店長を呼べ!編⑤

お客さんとの水かけ論が続き、僕がたまりかねていた頃、


当時のその店の主任が現れた。

主任は年齢にして、50歳ちょっと。

その年配の方とも、結構な顔見知りのようだった。


「おっちゃーーん!ごめーーん!!」


主任は現れるなり、そのお客さんにへばりつくように謝りだした。


「どないなっとんねん!この店は!」


お客さんはその主任にも怒ったが、明らかに僕の時と怒るトーンが違う。


「いやー。ほんま。これは、ひどいな!」


主任はお客さんと同調したように、喋りだす。


「最近の機械はこんなんばっかりやねーん!」


懇願するようにお客さんに話しかける。

お客さんは怒っているのだが、少しずつトーンが落ち着いてくる。


「ほんまええかげんにしとかなあかんで!」


「いやー。ほんま。ごめんなー。」


「一回でも当たってくれな、イカサマやで!」


「いやー。一回も当たらん時あるねん!お店で働いてたら、そんな台よく見るねん。ひどいやろ?」


「そらひどいな!」


「もーう。僕らも色んな人から、怒られっぱなしですわ!」


「そら、あんたらそういう仕事やからな!」


「なんとか辛抱したって下さいな。ほんま、パチンコは辛抱でっせ。」


会話してるうちに、そのお客さんにも失笑が生まれてきた。

何だかんだ文句を言っても、やはりお客さん目線で懇願されるように謝罪されては、これ以上強く言えないのだろう。


「ほんま、もうちょっと辛抱して打ってみるわな。」


「なんとかそれで頼んます!おおきに。」


横から話を聞いていたが、

ほとんどこの主任は、正論など言ってなかった。

とにかく、情。

とにかく、懇願。

とにかく、謝罪。


このごり押しでこのお客さんを一度納得させ、さらに帰らせる事なく打たせるように持って行った。


すごいな!

とても、 僕には真似できないや。

と、思っていた。


対応が終わってから、主任に聞いてみた。


「よく辛抱して対応できましたね。」


「あんな。這いつくばってひれ伏してる人間の、さらにその頭の上を足で踏みつける人間なんて、そうはおらん。もし、そこで踏みつけられたとき、その時が本当に怒って良いときや。その時まで、ひれ伏して這いつくばるんや。」


なるほど。

クレーム対応の根本というか、極論を聞いたような気がした。


ひれ伏して這いつくばって、そこから状況を好転させる。

これは、すごいな!


と、思った主任の対応だった。


でも、ひれ伏して這いつくばって、なのに踏みつけられた後も見てみたい。


と、思った・・・・・

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