第12話 親睦ウォーク4
スポーツというのは不思議だ。
公式な大会等を除き、勝ったからといって何か報酬が出るわけではない。
それでも、皆勝利を渇望し、チームメイトと不思議な高揚感と共に一致団結し、敵と切磋琢磨する。
ドッジボールもそうだ。
皆勝つために、勢いよくボールを投げ、敵を倒そうと一致団結する。
茉莉花はすっと半歩ずれた。
そのコンマ数秒後に、腕の横をブォンと勢いよくボールが通過した。衝撃で起きた風が茉莉花の髪をぶわっと持ち上げると同時に、後ろで女の子の悲鳴とは思えないほどの濁音たっぷりの悲痛な声が聞こえた。
いや、勝ちにこだわるって言っても限度あるでしょ…。
茉莉花は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「いいぞー!前野の殺人ボール!」
「よっ!野球部で外野守ってるだけあるな!」
本当にボールで殺される…。
敵チームの声援にますます恐ろしくなった茉莉花は、味方のチームを見渡した。
野球部員には野球部員で対抗だ。
茉莉花がいる場所は陣地のちょうど真ん中である。
後方には、右端と左端に女子生徒が数人固まっている。茉莉花の記憶違いでなければ皆文化部だったはずだ。彼女達はおそらく後数回のボールのやりとりで半分はアウトになるだろう。
前衛には、端に気配を殺している男子生徒数人。彼らも運動部所属ではなかったはずだ。
それからラインギリギリで敵を挑発しながらぴょんぴょんとジャンプする男子生徒数人。彼らは運動部所属だが、サッカー部、バスケ部、陸上部、バレー部に所属していたはずだ。運動神経は良いだろうが、前野ほどの威力のあるボールは投げられそうにない。
そして唯一前衛にいる女子生徒の結衣。陸上部所属で、男子生徒達に混じって挑発行為をしている。女子高生として、それでいいのだろうか。
陣地の真ん中にはちょこまかと走り回る女子生徒数人。意外と俊敏に動けているのは、合唱部や吹奏楽部での走りこみの成果だろうか。
後は、前野の剛速球を受け止める気満々で中腰気味な男子生徒達と、彼らに隠れるようにしている女子生徒達。彼らは野球部員だ。前野のボールを受け止められるのも、剛速球を投げられる可能性が高いのも彼らだろう。
そして、敵陣地のラインの外側両サイドに女子生徒が、正面には男子生徒が外野を守っている。先ほどから女子生徒達は正面の男子生徒にボールを集めるようにし、彼は内野の生徒と挟み撃ちを仕掛けていた。
うーん、前野君程の剛速球が投げられる確実な野球部員はこっちにはいないなぁ。一番期待できるのは真ん中にいる、中腰気味の野球部員達か。
それと、王崎君。
茉莉花が視線をやると、彼は陣地の真ん中でボールを受け止めようとしている野球部員達に混ざっているところだった。
彼の後ろには背中に隠れられないほどの女子がわさわさいる。
王崎はちらりと後ろを向いて、彼の影に隠れている女子生徒達に向かって安心させるように笑いかけた。
「もっとしっかり俺の後ろにいなよ。こっちにきたら必ず受け止めるからさ」
相変わらずの王子様っぷりである。
昼食後から始めたドッジボールは、これで三試合目だ。
二人ペアでじゃんけんに勝った方と負けた方に別れたのが一回目。
誕生日の偶数月と奇数月で別れたのが二回目。
三回目は、今日のお弁当がライスだったかパンだったかで別れた。
何も示し合わせていないのに、なぜか王崎とは三回とも同じチームである。
ちなみに、一回目は前野と同じチームで、圧倒的な攻撃力を武器に勝つことができた。二回目は前野は敵となり、彼がいる敵のチームが勝った。
やはり勝利の鍵となるのは、前野のあのボールだろう。
どうしたものか、と茉莉花が悩んでいる間にも前野のボールがコートを行き来する。
前野が両サイドと正面の外野達と四人で縦横無尽にパスをまわすたびに女子生徒から悲鳴があがる。
そして、何度目かのパスがされた直後、前野が大きく振りかぶった。
「くらえ!うおおおお!」
叫び声と投げられたボールはレーザービームのようにまっすぐ飛んでいく。
前線にいた男子生徒達が紙一重でそのボールをかわし、陣地の真ん中にいた野球部員の西岡が腰を落とした。
「西岡!無理だ!」
「逃げろ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます