第40話 そしてひとつになる
「あら。こんな所に居たんだ。どうしたの独りで?」
「いや、別に……」
「あなたもお風呂に入れば良かったのに」
「要らない。ヨダレなんて全然喰らってないし」
「そう。まあ、すっきりしたのはいいけど、あれって完全に男の子の読者向けよね」
「え? 今の台詞。それって、もしかして……」
「なぁに? どうかした?」
「いや。今って素の状態だよね?」
「そうよ。あなただって同じじゃない」
「そっか。同じなんだ」
「どうしたの? 何て顔してるのよ」
「いや……やっぱ、あの修行でそっちも『同化』しちゃったのかなって思って」
「うーん。どうかしら。でもその可能性は高いかも」
「実はあれから全然、キャラのターンにならないんだ。そっちはどう?」
「同じく。ずっと自分の意思で動いてるわ」
「やっぱりそうか。じゃあ、ずっとこのままなのかな? 前はピンチの時にうまい具合に切り替わってくれたんだけど……」
「そうね……そればかりは強敵と戦ってみないと分からないわね」
「てか、次の敵ってラスボスの闇帝だろ。正直、自信が無いんだよな。自力でどこまでやれるか……」
「大丈夫よ。もし負けそうになってもストーリーに合わせて何とかなるんじゃない?」
「それは分かんないって。もしかしたら設定上、闇帝に殺される役にされちゃってるかもしれないし。そんなのは作者にしか分からないよ」
「そっか……じゃあ私も死ぬのかな」
「……分からない。たまにあるんだよね。ラストバトルを盛り上げる為に仲間がバタバタ死んでいくっていう設定が。で、主人公が怒りで覚醒するんだ」
「なにそれ。酷くない?」
「いやマジであるんだって。引き立て役っていうか俺達脇役の宿命さ」
「そう。仕方ないのね……」
「けど、ディノはいいよな。主人公だからまず死ぬことはないし」
「あら。主人公が死ぬ漫画だってあるんじゃないの?」
「それは無い。だってこれ、少年漫画だから」
「ふうん。そうなんだ。だったら私たち脇役よりは恵まれてるわね」
「あいつはズルいよ。チートすぎる」
「チートって何?」
「うーん。なんていうか、ズルして最強の力を得ることかな。努力とか修行とかしないで」
「あの子が? ふぅん。確かにそうかもね。でも、そう言うあなたも今は結構な強さなんじゃないの?」
「どうかなあ。あいつと違って一応、努力はしてるよ。痛い目にも沢山あってる。なんていうか、これまでずっと戦ってきたから。レベルアップする為にさ。でも、ディノは主人公補正で簡単にパワーアップしてる気がする」
「おまけにあの子、ポスト王国の王子だもんね」
「そうなんだよ。実は物凄い血筋でしたなんていうのも良くある設定さ。結局、主人公は特別なんだ。作者に贔屓されてる奴は扱いが違うんだよ」
「つまり作者次第ってことね。私達の生死は作者に握られてるわけね。フフ。なんだか作者って神様みたいね」
「うん。まあ、作者が完全に自由かといえば、そうでもないらしいけどね。人気投票とか編集者の意見とかでストーリーを変えなきゃなんないこともあるらしいよ」
「へえ、じゃあ人気キャラクターだったら予定変更で死ななくてもすむんじゃないの?」
「それはあるかも。でも、自分が人気キャラかどうかなんて分からないよ」
「そうなんじゃないの? だって、ここまで生き残ってるんだから」
「どうだか。まあ、まったく人気が無いこともないだろうけど、読者が死ぬのを許さないぐらい大人気じゃないと難しいな。あるいはこの漫画じたいが大人気で闇帝を倒した後も連載が続くようなら生き延びる可能性は高くなると思う」
「え? 闇帝が最後の敵じゃないの?」
「分からない。人気漫画は連載を終わらせてもらえないんだよ。だから一区切りついたらもっと強い敵が現れるんだ」
「……それも嫌ぁね」
「だろ? 割に合わないよな。所詮、俺達みたいな脇役キャラは生きるも死ぬも作者次第なんだ。なんかそう考えると段々ハラがたってきたよ」
「あら。さっきから聞いてるとなんか本気で怒ってない? ひょっとして死ぬのが怖いの?」
「あ、当たり前じゃん! 大体、そっちが言い出したんだろ? この世界で死んだらどうなるか分かんないって」
「そうだったかしら?」
「そうだよ。元の世界に戻れる保証はないとか、消えて無くなってしまうとか言ってなかったっけ? で、どうなのさ? 本当のところ死んだらどうなるんだ?」
「そんなの私にも分からないわ」
「なんだそれ? 俺より先にこっちに来てたからもっと色んなこと知ってるかと思ったのに。死んだらどうなるか色々調べてたんじゃないの?」
「そうね……けど、最近どうでも良くなってきちゃった」
「は? それって諦めたとか?」
「そうじゃないけど、この世界に来てしまったことは変えられないし、まあ、なるようになるでしょって感じかな」
「結局、分からないままかよ~!」
「だって、しょうがないじゃない。それは現実世界でも同じでしょ。死んだらどうなるかなんて誰にも分からないでしょ」
「そりゃそうだ」
「ね。あなたは『死後の世界』を信じるタイプ?」
「死後の世界……どうだろ。そんなの真剣に考えたこと無い」
「そう。私が思うに2パターンに分かれるんじゃないかしら。死んだ後でも魂みたいなものが残るって考え方と、自分の意識は消滅して『無』になるって考え方。つまり、自分の意識が残るか無くなるかのどっちかね」
「ああ。だったら自分は無くなるって方かな。で、ちょっと残ることにも期待する」
「へえ、そうなの。あぁ、でもそれ凄く分かる気がする」
「原則『魂』みたいなものは信じてないんだけどさ。あったら面白いなぁぐらいには考えてる。だって死んだら無になるって虚しいじゃん」
「そうね。そこなのよ。死ぬと肉体がダメになっちゃうことは事実じゃない。でも、心とか意識とかは見えないから、それがどうなっちゃうのかは観測できないわ。それが『残る派』と『消滅する派』に分かれてしまう原因だと思うの」
「脳じゃねぇの? 心とか意識とかは脳にあるから、脳が機能を停止したら共倒れなんだろ」
「本当にそう思う? 意識は脳の中に存在するって」
「え? そうなんじゃね? だって頭を打ったら気絶するじゃん」
「でも存在じたいが無くなるわけじゃないわ。眠ってる時だってそうでしょ」
「それは! 脳が機能停止してるわけじゃないからだろ……」
「じゃあ、やっぱりあなたは、意識は脳に存在するって考えてるのね?」
「当たり前じゃん」
「そう。じゃあ、私たちのこの状態をどう説明するの?」
「あ! それは……」
「でしょ? 私たちの意識は元の世界の肉体、厳密に言えば脳から離れてしまった状態なのよ。だけど、こうやって意識はこの漫画のキャラに居候してるわ」
「そういわれてみれば確かに……意識はあるよな」
「前はね。このキャラと完全に同化しちゃうと自分の意識はたぶん消えちゃうって考えてたの。でもね、自分という存在、つまり意識っていうか自我っていうものが独立した存在だったとしたら、この状況も説明できるんじゃないかしら」
「なるほど。少なくとも俺達の肉体はここには無いもんな。けど自分は確かにここに存在してる……」
「そうなのよ。だから、自分が認識する『自我』っていうものは、人間の肉体に憑依しているだけともいえるわ」
「つまり肉体は単なる『器』ってことか。脳も含めて」
「ええ。そう考えると『自我』がどこに芽生えるかなんて、本当は些細な違いなのかもしれないわね。もしかしたら、なんかの拍子に扇風機とかリンゴとかに自我が移ってしまうことだってあるかもしれない。だったら生きてる物にしか自我が無いっていうのは嘘かもしれないじゃない」
「それは飛躍しすぎだろ~」
「わからないわよ。単に私たちが観測できないだけで、あらゆる物体には自我が存在するかもしれないじゃない」
「有り得ないから! てか、もしそうだったら怖ええよ!」
「……金魚」
「へ? 金魚?」
「ええ。職場で飼ってたの」
「なんでいきなり金魚?」
「金魚はね。金魚鉢の中が世界のすべてなの。私に餌を貰って、水草を入れてもらって、時々、水を変えてもらうの。ガラス越しに見える世界はいつも変わらない。電気が点いたり消えたり……あの子には、わたしがどんな風に見えてたのかな……」
「仕事って何やってたの?」
「あら。前に言わなかったっけ?」
「いや。聞いてない」
「そっか……ま、なんて言うのかな。世界一、楽な仕事。その代わり一番大事なものを犠牲にしてるの」
「は? 何それ?」
「狭い狭い世界よ。私はそこに引き篭もってて、ひたすら外から来るお客さんをもてなすの。金魚と同じようにね」
「全然、意味分かんね。てか、職業当てクイズかよ」
「ふふ。やっぱり、まだちょっと早いみたいね。あなたには」
「……なんだよ。その上から目線」
「しょうがないじゃない。元の世界では私の方が年上なんだもん。あなたまだ高校生でしょ」
「そうだけどさ。その、あの……会えるのかな?」
「え?」
「もし、元の世界に戻れたら、いつか会えるのかな?」
「戻れれば、ね。でもあなたがそういう年頃になった時、私はもうそこには居ないかも」
「場所は? ヒント!」
「高速と壁に囲まれた小さな町。西の方の大都市」
「ちょっ! それって超アバウトじゃね?」
「いずれ分かる時がくるわ。ヒントは花の名前にちなんだお店。そこで『咲』って名前を捜してね。そしたら会えると思うわ」
「前にもそんなこと言ってたっけ……けどさ。記憶ってどうなるんだろ? 元の世界に戻ったらここでの記憶が全部無くなってるって可能性もあるんじゃね?」
「さあ……どうかしら」
「それにさ。見た目も元通りになるんだから、会っても分からなくね? だったら合言葉でも決めておかないと!」
「合言葉? 面白いこと言うわね」
「それじゃ、こうしよう! 俺が『ダンクロフォード』って言ったらそっちは『女剣士ミディア』って答えてよ」
「ええ~! それ、恥ずかしくない? それにダンクロフォードって名前の外人さんだっているかもしれないじゃない」
「そっか。じゃあ『二次元世界のダン』ならどうよ?」
「そうねぇ。じゃ『二次元のヒーロー、ダンクロフォード』でどう?」
「長ぇよ」
「わかった。じゃあ『二次元ヒーロー・ダン』にしましょ!」
「OK」
「ふふ……」
「何がおかしいんだよ?」
「だって、戻れるかどうかも分からないのに! それに現実世界で再会したところで、どうするつもりなのかなあって」
「どうするかって……それは」
「いいわ。デートぐらいはしてあげる。それに、わたし寂しがりだから場合によっては付き合ってもいいわ。好きな映画観て、アイス食べて、お寿司を食べに行くの」
「ふぅん……珍しく自分のこと話すね?」
「そう?」
「そうだよ。前に聞いたとき超冷たくされたよ。現実世界のことを聞いたら怒ってたじゃん」
「怒ってたように見えた? ごめんね」
「いや。別にいいけどさ」
「……」
「……」
「……蛍、きれいね」
「蛍? あれってやっぱ蛍なんだ」
「うん。この世界の蛍なんだって」
「にしては色がドギツイな」
「青っぽいのがオスでピンクがメスなんだって。たぶん、今が繁殖期なんだわ」
「へぇ……」
「ところで繁殖といえばミーユちゃんとエッチはしたの?」
「な!? ちょっ! え?」
「あの子、急に大人になっちゃうんだもの。びっくりしちゃった」
「あ、あれは、その……なんかそういう種族なんだとさ。一晩で急に成長するっていう。変な設定だと思うけどさ」
「それにしても凄い身体よねえ。おっぱいなんかドーンだもんね。やっぱ男の人はああいう巨乳で童顔が好きなのかな」
「う~ん……どうだろ。あれは作者の好みなのかも」
「で、結局、エッチしたの?」
「いや……その、しなかった。ていうかできなかった」
「ええ!? なんで? そういうの興味あるんでしょ?」
「だから! ツルツルだったんだって」
「つ、ツルツルって! 剃ってたの? それとも元から?」
「は? ちょっ、何言ってんだよ!」
「へえ。そこまでやってて何で最後までしないのか不思議」
「あのさ。言っておくけど下の毛じゃないよ! ツルツルなのは胸。おっぱい。乳首が無かったんだって!」
「嘘!? ええっ? ちょっとそれって……どういうこと?」
「知らねえよ! 自主規制なんだろ。少年漫画だから」
「少年漫画だとそうなの?」
「うん。週刊誌ではよくある。コミックスは別だけど」
「そっか……ミーユちゃんは元からこの世界の人間だから、そういうものが用意されてなかったってことね」
「多分そういうことだろ。それに自分のティンコすら無いんだぜ? それで一体どうしろと?」
