ある女の子の話

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ある女の子の話

 僕の友達が死んだ。この世界でだれよりも大切な友達が死んだ。

 きっと僕らを見たことのある人なら、僕らの関係性が友達ということにきっと驚くだろう。

 でも、僕らは誰になんと言われようと、友達だと言い続けてきた。 

 そんな友達がある日突然死んだ。僕の耳には死んだ後すぐに入った。暖かくて、空がよく晴れていて友達が死んでしまうとは思えないような日。

 僕は葬式でずっと泣いていた。僕はその事情で火葬場まで行ったが、周りからは仲が良かったからと思ってくれようで有難かった。

 ひなは太陽が北から昇ると言えば信じてしまいそうな女の子だった。

 きらきらと光る瞳にはどんな世界が日々映っていたんだろう。

 小さい唇からは優しい言葉がつむぎだされていた。

 小さな耳はいろんな言葉をどんな風に聞いていたのだろう。

 ひなは柔らかく、ただ柔らかく笑っていた。優しくて、この世の全てを愛してしまえそうな笑顔。そんな笑顔を僕はぐしゃぐしゃにしてしまった。

 毎日汚れのない白いワンピースを着て、僕に笑いかけてくれた。

 僕の大切な大切な友達が死んだ。


 僕とひなは何がきっかけで仲良くなったのかはあまりよく覚えていない。でも、気がついたら一緒にいることが多くなっていた。

 僕はひなを好きになって、ひなも僕のことが好きなんだろうなと思っていた。

 偶然僕とひなは誕生日が同じで、僕は十五歳の誕生日にひなに告白しようと思っていた。きっとひなは笑って頷いてくれるだろうと思っていた。

 でも、そんなことはなかった。

 僕は十五歳になった瞬間恋をすることができなくなってしまった。ひなに告白することができなくなったしまった。

 父さんと母さんが零時になった瞬間に祝ってくれて、それと同時に僕の思いは砕け散った。僕の人生で一番最悪な誕生日だったと思う。

 僕とひなは兄弟らしい。二卵性双生児。実の親のことは今でもよくわからない。僕が十歳の時に父さんと母さんの実の子ではないと知った。十歳の時もかなり泣いたし、いろんなことを父さんと母さんに言ってしまった。でも、今回のことは誰にも当たることができず、ただ一人で泣いた。

 多分人生であの日が一番泣いた。気がついたときには、ひなと約束していた時間が近づいていた。ひなにはあまり会いたくなかったが、約束を破るわけにはいかなかったので約束の場所に行った。

 ひなは笑っていた。ただずっと笑っていた。

 ひなは泣いた。ただずっと泣いた。

 どうやら僕らの実の両親か誰かに僕とひなの義理の両親は、十五歳の時に双子がいることを言うように頼まれたらしい。

 その日僕らはある約束をした。一生友達でいよう、と。

 それから僕らはずっと友達でいた。 

 傍から見れば友達に見えなかったかもしれない。十五歳の誕生日からひなはいろんなことを言うようになった。手を繋ごうとか抱きしめてほしいとか。僕はその言葉をどうしても断れなかった。双子の兄弟だといわれても僕はひなが好きだった。

 


 ひなは寒さに弱い女の子だった。その代わり暑さにはかなり強かった。

 冬の雨が降る日などはかなり酷かった。ひなは傘を差しながら、小刻みに震えていた。

 ひなの手はいつも冷たくて、夏は気持ちがいいけれどこの寒い時に手を繋ぐと、僕の手まで冷えてしまいそうだった。それでも僕はひなの手を離すことはなかったし、ずっと手を繋ぎ続けた。

 傘の露先からぽたりぽたちと落ちたしずくが肩に当たり、濡れたとひなは怒った。理不尽な怒りを向けられても僕は笑っていた。楽しかった。一緒にいることが。

 ぱちぱちざーざーとうるさいぐらいに、雨が容赦なく傘を叩く。もうしずくで肩が濡れたと怒る人はいない。ひんやりとした手を繋ぐことも、抱きしめることもできない。

 隣にあった傘の気配ももうなく、一人で街を歩く。

 ひなは僕が知っているたった一人の血の繋がった人だ。実の親は生きているのか、死んでいるのかさえ知らない。きっと生きていたとしても。ひなが死んだことは知らないはずだ。

 たった一人の家族を失った。誰よりも大切な友達を失った。大好きな好きな人を失った。どの関係を上げても失ったものが大きすぎる。

 よく降る雨は弱まる気配を見せない。その音は僕の心を掻き乱す。

 葬式の日に僕は泣き止むことができなかった。自分のたった一人の血の繋がった家族を失ったことに。火葬場で骨になってしまったひなを見てまた泣いた。

 急性の病気だったらしい。

 どうせならもっとなにかすればよかった。僕らが結んだ約束なんて破って、なにかをしてしまえばよかった。ひなに好きだと言えばよかった。ひなにありったけの愛情をぶつければよかった。もっと抱きしめればよかった。

 柔らかく笑う兄弟も、手の冷たい大切な友達も、暑さに強い大好きな人ももうどこにもいない。

 僕はひなのお墓の前で手を合わせる。今天国で笑っているのだろうか。

 ひな、天国で幸せに笑っていてね。

 また、僕は泣いてしまった。

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