第9話 SNS拡散

 翌朝、学校に着くと悪友――どうでもいいが名前は本村という――が寄ってきた。またドッペルゲンガー目撃情報かと思うとうんざりする。あまりにも多いので知り合いの間では僕のドッペルゲンガーが出没していると、ちょっとした話題になっているのだ。間違いではないのだが。

 しかし目撃情報は目撃情報でも今回は違っていた。本村はスマホの画面を見せながら、

「おい、このカワイ子ちゃんは誰だよ!」

 紹介しろと言わんばかりに見せつけられたのはSNSだった。そこにはばっちり僕とエクソシスト、ついでにエクソシストに抱かれた琥珀が写っていた。

[超絶美人・秋葉原で発見!]というコメント付きで、レスポンスの数がとんでもないことになっている。幸いというか悲しむべきか、この子の正体は一体というエクソシストに関するコメントだらけで僕に関しては誰も着目すらしていなかった。

 情報が早い本村は話題になっているニュースをいち早くキャッチしたらしい。要らない労力を費やしやがって、何か別の事に使えと言いたい。

「誰というか、ちょっとした知り合いっていうか……」

「なぁ、会わせてくれよ頼むよ」

 そう言われてもな……。しかし断ると拡散されてもっと面倒なことになるのは目に見えている。

「ああ、一応本人に訊いてみるけど、断られたら諦めろよ」

「ぃよっしゃ!」

 盛大にガッツポーズを決めると、本村は拳を突き上げた。まぁ、超級の美人ではあるからな。僕だって死の預言さえなければエクソシストみたいな子に出会えて言葉を交わせているだけでも幸運といったところだ。


「構わないが?」

 屋上、無人を確認して呼び出したエクソシストからは意外な返答があっさりと得られた。思わず、ずるりと片方の肩が落ちる。

「エクソシストがこの世界線? の、この時間軸? に影響するのは問題ないの?」

「この世界線のこの時間軸の人間として振る舞えば問題ないでしょう」

 それは確かにそうなのだけど。

「寧ろあなたの近くに待機できた方が好都合ね。転校生ということにでもして侵入しようかしら」

「影で暗躍できた方が都合が良くないか?」

「人目に付くのを避けて行動する方が面倒だわ。堂々としていれば馴染めるでしょう。この世界線の事はあなたよりも理解できているわけだし」

 秀才っていうのは時に腹が立つものだ。エクソシストの世界線とやらでもエリートの方なんじゃないだろうか。そうであってほしい。自分が不出来だとは思いたくない。

「じゃあ、この世界線の戸籍など作成するから少し留守にするわね。心もとないけど琥珀を預けるから、何かあったら結界だけで持ちこたえるように」

 そう言われて胸中に琥珀を押し付けられる。ふにふにしてるな。って違う違う。

「防御だけで死を回避できるのか?」

「時間稼ぎにはなるわよ。琥珀も使い魔だからね、補助とはいえやれるだけやれるわよ。じゃあ、留守の間、頼んだわね琥珀」

「はい、いってらっしゃいませ。エクソシスト様」

 琥珀はちみっと敬礼してみせる。やる気満々だが琥珀だけだとどうにも心もとないんだがなぁ。今のところ直接ドッペルゲンガーにも死神にも遭遇してないから大丈夫か。


「ところで琥珀」

「はい、何でしょう? マスター」

「死神は一体なのか?」

「うーんと、別の時間軸のマスターと契約した死神は一体になりますが、奴らは組織を持っていて、組織全体で襲撃してくることになります。無数に分裂可能なのです。なので一体倒したところでそれが当該マスターと契約して同一化した死神――つまり当たりでなければ根本的な解決には至りません」

 恐ろしい話を聞いてしまった。そんな何匹も居るのかよ……。げんなりしてくる。しかも倒しても倒しても無限に増殖するって……闘うのは僕じゃないとはいえ、失敗した時に命という代償を払うことになるのは僕なわけで。

「琥珀、エクソシストが居ない間、ホント頼むな」

「うう、マスター琥珀だけでは心配ですか? そろそろもう一体使い魔を召喚できる頃合いかとは思うのですが」

「本当か?」

「タリスマンを見せてください」

 首にかけてあるタリスマンをシャツの下から取り出す。琥珀はちみちみと這い上がって、うんせとタリスマンに乗っかった。いちいち動きが可愛いな。小さいは正義だ。

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