「そうなの? あれ? そうかなぁ……私はちゃんとあるけど?」
「あ、あ、あるって、な、何が?」
「ん。大丈夫」
「ちょ~! どこに手ぇ突っ込んでんだよ!」
「あのね。それ、思い込みだから。ちゃんと確認すれば、あるべきものはちゃんとあるべき場所にあるのよ」
「思い込みって……そうかなぁ?」
「そう。先入観。漫画だから無いって思い込んでるんじゃないの? その証拠に『ミスター・マラキク』はアドン村でハーレム生活を楽しんでるじゃない」
「ああっ! そっか! あのカッパ野郎!」
「この世界の物理法則は緩いの忘れちゃった? あなたの意識でどうにでもなるはずよ」
「ちょっとやってみる!」
「じゃあ、わたしもちょっと……えっと……ん……」
「な、またそんなとこに手ぇ突っ込んで……」
「ん。オッケー」
「ちょ、ちょっと今、何して……」
「えへ。思い出してたのよ。自分のがどういう形だったか。あんまり自信が無かったから……そんなにしょっちゅう見るもんじゃないし」
「そ、そ、そうなんだ」
「一応、中の方も大丈夫そうよ」
「な、な、なな、中って……」
「そっちはどうなの? ちゃんとイメージして。集中しないと」
「ちょ、ちょっと、それって、まさか……ホントにいいの?」
「ばかね。せっかく経験させてあげようって言ってるのに。わたしじゃ嫌なの?」
「いや! そんなことは!」
「脱いでる間に思い出してね。慌てなくてもいいから」
「あ、あい。よし。こ、ここは落ち着いて……てか落ち着け!」
「ホントに特別なんだからね……これから死ぬかもしれないのに童貞のままだなんて、あまりに可哀想だから」
「ど、ど、童貞ちゃうわ!」
「ふぅん。嘘でしょ?」
「……はい」
「いいわよ。別に気にしないから。ん、よいしょっと。それにしてもこの服、小さすぎ。この漫画の作者ってピチピチが好きなのかしら?」
「そ、そうなんじゃない? 女のキャラはそういうもんだよ」
「ちょっとあっち向いててくれる? やっぱ恥ずかしいから」
「わ、分かった。俺も脱ぐ。てか、脱いだほうがイメージしやすいかも」
「……」
「……」
「……ふぅ。そっちはどう?」
「ま、まだ。もうちょっと……」
「もう……まどろっこしいわね」
「ちょっ! まだ途中……ひゃっ!」
「ング……いいんじゃない? 形、出来てきたわ」
「ひゃぁぁ……よくワカララナイ……」
「ん……気持ちいい?」
「いい、です。マジ、溶けそう……」
「じゃ、今のうちにホラ。上になって」
「もうちょっと……して欲しい」
「ダ~メ。さ、いいわよ」
「……上って、こんな感じ?」
「そう……そのまま動かないで……わたしが誘導……あっ」
「ちょちょちょ~っ! なんか、ヌルって!」
「ん……いいわよ。好きなように動かして」
「……こ、こうかな? うまく出来ないけど」
「あッ、あン! あぁ……あ、んっ」
「はぁ、はぁ、あったけぇ」
「あ、あ、あン……い……ああ、あんっ!」
「マジすげえ……うう」
「あン、あン、あん……いい……あン」
「そんなアンアン言われたらもう……」
「あ、ああ、いいよ……あン」
「うっ! ううっ!」
「ああ……きてる……わかるわ」
「グ……まだ出るぅ」
「あン、あン」
「ああああ……」
「……」
「……」
「すげぇ……最高」
「……ふぅ」
「気持ちよすぎ。参りました」
「そう? あら?」
「どうしたの?」
「蛍……あがっていくわ」
「え? ホントだ……次々上がってくぞ」
「見て。上昇していくのは紫色の光だけよ。きっとつがいになったんだわ」
「青とピンクがひとつになって……」
「きれいね……幻想的だわ」
「そっか。カップルになったら繋がって昇天していくんだ」
「みたいね。上がっていく間に交尾して……それが終わったらピンクの蛍だけが降ってくるんだわ」
「オスは死んじゃうのかな? 落ちてくるのはピンクの光ばかりだよ」
「オスの役割は受精するまでなのかもね。そう考えると大変ね。男の子って」
「うん……大変だよ。男はつらいよ」
「フフ。頑張ってね」
「……うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます