その60 勝利。そして風呂。

――おめでとうございます! 実績”共闘”を獲得しました!

――おめでとうございます! 実績”人喰い虎の討伐”を獲得しました!

――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!

――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!

――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!

――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!


 恒例の「おめでとうございます」ラッシュ。


「うわー! なんか、すげえレベル上がったー!」


 彩葉ちゃんが歓声を上げます。

 どうやら”怪獣”からもらったダメージは、もう回復したようで。

 つくづく人間離れしてますね。私らって。


「さすがに、……今日はもう、なんにもする気になりませんね……」

「だなー!」

「お風呂入りたい……」

「うん、入ろう! あーしらヒーローだし、ちょっとくらい贅沢してもいいよね! あ、でもねーちゃん、ちゃんと身体洗ってから風呂入ってよな。血まみれだし。なんかすごいにおいがする」

「はぁい……」


 ふらふらの私たちは、彩葉ちゃんが根城にしていたというスーパーマーケットまで戻ります。

 そこは、多くの人が共同生活をするには狭苦しい感じでしたが、私達二人には広すぎました。

 がらんとした店内で、身綺麗にするための準備を進めます。

 「一人暮らし応援フェア」と題されたコーナーの一画から浴槽を運んできた私たちは、調理場の排水口付近を陣取って、水を温めます。

 手慣れたもので、あっという間に浴槽一杯のお湯ができあがりました。

 しっかりと”怪獣”の返り血を落とした後、浴槽へどぼーん。


「ふう……」


 彩葉ちゃんが譲ってくれた一番風呂に入りつつ、本日の戦果を確認します。

 レベルアップによるスキル習得は”奴隷使い”との戦い(もう、今のうちから戦闘になる覚悟は固めておいた方が良さそうです)にとっておくとして。


 実績関係のアイテムも、そろそろ見ておきましょうか。

 旅先でアイテムを受け取っても持て余すことになりそうなので先送りにしていましたが、ここなら最悪、一時的な預かり所にできそうです。

 ではでは。


――実績”大食らい”の報酬を選んで下さい。

――1、捕食者の肉切り包丁

――2、捕食者の盾

――3、捕食者の鎧


――“捕食者の肉切り包丁”は、獣肉であればなんでも可食化できる包丁です。

――“捕食者の盾”は、人間の頭部を模した盾です。物を食べさせることで防御力が上昇します。

――“捕食者の鎧”は、重く、動きづらい鎧ですが、装着することでどのようなものでも食べられるようになります。


 はいびみょー。


「うーん……」

「どうかしたかー?」


 調理場の反対側で晩ごはんを作ってくれている彩葉ちゃんが声をかけます。


「彩葉ちゃん、”大食らい”って実績、取りました?」

「ん? ああ、捕食者がどうこうってやつ?」


 あ、経験者でしたか。


「それ、肉切り包丁のやつにした。腐った肉でも食えるようになるし、結構便利だよ」

「ほほう……」


 “雅ヶ丘高校”まで持ち帰れば使えそうですね。

 っていうかそれ以前に、”盾”と”鎧”は持ち運びしづらそうですし。


「包丁でー」


 すると、包帯でぐるぐる巻きにされた包丁がぽとり。

 とりあえず、持ち運びしやすそうなサイズで満足です。

 じゃ、次。


――実績”共闘”の報酬を選んで下さい。

――1、友情の指輪

――2、愛の指輪

――3、裏切りの指輪


――“友情の指輪”は、共闘相手のプレイヤーと同時に装着することで、お互いのスキルを一つずつ共有することができます。

――“愛の指輪”は、共闘相手のプレイヤーに装着してもらうことで、自分のスキルを二つ、譲渡することができます。

――“裏切りの指輪”は、装着することで、共闘相手のプレイヤーのスキルを一つ、強制的に奪い取ることができます。


 ふむ。


「……えっと。彩葉さん?」

「なんだー?」

「裏切らないって信じていいですか?」

