小さな問題

@strider

小さな問題

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序章 白昼夢

 床に見知らぬ少女が転がっている。

 ランドセルが似合いそうな年代の少女。

 どうやら死んでいるらしい。

 だが、そんなことよりも、今は眠くてたまらない。 


 ときどき、いやにリアルな夢を見ることがある。

 妙な現実感があって、感覚も冴え渡っている。そんな夢だ。

 夢の中なのに痛みを感じたり、匂いをぎ分けたりできることもある。

 だから、きっとこれは夢なのだろう。

 それにしてもリアルだ。少女を見るたびに、つい感心してしまう。

 陶器とうきのように白くつやのある肌には、柔らかそうな産毛うぶげが生えている。

 髪の毛はシルクみたいになめらかで、窓から吹き込む風を受けてゆるやかに揺れている。

 まるで人形のような少女だ。しかし、やけに生々しい。

 少女の下半身には、青黒いあざがある。ひざの辺りが赤くれてふくらんでいる。腹部には破裂したようなあとがあり、ドロドロした粘っこい血液が流れ出している。

 手を伸ばして少女をすってみた。

 少女の体は冷たくて、ゴムタイヤのように硬かった。作り物めいた少女だ。出来のいい人形なのかも知れない。もしそうだとすると、ずいぶん趣味の悪い人形だ。歯形やら爪あとやら、体中が傷だらけだ。スプラッター映画の撮影にでも使っていたのだろうか?

 少し強めの風が吹き込んできた。

 カーテンがたなびき、夕日が部屋に差し込んできた。

 少女の体が赤色に染まった。

 青白い肌が赤く染まると、少女はまるで生きているようだった。

 赤みの差した頬。目と鼻が近い幼い顔立ち。可愛らしい少女にしばらく見蕩みとれた。絵画的な美しさだった。

 不意に、甘い匂いが香ってきた。ミルクのような匂いだった。どうやら少女の体から漂ってきているらしい。

 甘い匂いを嗅いでいるうちに、猛烈もうれつな眠気が襲ってきた。

 これが夢なのか、それとも現実なのか、そんなことはどうでもいい。とにかく眠りたい。まぶたが重たくなってくる。まばたきの間隔かんかくが長くなる。浅い眠りと緩やかな覚醒を繰り返しているような状態だ。

 遠くからサイレンの音が近づいてくる。

 そのときだった。目の前で横たわっていた少女が音もなく立ち上がった。

 真っ赤な少女は開きっぱなしの窓へと駆けた。軽い足取りで、ふわりと浮かぶように、窓の外へと飛び出していく。

 やはりこれは夢のようだ。それなのに、意識がだんだんと薄れていく。

 やがて、真っ暗な闇が周囲を包んだ。

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