すべては店長のために編⑧
その日、深夜から僕は38度以上熱が出て下がらなかった。
明日は早番!しかも日曜日!お客さんも多数増える日。ましてや班長の僕が欠勤などできない。
救急病院に駆け込み、
「点滴でもなんでもして、熱を下げて下さい!」
と頼み込んだ。
朝方まで点滴を打ってもらい、なんとか熱は下がった。そのまま一睡もせずに店に行き鍵をあけ、事務所に入ると、電話が鳴る。今日早番の従業員からだ。
「今日熱があるんで、休ませてください。」
なに?俺だって熱があるのに?
ふざけんなよ。
しかし強制するわけにもいかず、「わかった。」と言って電話を切った。その切った後からすぐまた電話がなる。
違う従業員からだ。
「今日体調が悪いんです。休ませてください。」
なに!!ふざけんな!
「今日日曜日やで!すでに1人もう休みやねん!何とかして来られへんか?」
「無理です。」
無情にも電話は切られた。
その日は日曜日。朝からすぐ100人近くのお客さんが来店した。
スタッフは、僕ともう1人のみ、主任が早くに駆けつけてくれた。
さらには店長もすぐホールに出てくれた。
しかしピークでお客さんは200人を超えた。店長を含む4人では多勢に無勢だった。
お客さんはランプ対応の遅さに怒りまくり、怒鳴りまくり、ドル箱を投げつけた。
僕は食事休憩もとれず、働いた。
気が付くとズボンが濡れていた。
汗か?
違う。・・・失禁していた。
トイレにも行けない状況で働いていた。でもそれも体の熱ですぐ乾いた。
早番が終わるまでは、今日の早番が終わるまで耐えなければ・・・
そして早番終了の17時、主任が僕の肩をポンと叩き、こう言った。
「遅番でも1人、欠勤出たんや!残れるか?」
僕は、その場に崩れ落ちた・・・
そのあとの事はよく覚えていない。
閉店までぶっ通しで働き、同じように汗だくになった店長と二人で事務所にへたり込んでいた。
店長が言う。
「な?仕事に穴あける奴、許せんやろ?」
「・・・はい。」
「なんで真面目に時間守って出勤してる人間が、苦しまないとあかんねん?って思うやろ?」
「・・・・はい。」
「遅刻する奴は、クズやろ?憎いやろ?」
「はい。憎いです。」
・・・憎い。・・・憎い。
「欠勤する奴は、殺してやりたいやろ?」
・・・殺す。殺してやりたい。
「そんな奴、謝ってきたって、頭下げたって、この苦しみはわからんねんで?じゃあどうする?」
「残業させます。」
店長は僕の考えてる事をすっかり見透かしていた。
「最もなりたくなかった、あんな上司に。そんな上司の顔に、今、お前、なってるで。」
完全に僕は、ダークサイドに・・・堕ちた。
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