「いいけどー?」

「信じましたよ?」

「なんだ急に?」

「実績選べばわかります」

「んー?」


 しばらくの間。


「あー、……そーいうことかぁ」


 そして、料理の手を一旦止めて、彩葉ちゃんはてってって、と、小走りに現れました。


「ほい、”友情の指輪”」


 きらりと輝く、青色のルビーが嵌めこまれた指輪。

 ってか、「ほい」って見せられても。

 私には、それが“友情の指輪”かどうかを見抜くすべはないんですけどね。

 ただ、まあ、彩葉ちゃんの性格は、この一日でなんとなくわかりましたし。

 これで裏切られたら、福本○行先生の世界です。


 おお、神よ。

 隣人は信頼に耐えうると、信じさせて頂きたく。今だけは。


 ”友情の指輪”を選び、出現した指輪を小指にはめます。


 ざわ・・・


――”正義の格闘家”と共有するスキルを選択して下さい。


 おお。

 ……ってか、まあ、信じてましたけどね。

 本当ですよ?


「そんじゃ。……なにか欲しいスキル、あります?」


 話し合いの末、私たちは、《防御力Ⅰ》と《縮地Ⅰ》を共有することに。

 できれば《防御力Ⅳ》をあげたかったんですが、下位互換が存在するスキルの場合、共有できるのは最低レベルのスキルだけみたいでした。


 では、最後の実績を。


――実績”人喰い虎の討伐”の報酬を選んで下さい。

――1、虎狩りの証

――2、虎のマスク

――3、虎のマント


――“虎狩りの証”は、装着することで、自分より弱いネコ科の生命体を畏怖させることができるバッヂです。

――“虎のマスク”は、頭に被ることで《格闘技術》系のスキルが強化され、組技に特化した戦法が可能になります。

――“虎のマント”は、装着することで他者に威圧感を与えます。ただし、この効果はプレイヤーを除きます。


 いらない(確信)。


 いまさら《格闘技術》を取ろうとは思いませんからねー。

 強いて言うなら、持ち運びの際、かさばりにくい、“虎狩りの証”ってやつでしょうか。

 ただこれ、装着するだけで猫に嫌われるとか。

 ひたすら損なだけでは。


 ただ、《格闘技術》を取得している彩葉ちゃん的には、“虎のマスク”は悪くないアイテムなのではないでしょうか。四六時中マスク被ってるとか、ちょっとバカっぽいですけど。

 そんな風に思っていると、


「ねーちゃん! 見てくれ! このマントすげーカッコいいぞ!」


 虎柄のマントを身にまとった少女が、見せびらかしに来ました。


「えっ。彩葉ちゃん、”虎のマント”を選んだんですか?」

「うん! だってマントって、ちょっとヒーローっぽいじゃん!」


 ……まあ、何取ろうと、その人の自由ですけどね。


「でもそれ、『他者に威圧感を与え』るそうですけど。私はともかく、あんまり知らない人を怖がらせちゃダメですよ」

「わかってるってー」


 からから笑いながら、彩葉ちゃんが応えます。

 ため息混じりに湯船から上がって、バスローブを身にまといつつ。


「そんじゃ。――彩葉ちゃん、お風呂から上がったら、晩ごはんにしましょうか」

「おっけー」


 ではでは。今晩のご飯は……。

 そう考えていると、


「あのーう……」


 か細い、怯えたような声が、調理場に響きました。


「すいませーん。誰かー?」

「あーっ!」


 彩葉ちゃんが飛び上がります。


「里中おばさん!」


 現れたのは、少し肥った中年のおばさん。


「生きてたのか!」

「いろはちゃん!」


 里中と呼ばれた女性が、満面の笑みで少女を抱きしめます。

 それをぼんやりと見守る、風呂あがりの私。

 察するに、彩葉ちゃんが助けた避難民の一人とか、そういう感じでしょうね。


「良かった! 良かったぁ……!」

「やっぱり。いろはちゃんは簡単には死なないって、おばさん信じてたのよぉ……」


 彩葉ちゃんが、自分の頭ほどもある里中さんの豊満な胸に、顔を埋めます。


 降って湧いたような感動の再会。


 ……あっ。あの娘、”虎のマント”つけっぱなし。


 とか。

 そういう無粋なツッコミはしない方向で。


 二人は、ずっと、ずっと、抱き合っていました。


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