すべては店長のために編⑩

それからしばらくして、若くて体育会系の社員が数名入ってきた。

店長も気に入り、彼らも店長に取り入るのが上手だった。あっというまに、班長をすっとばし、主任の地位を与えた。僕はあっというまに、追いやられた。

短いお山の大将だった。店長とも距離を置き、細々と仕事していた。


そして長い事勤めていた女の子が退社する事になった。その女の子に呼び出される。

「ずっと原田君なら、わかってくれると思ってたんよ。これ、読んでほしい。」

ある紙を僕に手渡し、辞めていった。


その紙は入社したときに全員に渡される接客マニュアル。僕ももらったが、じっくり読まず捨ててしまった。

そのマニュアルのタイトルは、

「すべてはお客様のために」

そのタイトルを女の子は塗りつぶし、こんなタイトルにしていた。


「すべては店長のために」


さらにその中の内容も全て書き換えられていた。

「お客様を良く見ましょう、お客様のしてほしい事を考えましょう。」

     ↓

「店長を良く見ましょう、店長のしてほしい事を考えましょう。」


「お客様の望む事をしましょう。お客様があなたを評価してくれます。」

     ↓

「店長の望む事をしましょう。店長があなたを評価してくれます。」


読んで僕は思わず吹き出してしまった。

そして、もう一度じっくり読んで。


・・・・涙がでてきた。

俺ら、なにやってるんや?

その通り、店長の望むことしかしてきてない。お客さんの喜ぶことなんて、何一つしてきてない。


不況の時でも、どんな時でも、札を握りしめ、少ないお金、使ってくれる。

あのおばあちゃん、このおじさん。

その人達の力で、お店は営業できてるねや!

それでもアホな俺らは、店長が偉い。店長が全てやと。刷り込み刷り込み毎日毎日、


自分らでつぶし合って、ののしりあって、大切な接客マニュアル読みもせんと、それを見ていた女性スタッフに書き換えられたんや。


すべては店長のために。


その通り、それを作り上げたのは俺ら。

一番大切なお客さんを忘れて、一番偉いお客さんを置き去りにして。

何が遅刻、欠勤や。

班長や!主任や!しょーもない!!


そのマニュアル読んで涙が出てきて、こみ上げてくる感情をどうにもできず。


数日後、店長に伝えた。

「俺、辞めます。」


「はあ?何言ってるねん、主任にまでなって!」


「もう一度、1からやり直したいです。」


「こんな大きなパチンコチェーン店の主任にまでなってんぞ?全部捨てるんか?アホか?」


「僕には大したことないことです。」


「やめてどうするねや?」


「まず、・・・・パチンコしたいです!」


「・・・・はあ?????アホか?」


「パチンコして、この店、お客さん大事にしてるわ!そう思った店で働きたいと思います。」


「何を言うてるのや!お前の言うてること、何一つわからんわ!!」


そして、四件目のパチンコ屋を去りました。


そして、パチンコ打ちに行き、ここはお客さん大事にしてる!

そんなお店を見つけ、アルバイトしました。

そこで、社員になりました。


そのお店に・・・・・


今でも

僕は、

働いています!!


すべては!お客様のために!


長らく愛読ありがとうございました!


最終回です!m(__)m

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