第9話 集うものたち
「じゃあ、何から話そっか」
わたしたちは蛻の殻になった寺の和室に勝手に上がり、そのまま畳に座り込んで話し始めた。鳶崎さんは少し離れたところで縮こまっている。
「えっと……、水無月さん」
「苗字で呼ばれんのは好かへん。みなとでええよ」
「じゃあ……、みなとさん。魔法少女のルールについて、確認したいです」
魔法少女のルール。ディモには後出しで隠されていた。まだ何か隠されてるルールがあるかもしれない。ここで他の魔法少女と情報を擦り合わせればわたしの知らないルールを知れるかもしれない。みなとさんも隠されていたらそれまでだけど。
「そうやなあ。目撃者が
「知ってます」
「せやろな。そうじゃなかったらここにはきいへん」
その通りだ。それを知って然山寺さんに抱いた不信感。わたしは然山寺さんにそのことを問い詰めたくてここに来たんだ。
「じゃあ、何のために
「
「ああ、こいつらにも目的がある。うちらを魔法少女にして魔物と戦わせるだけの理由が」
魔法少女を戦わせるために存在するシステム的なものだと、そう思っていた。もしかしたら、そう思い込みたかったのかもしれない。
「魔物を100体倒して願いが叶うのは魔法少女だけやない。
「そうなの? ディモ」
「うん、そうだよ。言ってなかったね」
あっけらかんとした態度。相変わらず聞かなければ何も教えてくれないけど、聞けば答えてくれる。
「じゃあ、あなたの願いはなに?」
「ボクの、いいや、ボクたち
「人間に……? 冗談でしょ……」
こんな躊躇いなく人を殺すやつが人間になりたいだなんてどうかしている。
「うちの
みなとさんは冷たく吐き捨てる。同じだ。みなとさんもきっと、
「平気で人を殺すあなたが、人間になんか成れるわけがない」
「だからそれはボクの本意ではないと。これは議論しても無駄だね」
あきらめたようにディモは言う。
「ま、この話は終わりにしとこか」
みなとさんが話を打ち切ったことで、わたしもディモもこの話を続けるのをやめる。どうせ、理解できない。どうせ、納得できないのだからこれ以上話を続けても無駄だ。
「他には、と言ってもうちの知っとることも少ないからなあ。知っとることと言えば他の魔法少女を何人かやろか」
「もっといるんですか?」
「ああ、うちの知っとる中ではあと二人やな」
つまりわたしの知る中では計6人。全部でいったい何人いるのだろう
「ディモ、魔法少女って全部で何人いるの?」
「ああ、それならキミが11人目だよ。これ以降のことはボクには分からない」
最低でも11人。わたしの後に魔法少女になった人がいるなら12人より増えるけれど、わたしが魔法少女になったのはつい一昨日の話。多分だけど今は11人だろう。
「そして、この中の誰もが誰もが魔法少女のルールを守っとるわけやない」
「え……!?」
「目撃者を気にせずに戦うアホがおるっちゅうことや」
そんな。目撃者を気にしない魔法少女がいるなんて考えもしなかった。できる限り犠牲者を出さないことが当然だと思っていた。
「然山寺に不信感を抱いた時点であんたは犠牲者を出さないようにする側やと思っとるけど、どうなんや?」
「もちろんです。もう、助けられたはずの人が死ぬのは見たくないです」
「せやろな、うちらも同じや。な、日陰」
「うるさい。話しかけないで」
会話に混ざらず隅で大人しくしていた鳶崎さんはみなとさんに話題を振られ、それを静かに拒絶する。なんだか睨まれているような気がする。彼女に嫌われてるのかな、わたし。戦ってしまったけれど、あれは誤解だったし。彼女も志は同じなようだし、できれば仲良くしたい
「全くつれないやつやけん。ま、気持ちは同じということで小詠、あんたはうちらの仲間や」
「は、はい」
「とりあえず連絡先交換しとこか。これ、うちのメアドや。いつでも連絡してきてええで」
みなとさんはさらりとメモ帳にメールアドレスを記して渡してきた。それを受け取ってさっそく携帯のアドレス帳に登録する。
「あと、さっき話したうちの知っとる二人の魔法少女についてや。一人は芽吹 雪華。情報通な魔法少女やった。今はどこにおるのか知らんけどな」
もう一人のことを口にする前にみなとさんも顔色が厳しくなる。ゆっくりと低い声色で話し出す。
「で、もう一人が要注意人物。龍鳳院 やなぎ。こいつは目撃者なんか気にせへん。さらに魔物と手を組んでやがる」
「魔物と……?」
それは、他の魔法少女のことを彷彿させた。刻示 せり。彼女も、魔物と手を組んでいる可能性のある魔法少女だ。
「危険な奴や。もし出会ったら、殺せ」
そう言うみなとさんの瞳には憎悪が籠っているような気がした。彼女に、せりちゃんのことは教えてはいけない。そう思った。
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