ぱらいそ~戦うゲームショップ!~Remaster
タカテン
プロローグ:夢で終わらせない
「ゲームショップの時代はもう終わったって? バカなこと言うんじゃないわよ! ゲームショップは終わらない。この私が今一度、このお店を
ネット通販。
ダウンロード販売。
そしてスマホゲーの大流行。
そんな逆風の前に次々と街のゲームショップが消えていく今、彼女の言葉を鼻で笑って信じない者は多いだろう。
だけどゲームマニアで、子供の頃からゲームショップの店員が夢だった
ゲームショップは終わらない。
僕たちの力で絶対に救ってみせる、と。
だから司はその為ならばなんでもやると決めた。
☆ ☆ ☆
(はぁ)
それは数ヶ月前のこと。
ドラゴンと激しい戦闘を繰り広げる画面を眺めながら、司は心の中で溜息をついた。
いつもは夢中になるネットゲームも今日はどうにも楽しめない。昼間に受けた衝撃的な事実が、脳裏から離れなかった。
小学生の頃から馴染みのゲームショップ。
そこがとうとう閉店するというのだ。
(高校生になったらバイトさせてくれるって言ってたのになぁ……)
夏休み前の三者面談で、司は近所の高校への進学を希望した。
先生は頑張ればもっと上も目指せると言ってくれたが、学校のランクなんかどうでもよかった。
希望校の近くにバイトの約束を取り付けているゲームショップがある。
それが進学先を決めた一番の理由だった。
なのに夏休みに入った途端まさかの閉店告知……まだ出航もしてないのに沈没したような気分だ。
進学先を変えるのは難しくない。
ただ、バイトしたいと思えるゲームショップの当てが他にない。
(昔はもっとお店があったんだけどなぁ)
司が知る限り、近くにゲームショップは五店舗あった。
が、数年前から次々と閉店していき、件の店が最後の一店だった。
一応、DVDなどのレンタルショップで、ゲームも販売している店なら近くにある。
でも、そこでバイトしたいとは思えなかった。
なんか違うのだ。空気というか、雰囲気というか。
司にとってゲームショップとは、ただ売ったり買ったりするだけのお店ではない。
ゲームを通じて店員と客が楽しくコミュニケーションしているお店、それが司が愛するゲームショップだった。
(困ったなぁ……あ)
画面を見ると強敵のドラゴンが全身から光を放ち、最期の咆哮を上げて崩れ落ちるところだった。
「おおー、やった!」
「お疲れ様―」
「さーて、ここからはドロップ運が試されますぞー」
ヘッドセットから仲間たちの歓喜の声が聞こえてくる。
「お疲れ様でした!」
喜ぶみんなに水を差したくなくて、司も元気に挨拶する。
それでも心は沈んだままだった。
「何かあったのかの?」
声を掛けられたのは戦利品の分配も無事終わり、みんなが「じゃあ寝るわ」「明日も仕事」「いいよな、学生は夏休みで」なんて挨拶を済ませログアウトした戦場に、ひとり佇んでいる時のことだった。
「え? ああ、マスター」
自分ひとりだと思っていたので驚いたが、相手が誰か分かって司はホッとする。
司が所属するギルドのマスターだ。
相当な高年齢ユーザーなのに飛びぬけた腕前を持ち、若者との会話にも普通に乗ることが出来る。それでいて他のプレイヤーへ常に気配りを忘れないあたりは年相応の懐の広さがあり、マスターを慕う人は少なくない。
かくいう司もこの小柄な老兵に信頼を寄せていた。
「えっと、どうしてそう思うんです?」
「ふむ。いつものように戦ってはおったが、どこか心ここにあらずのように感じたのじゃ」
さすが、と舌を巻いた。
そしてマスターなら、と司は口を開く。
「実はちょっと進路で困っていて……」
「進路? ああ、そう言えばキミは中学三年生じゃったか」
「はい」
「よかったら話してみい。悩みってのは解決せんでも誰かに話すことで多少は軽くなるもんじゃからの」
嬉しい言葉だった。
正直なところ、誰かにずっと相談したかったのだ。
でもバイトしたかったゲームショップが潰れて進学先に悩んでいるなんて話を、笑わず真面目にとりあってくれそうな人なんてそういない。その点、マスターなら親身になって聞いてくれるかもしれないと思った。
が、
「はっはっは、そりゃまたキミも相当なゲーム馬鹿じゃのー」
話し終えると大笑いされた。
「うっ。で、でも、僕にとっては重要なことで……」
「ゲームショップでバイトすることが? ワシも長年生きてきよったが、そんな理由で進学先を決めるなんて話は初めてじゃ」
そりゃそうだろう。
先を見据えて、少しでも良い高校へ行こうとする者。
甲子園目指して、強豪と呼ばれる高校に進む者。
将来がかかっている選択なだけに、みんな真剣だ。
それをバイトしたい店が近くにあるからという理由で高校を選ぶのは、どうかしていると司も分かっている。
「ううっ。だけど、子供の頃に叔父さんが働いているお店を見てから、ずっとゲームショップでバイトするのが夢だったんですよ……」
司がまだ幼稚園児だった頃、叔父が店長を勤めるゲームショップがあった。
店内の幾つものモニターには煌びやかなデモ映像が流れ、棚にはずらりとパッケージが並び、いつ行っても大勢のお客さんで賑わっている。
そして叔父さんは
「司、これならお前でも遊べるぞ」
「どうだ、みんなで遊ぶと面白いだろう?」
「ははは、上手いぞ司。さすがは俺の甥っ子だ」
司にゲームの楽しさを教えてくれて、時には他のお客さんも巻き込んで一緒にゲームを遊んでくれた。
そんな叔父さんとゲームが大好きになった司は
(大きくなったら僕も叔父さんみたいなゲーム屋さんになりたい!)
