菜さんは、はっきりとこう言います。


『あのグループ、――両馬と一貴いちたか(イッチ君の本名)ってヤツは悪くないんだけど、他があんまりなんだよねー☆』

「……だな。さすがにあいつらを仲間に入れるのは、リスクが高すぎる」


 しかし、戦いは数だよ姉貴?


『そりゃまー、基本的にはそうなんだけども☆ 今回、あなたたちに期待している仕事は“暗殺”だからねー♪』

「オレサマも、あまり仲間を増やさない方が賢明だと思う」

『特に、あの女子三人組は口が軽いからねぇ☆ 万一、あたしらの繋がりが”王”にバレると、計画を根本から見直さなくちゃいけなくなる♪』


 むむう。

 言われてみれば、そーかも。


 本当は、仲良く手を繋いでみんなでゴールインしたいところなんですけどねー(ゆとり世代的発想)。


「そんじゃ、今日の報告はそれくらいです」

『うん。……あっ、そうそう☆』

「なんです?」

『そろそろ二人とも、クリア後のことを考えた方がいいんじゃない?』

「クリア後……というと」

『“マスターダンジョン”をクリアした人には、けっこうデカい経験値が入るらしいから♪ “王”との戦いに備えて、覚える予定のスキルを整理しといてね☆』


 それは確かに、今のうち考えておくべきでしょう。

 縁さんの話を聞くに、外に出てから“王”の元へ向かうまで、あれこれ迷っている暇はなさそうですし。


『それと……クリア報酬についてもね?』

「クリア報酬?」

『手に入れた”情報”になかった? ”マスターダンジョン”をクリアしたら、強力な”実績”を解除する条件にもなるってこと☆』

「そんなんありましたっけ」


 私は、”賭博師”さんが書いた”情報”ノートをぺらぺらとめくります。

 すると、……確かにありました。


”情報その96”……”マスターダンジョン”をクリアすると、とある”実績”解除の条件を満たしたこととなる。


「……あー。……でもその、”特殊な実績”の内容がわからないのでは、決めようがありません」

『あれれ? “実績”の報酬について、詳しく書いてない?』

「書いてませんねぇ」

『ありゃ。……それじゃー、あたしがいた頃と内容変わってるのかも☆ ”情報”って、”王”の気分次第で自由に改訂できちゃうから♪』


 へー。


『なんか、”プレイヤー”ごとに”情報”が微妙に違ったりすることもあるらしいよ☆ 中には、“王”のメッセージめいたものまで入ってる場合もある、とか♪』

「まあ、そのへんの細かい話は置いとこうや。――それよりクリア報酬について教えてくれよ」


 ……“賭博師”さん、なんか声が上ずってません?


『“実績”の名前は、……えっと確か、”マスターダンジョンマスター”……だったカナ☆』



【春菜ちゃんの秘密情報】その……20くらい?(本人が雑な感じで情報をくれるので、カウントし忘れてました)


 ”マスターダンジョンマスター”の実績報酬アイテムは、


”火の指輪”……装着すると、強力な耐火属性を取得する。また、《火系魔法》による攻撃を受けると、ダメージを”攻撃力”に変換するようになる。

”水の指輪”……装着すると、水中呼吸が可能になる。また、《水系魔法》による攻撃を受けると、ダメージを”防御力”に変換するようになる。

”雷の指輪”……装着すると、雷を身にまとうようになり、自動的に周囲の敵を攻撃する。また、《雷系魔法》による攻撃を受けると、ダメージを”素早さ”に変換するようになる。


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