その131 “スライム”狩り

「それでは、さっそく”ダンジョン”攻略、と、洒落込みたい……のですが。もろもろ準備が必要そうですね」

「だな。まず、どの辺から揃える?」

「とりあえずなんでもいいので、剣を手に入れたく」

「ああ、そーいやオメー、《剣技》系のスキルが主力みたいだったからな」

「ええ」

「どーでもいいけどそれ、わりとレアスキルっぽいぞ。少なくともオレサマはまだ、他の《剣技》系のスキル持ちを見たことがない」


 得体のしれないスキルって意味では、”賭博師”さんの方が多い気がしますけどねー。


「じゃ、最初はアレだな。王道系RPGらしく、資金集めから始めるか」

「ですね」

「当面の目的は、”戦士”が使う剣の確保だ。”むらまさ”は無理にしても、せめて”はがねのつるぎ”くらいは手に入れておきたい」


 ”はがねのつるぎ”。

 『ドラクエ』シリーズにおいては、序盤の安牌アイテムとして有名ですが。

 さっき調べた感じだと、たしか価格は、180ゴールド……だったかな。

 頑張れば手が届く値段です。


「それに加えて、他にもいろいろと揃えたいものが」

「わかってる。……服、それに靴だな」

「ええ。女子として、いつまでもこの格好でいるのはちょっと……」


 私たちが今着ているのは、ちょっと力を込めれば簡単に引き裂かれてしまいそうなほどヤワな布の服。

 防御力的には、裸で歩いているのと大差ないでしょう。

 幸い、ボルタックさんの”雑貨屋”には、各種衣類の用意はあるようですし。


「それと、”情報”もできるかぎり買っておきたいですね」

「そうだな、それも必須だ」

「あと、地図を作るために、紙とペンを。当面の間はこの場所を拠点する覚悟で、生活費云々も計算に入れて、”ゴールド”を稼がねければ」

「たしかに」


 そこで”賭博師”さんは、遠いどこかを見ている目をして、


「あー、……やっぱ、先は長くなりそうだな」


 いやはや、まったく同感です。

 しかし、”マスターダンジョン”が私たちの心を折るためにあると考えられる以上、焦りは禁物。

 もし、私が敵ならば、必ずそこに落とし穴を用意するはずなので。


「不意打ちに備えて、しばらくは二人で”スライム”を狩りましょう。その後、最低限の準備が整い次第、”ダンジョン”の探索を始めます」

「よーし。わかった」



 “スライム”狩りは、そこそこ順調に進みました。

 私は《火系魔法》しか使えないため”赤スライム”を、バランス良く魔法系スキルを習得している”賭博師”さんは”黄スライム”と”青スライム”を担当し、ブヨブヨしたゼリー状の生命体を発見し次第、片っ端から仕留めていきます。

 ”スライム”は、基本的に《◯系魔法》の《Ⅱ》以上の攻撃を喰らえば一発で消滅するようにできているらしく、倒すのに苦労はしませんでした。

 ただ、物理的な攻撃はほとんど通じないらしく、狩りは魔法主体で行う必要がありましたが。


 その後、『冒険者の宿』周辺の”スライム”を狩り続けた結果、五時間ほどで272ゴールドを貯めることに成功します。


「ではでは、とりあえず衣装チェンジですね」

「だな」


 私たちは、早くもボロ布と化しつつある衣類を交換することに。


 早速いつものジャージ姿(さすがに“雅ヶ丘高校”指定のジャージではありませんが)に着替えた私は、手にいれたばかりの“はがねのつるぎ”を軽く振り回します。

 いつだったか、明日香さんにプレゼントした”てつのつるぎ”よりは洗練されていますが、それでもやはり、祖父の刀より数段切れ味が落ちる感じ。

 まあ、しばらくはこれで我慢しときますか。


「よっしゃ。……これで人心地ついたぞ」


 ”賭博師”さんは、なんか子供がカウボーイのコスプレしたみたいな格好に。

 西部劇でしか観たことがないようなテンガロン・ハットを被った彼女は、どこか満足気でした。


「この後、補給を終えたら、本格的な探索が始まる訳……ですが」

「どうした?」

「少々、気になることが」


 私は、テーブルの上にひろげていたノート(”スライム”狩りを始める前に手に入れていたもの)に注意を促します。

 そこには、この近辺の地図が書き記されていました。


「……“賭博師”さんって、迷路の必勝法をご存知ですか?」

「ああ、”左手法”ってやつだろ?」

「はい」


 この”左手法”というのは要するに、スタート地点から左側の壁にそって進んでいけば、やがてゴールにたどり着ける、というものです。


「ここ、たぶん”左手法”が通用しないようになってるみたいですね」

「……何?」

「どうやらこの”ダンジョン”、定期的に構造が変化するみたいです」

「あれ、そうだったっけ? 全然気づかなかった」

「気づかなくても無理はありません。『冒険者の宿』と『リスボーンポイント』近辺はほとんど道順が変わらないようなので。が、数十分も進むと、……ほら」


 これまでの道順をメモしていた箇所を指差し、


「行きにはなかったのに、帰りには存在する道を何度か見かけました。……この感じだと、『冒険者の宿』から離れれば離れるほど、構造の変化が激しくなっていくと考えたほうがいいでしょう」

「ええと……?」


 ”賭博師”さんはそれを、自分なりにわかりやすい言葉で表現しようと苦心した末、


「”不思議のダンジョン”シリーズみたいな感じ? あの、トルネコが主人公のやつ」


 ……この人も大概ゲーマーですね。


「あれよりもっと複雑です。なにせ、一度通った道まで変わってしまうわけですから。ひょっとするとこれ、クリアできるかどうかは、ほとんど運に頼るしかないのかもしれません」

「なにそれ。ちょっとクソゲー過ぎない?」


 これは、前の“プレイヤー”が一年以上かけてもクリアできなかったという話にも信ぴょう性が出てきましたねぇ。


「それでも……私たちは進まなければならない。そうでしょう?」



”情報その6”……”マスターダンジョン”は、常に形が変動している。そのため、先に進むためには、十分な準備が必要になる。


”情報その7”……”マスターダンジョン”には”帰還ポイント”が点在している。青白いクリスタル型の物体がそれで、触れると『冒険者の宿』まで戻ることができる。


”情報その8”……”マスターダンジョン”における”魔物”の強さは、その階層ごとにほぼ一定している。


”情報その9”……”魔物”にはそれぞれ、明確な弱点が設定されており、弱点を除く攻撃は無効化されたり、逆に”魔物”を活性化させてしまうパターンが多い。


”情報その10”……”マスターダンジョン”を進んでいくと、低確率でレアな”魔物”と遭遇することがある。レアな”魔物”は、”ゴールド”を多く持つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る