知りすぎていた男編⑩

男は言った。

「あんたは若くて真面目でまっすぐやけど、爪が甘いな。

パチンコ屋の店員が、一部の親しい客とこんな喫茶店におるとこ見られてみい?

なんも教えてなくも、あいつ教えてるって噂が立つかもしれん。

火のない所に煙が立つかもしれんのやで?」


そうか、この場所に呼び出されたことも、少し罠を仕掛けられていたのか。

でも、僕も負けなかった。


「好きなように噂広めたらいいじゃないですか?教えてないもんわ、教えてないです。自分のコーヒー代もちゃんと払いますから!」


そう言ってポケットを探る。小銭しかなかった。

コーヒー代の小銭を喫茶店の机の上に置きながら、どうしてもどうしてもこいつらに言いたい事があった。


「・・・Nは僕の友達なんですよ。

・・・あんたらがNに、何をしたか。

・・・僕が知らないはずないじゃないですか。」


「!!!」


小銭を並べながら、Nの事を思い出していた。


「あいつ、アホでしたけどね。友達なんですよ。一緒に仕事しながら、お互い遅刻せんように起こし合ったりね。

将来どっちが先に班長なるか?

なんてアホみたいに競い合ったりね・・・」


Nの事を思い出し、ポロポロ涙が零れてきた。

机に並べた小銭の上にも、僕の涙の雫が落ちた。

だけど、僕は止まらなかった。


「子供産まれたばっかりやったんですよ?

金なんて、欲しいに決まってるやないですか?

自分らだけいい思いして、スロット出して儲けて。

なんで真面目に仕事してる男が、こんな目に合わないといけないんですか?」


男達はもう、何も答えなかった。


「あいつ、こんな事がなかったら、今でもあの店でアホみたいに、僕とホール走りまわってたんですよ。

・・・・こんな事がなければ、」


そして僕は最後の小銭の十円玉を、涙まじりに、思いっきり机に叩きつけた。


「・・・・あんたらに!!


食い潰されへんかったらね!!」


そして、僕は勢いよく、喫茶店を飛び出した。


どうしても、どうしても、涙が止まらなかった・・・

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