知りすぎていた男編⑧

その日の仕事が終わり、男達が待つ喫茶店に一人で行った。

何を言われたところで、脅されない自信があったからだ。


「いやー。お笑い芸人しながらパチンコ屋の店員大変やなー。最近テレビ出てる奴面白ないからな。君、応援してるで!」


親身に言葉巧みに切り出してきたが、そんな事これっぽっちも信じなかった。


「それで話って何なんですか?」


「ぶっちゃけ言うわ、・・・出る台、教えて!」


さっきの芸人の話と、何の関連性もなく、ぶっちゃけやがった。


「そんなんわかりませんよ。」


「またまた!あんたはNから聞いてどう思ってるのか知らんけど、スロットの高設定わかってたって、勝たれへんねんで!この前なんて教えてもらった高設定台座って、三万負けたんやで!」


「そんなん他のお客さんは高設定台知らんと、三万負けてはる方だっていますよ!なんぼでも。」


「きちんと、勝った時は、君にもお礼するがな。」


「だから、わかりませんて!」


男はサングラスを外して、にこやかに笑って言った。


「わしも昔は、パチンコ屋の店員やったんや。大変な仕事や。客から出ーへん、負けただの怒られて、ドル箱投げつけられて。朝は早いし夜は遅い。休みは少ないし給料は安い。せやろ?」


「・・・・」


「ましてや、お笑い芸人やりながら?凄いやないか!尊敬するわ!だから君を応援してるんや!」


言葉巧みなように見えて、

ちょいちょい、僕が芸人やってる事を持ち出してくるが、


俺のネタ見たことあるんか?

どこの事務所所属して、どんな活動してんのか、知ってんのか?

そもそもどんな芸人か、知ってるんか?


ただ、単にお笑い芸人やってるから、その事を突いて、話のわかる人間のフリをしてるだけじゃないか!

逆に、そんな時だけ、芸人芸人芸人と言われるために、

芸人やってるんじゃない!!


少しずつムカついていた。

自分の拳をずっと握りしめていた。

しかし相手が親身に話かけてくるので、しばらく黙って聞いていた。


「なあ、出る台、少しはわかるんやろ?」


・・・そろそろ、この話に終わりを告げてやらなければならない。


「そんなもの、知りたくもないですね!」


僕ははっきりそう言った・・・・

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