(2)

 まあいいや。ここで考え込んでスタックしてもしょうがない。足らないところは、後で埋めよう。次に御影っていう女。ええと、御影真佐美。ぱちぱちぱち。ぽち。と。


「むうう」


 こっちは、何もヒットしない。何かアピールするような過去もなければ、今も何か目立つ活動をしてるわけじゃないってことか。


「うーん。これは予想外だったなー」


 白田さんをあごでこき使えるくらいの高びぃなお嬢様なら、きっと派手な経歴があると思ったんだけどなあ。こりゃあ、どう見ても地味だってことだよね。それも社長以上にド地味。


「むーむむむー」


 厄介だー。思わず頭を抱え込んでしまった。わたしが、あの女をひが目で見ちゃてるってこと? バイアスのかけ過ぎ? うー、分からん。検索情報ゼロだと分かってしまったら、それ以上はいくら考えてもしょうがないね。御影については、これでおしまい。次行こう。次。白田さん。白田美和。ぱちこん、ぱちこん……と。ぽち。


「うぐぅ。そっかあ」


 苗字も名前もそんな珍しくないから、ごちゃごちゃいっぱい出てきちゃうんだ。どれがうちの社の白田さんのことか、検索結果からすぐには判別出来ない。こりゃあ一筋縄じゃ行かないなー。一つずつ潰していくにはあまりに効率が悪いよね。しゃあない。後回しだなあ。


 じゃあ、黒坂さんはどうだろう? 黒坂さんは、名前が古風でおもしろいよね。豊親とよちか、かあ。ぱちぱちぱちぱちぱちっ! ぽち……と。


「お!」


 そんなにポピュラーな名前じゃないし、営業部長っていうステータスのあった人だから、きちんとヒットする。うん。大手不動産屋さんの営業部長として、業界紙のインタビューを受けた時の記事が出てきた。


「あああっ!!」


 文面に目を通したわたしは、思わず液晶画面に飛びついてしまった。


『御影不動産株式会社 本社営業部長 黒坂豊親氏に本誌取材への多大なご協力を賜りました』


「御影不動産っ?」


 ばらばらだと思っていた五つのピース。そこに思わぬ接点が……あった。御影というバイトの女と、黒坂さん。まさか、黒坂さんとあの女との間に繋がりがあるなんて。いや、御影っていう姓の人が全員不動産業をやってるわけじゃないし。偶然の一致かもしれない。でも、わたしはそこに必然の匂いを嗅ぎ取った。

 単なるピースの寄せ集めがなぜきちんと機能するのか。社長がそれに不安を感じてるのに、自分から積極的に組織しに行かないわけ。そこに絡んでいそうな……。


「うー」


 わたしは……あちこちのアメーバが寄り集まって一つになろうとしてるみたいな、気味の悪い感覚を覚えた。でも、まだまだ推論に使える材料が足らない。全然足らない。焦るな。慌てるな。社長からテレルームでの新業務を請け負ってから今日までの間に、それまでなかったことがいろいろ起こってる。でも起きたこと以上に、わたしの中での各社員の位置付けがころころ変わってるんだ。

 限られた情報だけだと、位置付けをきちんと定められずに、わたしの一方的な思い込みやバイアスを生んじゃう。わたしの個人的な感情によって、情報が歪んだりマスクされるのは極めてまずい。あくまでも事実を並べて整理して、そこからはみ出た感想や印象は切り捨てていかないとならない。ここで焦ったらだめだ。


 まず、御影不動産について検索してみよう。聞いたことはあるけど、どんな社風かとか、評判がどうかとか分かんないからね。直近の業績とか業務内容なんかもついでに、と。大手なら自社サイトを持ってるから、すぐに分かるはず。


 ぱちこんぱちこん。ほい、出た。


「ふむ」


 都市部でのマンション展開に特化している老舗の不動産会社だ。がんがん業績を伸ばしてるってこともなければ、会社が傾くほどの危機に見舞われてるってこともない。堅実経営の準大手、か。


「待てよ」


 もしかして。御影不動産と関係があるのが黒坂さんだけじゃないとしたら。白田さんもそうだとしたら。早速確かめよう。『白田美和』と『御影不動産』で、もう一度検索。どうだ?


「おっ!」


 今度は、わたしの欲しかった検索結果が一発で出た。


「やっぱり……か」


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