幼心に強くそう思った。
5年ほど前に叔父が不慮の死をとげ、そのゲームショップも無くなってからも将来の夢は変わらなかった。
むしろ叔父が働いていたような古き良きゲームショップを今度は自分が盛り上げていく番だと、変な使命感を抱くようになった。
「なるほどのぉ。そういう事情があったか……ふーむ」
溜息交じりの言葉を最後に、マスターが押し黙った。
司は後悔し始めていた。
やっぱり子供っぽいと思われたに違いない。話すべきじゃなかった。
司が自分の迂闊さを反省していたその時だった。
「ワシにもキミと同い年の孫娘がおってのぅ」
唐突にマスターが話を切り出した。
「お孫さん?」
「ふむ。これがワシに似て、かなりの変わり者なんじゃ。小学生の頃からろくに勉強もせず、ゲームばかりしとる」
「は、はぁ」
思わず戸惑いの声を上げてしまう。どうして急に孫娘の話になったのか分からなかった。
「だからかのぅ、キミの話を聞いて他人事じゃないように感じたんじゃ」
マスターが一呼吸置く。
そして意を決して発せられた言葉が、司の運命を切り開いた。
「だったらキミ、ワシの店で働いてみないかの?」
話によるとマスターは三十年ほど前、都内の片隅に一軒のゲームショップを開店させたのだそうだ。
それまで別の会社を経営していたが、まだ働ける年齢にも関わらず突然引退。そして経営を息子に任せると、いきなりのゲームショップ開店に親族一同は驚いて反対した。
が、TVゲーム初期からのファンだったマスターは、これからは趣味の世界で生きるんだと突っ撥ねたらしい。
実際、ゲームショップの運営は楽しかったという。
ただ昨今は体力面の問題でお店には出ず、もっぱらバイト達に任せているのだそうだ。
「まぁ、だからこうしてネトゲにハマれるんじゃがな」
……とにかく、そんなわけでマスターはゲームショップの経営者らしい。
司にとってまさにうってつけの話だ。
「あの、お願いですっ。中学を卒業したら僕を雇ってくださいっ」
「よかろう。だが、ふたつ条件があるぞい」
「条件?」
「ひとつはうちの店の近くの高校に通う、ということじゃ」
「えっ……」
司は都内どころか、関東にすら住んでいない。
だからマスターの店で働くには、一人暮らしが必須だ。
あまり裕福ともいえない司の家にとって、一人暮らしをさせながら高校に通わせる余裕は多分ない。マスターの話を聞いて、司は高校進学は断念しようとひそかに思っていた。
「そんな……僕、今S県に住んでいて、そっちで働くには一人暮らしをしなきゃいけないんですけど、その、言いにくいんですが、うち、あんまりお金なくて」
「お金のことなら心配せんでもよいぞ。その高校に入学出来たら学費から生活費まで全部ワシがもってやろう。住むところも用意できるでの」
「えっ、あの、どうしてそこまで?」
「なーに、わざわざ親元を離れてワシの店で働いてくれるんじゃ。それぐらいはさせてもらわんとの。それよりもキミ、もっと大変なことがあるぞい」
「大変なこと、ですか?」
「条件の高校じゃがの、都内でも屈指の進学校じゃ。かなり勉強しないとなかなか受からんと思うのぉ」
あっ、と司は驚きの言葉をあげる。
「ふっふっふ、どうじゃ、夢に辿り着くには大きな壁があった方が燃えるじゃろ?」
意地悪く挑発するマスター。
でも、司も負けてはいない。
「そうですね。で、もうひとつの条件ってなんですか?」
「そうじゃのう。それはまぁいずれ話すとするかの。わっはっは」
マスターが楽しくなってきたわいと笑う。
司も自然と笑みがこぼれた。
結局、高校に通いつつゲームショップでバイトするという未来予想図に変更はない。そのくせ難易度だけはぐーんと上がった。
でもマスターの言葉通り、やり甲斐はある。頑張れば夢を掴める状況になった。
だったら頑張るだけだ!
その日を境に司はネットゲームを休止した。
久しぶりに再開したのは春先の三月中旬。
復帰を祝ってくれる仲間たちの群れをかきわけ、司はマスターにただ一言報告する。
「ひとつめの条件、満たしました!」
かくして司の、波乱万丈なゲームショップ人生の幕が開かれた!
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