**ティーブレイク**

前半戦 ティーブレイク

 月曜に予兆、火曜日に開戦し、水曜日は集中砲火を受け。ようちゃんも精一杯防戦してるんですが、展開の速さと激しさが想定をはるかにオーバーしていて、事態を全くこなせていません。


 たかが電話での応対じゃないか。まあ、そうですね。それが通常のクレーム処理ならば、ね。でも、ようちゃんのところにかかってくるのは、明らかに自分を標的にした攻撃なんですよ。商品や社に対するクレームじゃないんです。

 あなたなら、それに耐えることが出来ますか? あなた自身を標的にした嫌がらせで、あなたには嫌がらせを受ける覚えがない。しかもあなたは職務として攻撃を無視出来ない。応対し、記録を残し、次にどうするかを考えなければならない。職務放棄して逃げるわけにはいかないんです。その上、誰も信用できる味方がいない。それは、間違いなく拷問だと思います。ようちゃんが吐くほどの強烈なストレスを抱え込んだのは、無理からぬことなんですよ。それでなくてもようちゃんの属性は羊。元々は、ことなかれが処世術の平和主義者なんですから。


◇ ◇ ◇


 さて。当たり前ですが、テレルームに缶詰のままじゃあ何も情報が入ってきません。社内の情報源である白田さんとの関係が途絶寸前ですから、情報ソースを外に求めないと、ようちゃんは身動き出来なくなってしまいます。推論を組み立てるのに必要な事実ファクトが、どうしても欲しい。突き動かされるように、ようちゃんは打って出ることを決意しました。それはあくまでも情報収集のための偵察で、誰かに攻撃を仕掛けることが目的ではありません。社長にも事前にそう説明していますね。


 足で地道に事実情報を集める。そのためにようちゃんが社長からゲット出来たのは、一日。たった一日です。この後第十三章から第十九章まで、ようちゃんがどこかに足を向け何か行動を起こす度に、どんどん状況が変わって行きます。そして戦果をもとにようちゃんが推論を練り直し、固めていきます。


 新たな人物の登場、新事実の判明、そしてようちゃんがそれをもとにどういう推論を組み立てるか。中盤は、この話を大きく動かす遊撃編になります。


◇ ◇ ◇


 ちょい、こぼれ話を。


 第九章で、ようちゃんがファクトを集めるためにネット検索を使いました。特別変わったことをしたわけではなく、わたしたちでもすぐに使える方法ですね。キーワードや名前を打ち込んで、リターン一発。ぞろぞろと検索結果が出てきます。とても便利な反面、自分の知らないところで勝手に個人情報がうろうろすることに怖さを感じるかもしれません。よく言われることですが、どこかに公開されてしまった情報は完全に消去するのは困難で、良くも悪くもずっと残ってしまいます。デジタルタトゥー(デジタルの刺青)なんていう言い方もありますね。

 でもね、一切ネットアクセスをしなくても、個人情報はわたしたちの知らない間にどこかで電子網に乗るんですよ。数多あまたある情報漏洩の事件を引き合いに出すまでもなく、今はそういう世の中なわけで。ですから、ネットで自己情報をオープンにすることを徒らに恐れ過ぎるのもどうかなあと思うわけです。


 自分の情報を出さないことでコントロールするやり方、蛇口を閉める方法が一方であり。もう一方で、出した情報のクオリティを自力でコントロールするというやり方、蛇口をきちんと開ける方法があります。どちらが正しいということではなく、それを上手に使い分けようよっていうことかなーと。


◇ ◇ ◇


 では、この後外勤に出るようちゃんの後ろをとことこと付いていくことにしましょう。途中ではぐれないようにねー。


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