その98 必殺剣について。

 って訳で、私たちは手付かずの魔力供給所(またの名を、ごはんいっぱいプレイス)を確保することに。


 理想の場所は、拍子抜けするほど簡単に見つかりました。


 選ばれたのは、”ゾンビ”に囲まれた高架下のコミュニティからさほど離れていないファミマ。

 ”ゾンビ”がたむろしていたせいか、食料品はほとんど手付かずでした。

 しかも、屋根裏に登れば太陽光発電システムまで備え付けられているじゃありませんか。

 聞くところによると、最近ではこういうコンビニが増えてるみたいですね。

 ビバ・エコブーム。


「いいねぇ。こういうことがあるから、仕事は愉しい」


 ニヤリと笑みを浮かべつつ、紀夫さんが発電機を弄ります。たぶん、後で持ち帰るつもりでしょう。


「これなら、看板の明かりを点けることくらい難しくなかろう」


 うまく使えば、”ゾンビ”の注意を逸らすこともできるに違いありません。


 その後、そのコンビニの守りを固めることに。

 これに関しては、特に難しいこともなく。

 彩葉ちゃんの《怪力》スキルで、あちこちから車やら鉄柵やらを持ってきた結果、かなり頑強なバリケードが完成しました。


「……何度見ても、物理法則に反しているとしか思えないですねぇー……」


 これは、電柱をチョップ一発で叩き折った彩葉ちゃんを見た、明日香さんの感想。


「で、俺たちは何をするんです?」


 康介くんが訊ねます。


「調理を」


 私は端的に応えました。


「いっぱい食べても飽きない感じでお願いします」

「飽きない……ですか?」

「たぶん、ちょっとどうかしてるくらい食べ物を口に入れることになると思うので、よろしくお願いします」

「は、はあ……」


 これは、真摯な願いでした。

 ただただ、魔力の補給のためだけに物を口にいれることもできるでしょう。

 ですが、それではいずれ味にも飽きがきて、飲み込むのに時間がかかるようになってしまいます。そうなると、次から次へと襲い来る”ゾンビ”の群れに対処できなくなる可能性もありました。

 素早い補給と撃退。

 今回のミッションに求められているのは、それ。


 決して、「せっかくなら美味しいもの食べたい」という気持ちの現れではありません。

 ありません。


「大丈夫だセンパイ! 各種調味料はバッチリ用意済みだかんな!」


 林太郎くんの方はかなり乗り気で(まあ、彼は何事にも乗り気なのですが)、ずらりと並べた調味料を見せ付けてきます。


「先に言っときますけど、ファミレスでドリンクバー頼んだ時にやる悪ふざけみたいな調合とかは、マジで止めて下さいね。吐きますから」

「……? 言ってる意味がよくわからんけど、タバスコって、意外と何の料理にでも合うんだぜ! 俺、イタ飯屋に出かけたら、必ず一瓶は使うんだ!」


 むせるわ。


 林太郎くんから調味料を取り上げる理津子さん。


「……味の調整は、私がやります。林太郎は片っ端からお湯を作って」


 お願いしますよ、ほんと。


「あ、それと、甘いものばかり続けて出されても困ります。甘いのと辛いのを交互に。バランス良く」

「うす」

「あと私、猫舌なので、あんまりアツアツな料理もNG。ほどよく冷まして下さいね」

「了解です」

「さらに言うと、紫蘇しそが入ってるものが苦手です。そういうのは避けていただきたく」

「肝に銘じます」

「わさびは基本大丈夫ですけど、鼻にツーンとくるようなのは勘弁」

「万事お任せ下さい」


 私の注文を、いちいち生真面目に応えてくれる康介くん。ええ子や……。


 まあ、料理の献立でハシャイだ結果、全滅……、とか。

 そんな間抜けた死に方だけはしたくないってだけかもしれませんが。



 ……で。

 戦いに挑む前に、さくさくっとレベル上げ作業、済ませちゃいますか。


 今回は山程の”ゾンビ”を相手にしなければならない、とのことで、なるべく遠距離攻撃ができそうなスキルから順番に取っていくことにしました。

 って訳で、取得したスキルは、

 《必殺剣Ⅱ》、《必殺剣Ⅲ》、《必殺剣Ⅳ》、《必殺剣Ⅴ》、さらに”ゾンビ”との戦いに備えて、《火系魔法》のⅣとⅤ、ついでに《攻撃力》をⅢまでゲット。


 ってわけで、現在の私のスキルをまとめますと、


”流浪の戦士”

レベル:42

○基本スキル

《剣技(上級)》《パーフェクトメンテナンス》《必殺剣Ⅰ~Ⅴ》

《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》

《飢餓耐性(強)》

《スキル鑑定》

○魔法系スキル

《火系魔法Ⅰ~Ⅴ》

○ジョブ系スキル

《攻撃力Ⅲ》

《防御力Ⅴ》《鋼鉄の服》《イージスの盾》

《魔法抵抗Ⅱ》

《精霊使役Ⅰ》《精霊の気配Ⅰ》《フェアリー》

○共有スキル

《縮地Ⅰ》

《隷属》《奴隷使役Ⅴ》


 ……えっ?

 ”精霊使い”から”強奪”したスキルは今、どうなってるのかって?

 ふっふっふ。

 あれから、――びっくりするくらい音沙汰無しです。

 時々、「フェアリーちゃんおいでー!」っつって呼びかけたりはしてるんですけどね。


 ひょっとして私、取っても無意味なスキル取っちゃったのかな。


 ついでに、彩葉ちゃんのスキルもまとめときます。


”正義の格闘家”

レベル:35 

○基本スキル

《格闘技術(上級)》《必殺技Ⅰ~Ⅴ》

《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》

《飢餓耐性(強)》

○魔法系スキル

《火系魔法Ⅰ~Ⅲ》《雷系魔法Ⅰ~Ⅳ》

《治癒魔法Ⅰ~Ⅲ》

○ジョブ系スキル

《縮地Ⅴ》《鉄拳》

《怪力Ⅴ》《心眼》

《千里眼Ⅰ》

○共有スキル

《防御力Ⅰ》


 こんな具合。

 まあ、対”ゾンビ”としては申し分ないスキル構成じゃないかな、と。



 調理の方は仲間にお任せしつつ、試しに《必殺剣》の効果を全部確認していくことに。


 バリケードの外。

 周りに”ゾンビ”以外の人がいないことを確認して。


「――《必殺剣Ⅰ》」


 すると、刀が一瞬、金色に輝きました。

 試しに、そこらをお散歩していた”ゾンビ”を斬りつけると、見事な切れ味でバッサリ真っ二つになります。

 《エンチャント》の、一振りで効果が終了するバージョン、と考えればいいかな。

 こっちのほうがコスパ高いとか、そういうメリットがあるのかもしれませんが……これだと、ちょっと使いにくいかな?


 では次。


「――《必殺剣Ⅱ》」


 やっぱり刀が金色に輝きます。彩葉ちゃんの《必殺技》でも似たような現象が起こりますけど、これ、なんなんでしょう? なんかの、波動エネルギー的なサムシングでしょうか。

 とりあえず適当に素振りしてみると、ぎゅん、と、金色の刃が3倍ほどに伸びました。

 フムフム(メモメモ)。

 使うと、攻撃範囲が一時的に広がる技ってことでしょうね。

 ”ゾンビ”に囲まれた時には使えそうです。


 さらに次。どんどん行きますよ。


「――《必殺剣Ⅲ》」


 うーん?

 これはよくわかりませんね。

 刀が、ものすごい勢いでブレてるように見えます。

 試しに、そこら辺でぼんやり日向ぼっこを楽しんでいる”ゾンビ”さんを斬り付けると、


 どぐしゃぐしゅぐしゅずごばしゅどがっ。


「う、うわぁ……」


 見るも無残な結果に終わりました。

 ”ゾンビ”の肉体が、一瞬にして細切れになったのです。

 どうやら、一振りしただけで連続で剣撃を叩き込んだ感じになるスキルのようで。

 ……“ゾンビ”相手には少しオーバーキルですね。

 っていうか、戦闘が始まる前なのに、頭から返り血を浴びてしまいました。

 ああ……(鬱)。


 では次ー。


「――《必殺剣Ⅳ》♪」


 歌うように言うと、また、金色に輝くエネルギー的な何かが刀を包みます。

 ……ふむ?

 見たところ、《必殺剣Ⅰ》とそんな変わらない感じですが。

 とりあえず素振りをえいっ。


 びゅお!


 風を切る音と共に、刀からエネルギーが迸ります。

 エネルギーの塊は、数十メートルほど向こうにあるビルの壁面をずたずたに引き裂いた後、消失しました。

 おおっ。

 こういうのを待ってたんですよ!

 『ゼルダの伝説』で、ヒットポイント満タンのリンクが放つアレみたいなやつです。

 これで、刀による遠距離攻撃が可能になりました。

 勝ち確定ってやつですよ、これもう。


 個人的には今のでもう満足なのですが、せっかくですし、最後まで試してみますか。


「――《必殺剣Ⅴ》」


 するとどうでしょう。

 《必殺剣Ⅳ》の時とはひと味違った、……銀色の光? 波動? なんかそんな感じの、得体の知れない何かが刀を包み込みました。

 似たような効果の技ってことかな?

 あるいは、《必殺剣Ⅳ》の上位互換とか。


 ってことで、テキトーにビルへ向け、刀を横薙ぎに振るいます。

 ……すると。

 全く想定していない出来事が起こりました。


 ずッどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!


 ものすごい轟音と共にビルに衝撃が走り、その一部が倒壊。

 ゴジラがワンパンしたみたいな感じになります。


「な、なんだなんだ!」「どうした!」「いまの、センパイがやったの?」


 コンビニで細々とした作業を進めていたみんなが驚いて、ビルを見上げました。


「あっ、えーと、その……」


 アッチャーヤラカシター。

 今の音で、高架下に集まっていた”ゾンビ”の注目をもれなく集めたことは間違いなく。


「……こほん」


 咳払いを一つ。

 刀を高らかに掲げ、


「さあみなさん! 今こそ戦いの時です!」

「えっ、でも、もう少し暗くなってから始めるって……」

「状況は刻一刻と変わっていくものです! 奴らが来ますよ! さあ!」


 みんなの視線が冷たい。

 ですが、へこたれてもいられません。


「……遊んでる時間は終わりってことだ! さあ、来るぞっ」


 波のように押し寄せる”ゾンビ”の群れを前に、紀夫さんが叫びました。

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