第2話 無能:002「やっぱり世の中甘くない」

無能だが、無能なりに色々思うことはあるものだ。

キミたち読者も分かるだろ? あれさ、いわゆる……なんの益もない自尊心だ。

俺の経験から言うと、そういう種類のアレコレは、リアルの現象に対しては100%役に立たない。

役に立つのは、常に運と実力だ。そして、それらは積み重ねた時間がモノを言う種類のものだ。

一朝一夕に人々が、社会が、世界が自分の思い通りに動くわけもないだろ?

未開の森の獣道を(苦労して)走りながら、俺はそんなことを考えていた。

ほら、こういう展開って、絶対に読者がいるもんだろ? 転生モノだし、さ。

こういう俺の思考も、おそらくどこかで活字になって、読者に読まれてるはずだ。

だから、俺のこういう思考も無意味ではない……はずだ。


***


1時間は長い。

どれくらい長いかというと、ネットにあがってる合法動画を1時間見るくらい長い。

そういえば、もう16年もあの夢のような文明の利器に接してない。

どうでもいい動画に「むせる」とか釣られてコメントしてた頃が懐かしいぜ。

前世への懐古(なにもかもなつかしい)をしていると、進行方向に何かの気配を感じた。

暗殺者か?

いや、違う。違うと思いたい。違うといいなぁ。うん、ほんと。


***


まぁなんだ。

読者の諸君の期待通りの幼女暗殺者登場とかいう展開じゃないよ? 分かってる? 分かれよ?

なぜか俺は今、小屋まであと10分も走れば到着する地点で、美形の少年(ショタ)と遭遇している。

作者、腐ってるんじゃね? と思うくらいのお見合いセッティングだ。

だってそうだろう?

1:暗殺者に追われている16歳の俺。

2:わけのわからない予言に従って森に来る。

3:そこで、美少年と遭遇。

これ、BLのテンプレの1つじゃね?

俺がここでこの美形少年と関わりを結んだら、最期は火刑に処された聖女を思って(ハァハァして)美少年を乱獲しまくったアレになりかねん。

よって、俺はクールに対応することにした。

「道をあけろ、ガキ」

と、まぁ能面のような表情を疲労にも負けず苦労して作って告げた。

クールだ。

どこまでも、クールだぜ。俺。

全日本クール冷凍輸送業者賞をあげたいくらいだぜ。

「……あっ」

美少年は、俺を見て青い瞳に別の感情を乗せた。

おいおい。

何その「運命のダーリン!」的なアレは。

「……」

俺は沈黙のまま、そういうアレなコレはスルーする方針で、疲れ切った体を酷使して美少年をの横を通り過ぎようとする。

クールだ。どこまでもクールジャパンだぜ、俺。

「待ってください! 兄上!」

美少年、なんか不要なフラグを吐きました。

でも、俺今、クールジャパン。サムズアップだぜ!

そのまま美少年をスルー&ラン。

悲しくないけど、これマジで戦争なのよね。○レッ○ーさんの教訓に感謝すると言う現実逃避をして、俺は再度小屋に向かって疾走を再開した。

後方で美少年が慌てて俺を追いかける気配を感じつつ、それを無視して疾走するのが無能な俺の生きる途!!


***


そう思っていた頃が(略)。

小屋の中で、森の主を自称してたヤツが死んでいた。

まぁ、そうだよな。

暗殺者と依頼主の排除リストに、こいつが上がっていても不思議はない。

だって、俺に接触してるんだし。

そりゃそうだ。

うん。

自業自得だ。

こいつの、な。

慎ましい生活をしていただろう森の主の小屋の中は、みすぼらしいものだった。

清貧っていうんだっけか。そういう感じだ。

まぁ、清貧を旗印(いいわけ)に先住民を虐殺しまくった白系アメ○カ人なんていうのも前世にはいたんで、過度な同情はせんけどな。

うん。

なんだかもう、少し、いやだいぶ、どうでもよくなってきてる。

肉体的疲労がそう思わせるのだろうか?

俺は、小屋の中の森の主の遺体の傍らの壁に腰を下ろした。

さて、どうするかね、俺。

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