ハリボテ×ヒーロー/烏丸鳥丸

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プロローグ

「よぉよぉ、ちょっと金貸してくんねーか?」


 人気の無い裏路地で数人の十代くらいの少年達が一人の気弱そうな少年を囲んで、テンプレの如きカツアゲを行っている。


「あ、あの……お金は、持ってないです」

「あぁん? てめぇ、嘘ついてんじゃねーぞ? 俺達、に逆らおうってのか? のくせしてよ」

「俺達は選ばれた存在なんだよ。つまり、選ばれなかったお前らノーマルは俺達に貢ぐ必要があるんだよ、分かる?」


 少年は、あまりにも無茶苦茶な理論に眉を顰める。

 

「そ、それは横暴だと……お、思うんですけど」

「はー? なんか言いましたかー?」


 囲んでいた内の一人が苛立たしげな表情を浮かべながら、右手から“拳大の炎の球”を生成する。

 反論しようとした少年は、それを見ただけで縮こまってしまう。

 ……それは、少年には無い力で自分では太刀打ちできないと分かっているからだ。


「俺の異能ギフトは『炎生成』。てめぇなんか、あっという間に消し炭に出来るんだからな?」


 その言葉に少年は息を呑む。

 実際にはそこまでやらないだろうが、少年にとってそれは異質な力だ。

 そこまでの威力が無くても目の前にソレが存在しているというだけでビビってしまう。

 いっその事、金を出してしまおうか。そんな感じの表情を浮かべている。


「おいおい、今時カツアゲなんてだっせーことしてんなよ」

「あ? 誰だ?」


 俺が声を掛けると、

 カツアゲ集団やターゲットにされていた少年が声のした方を見れば、そこには平凡という言葉がぴったりハマる少年が立っていた。はこちらを見てくる。

 年は大体、十五、六歳くらい。

 俺の外見は、身長百七十後半で、黒髪黒目と目つきが悪い点を除けば平均的な日本人といった感じだった。

 買い物帰りの為に、右手にはスーパーの袋が握られている。

 今日は、スーパーが特売だったので1パック98円の卵が入っている。

 一人暮らしになってからは、こういった特売が重要になってくると身に染みてよく分かった。


「俺の事はどうでもいいんだよ。カツアゲやめろって言ってんだ」


 威嚇してくるカツアゲ集団に怯むことなく、俺はツカツカと彼らに近づき先程と同じことを繰り返す。


「……ははは! なんだ、ヒーローのつもりか? だがな、人数をちゃんと見てからヒーローごっこをするんだな。この人数の異能ギフト持ち相手に勝てると思ってるのか?」


 カツアゲ集団の人数は、五人程。彼らがどのような能力を持っているか不明ではあるが、一人で相手をするには苦戦必至だった。

 しかし、そんな普通なら回れ右をしたくなるような状況でも、俺は構わずに笑い出す。


「く……ククク、あははははは!」

「な、何がおかしいんだおめぇ!」


 いきなり笑い出した俺に対し、カツアゲ集団の一人が不機嫌そうに叫ぶ。

 自分を馬鹿にされたと思って、腹が立ったのだろう。

 まぁ、半ば挑発する意味も込めて笑ったので計算通りではある。


「いやいや、悪い悪い。で俺に勝てると思ってるんだから、おめでたい奴らだなって」

「たった? いや、ちゃんと数えたか? こっちは五人居るんだぞ? しかも、全員が攻撃系の異能ギフト持ち。お前がどんなギフトを持ってようが、五つのギフトに勝てるわけないだろう?」

「五つ。そう、たった五つだ。それくらいで俺に勝てるなんておかしいって言ってるんだ」


 いまだに笑い続ける俺を前に、カツアゲ集団はそこで初めて表情が強張る。。

 。まさにそんな事を考えていそうな表情だ。

 今の生活を始めてから、人の顔色を窺うのは得意になっている。


「……おい、こいつは一体何なんだ? どっからこの自信が湧いてくんだよ」

「知らねーよ! だけどよ、この人数を前にあんだけ自信たっぷりって事は、それだけ強いんじゃねーの? おい、誰かあいつに見覚えねーのか?」

「……どっかで見た事ある気はすんだけどなぁ」


 などと、彼らはひとまとめになってコソコソと相談し始める。


「なんだ? お前ら、かかってこないのか?」


 俺の不敵なセリフに、カツアゲ集団はお互いに顔を見合わせた後に一人が代表して口を開く。


「…………おい、お前の名前は?」

「俺か? 俺の事はどうでもいいだろ……って言っても納得しないんだろうな。俺の名前は……犬落瀬 清司いぬおとせ せいじだ」


 瞬間、その名前を聞いた全員の体が凍り付く。

 その名前は、この都市に住む者ならば一度は必ず聞いたことがある名前だからだ。


「お、おい……犬落瀬って、あの犬落瀬か? 十傑の?」

「まぁ、人からはそう呼ばれてるかな」

「さ、作戦タイム!」

「認めよう」


 俺が犬落瀬清司と名乗ると、カツアゲ集団は慌てながら提案してきたので、俺は頷いてそれを受け入れる。

 そして、作戦タイムを設けたカツアゲ集団は、かなり焦った様子で話し合いをする。

 俺は、それをさも余裕綽々ですと言わんばかりの態度で見守る。


「おい! なんで十傑の一人がこんな所に居るんだよ!」

「知らねーよ! ていうか、あいつマジで犬落瀬なのか?」

「俺……前に見たことがあるから間違いねぇ。あいつはあの犬落瀬だ……」


 グループの一人のその言葉により、他の全員が息を呑む。

 本人達は小声で話しているつもりなのだろうが、興奮している為に丸聞こえである。


「千の異能を持つ男……」


 誰かが呟いたその言葉に、カツアゲ集団達は静まり返る。

 

「……あいつに勝てると思う人」


 一人がそう言うが、全員がフルフルと首を横に振る。

 当然である。

 を知っていれば、まず戦おうとは思わない。


「さて、そろそろ相談は良いかな?」


 俺がゆっくりと言葉を吐き出すと、全員が俺の方を見る。


「カツアゲを今すぐ辞めるか、辞めないか。どっちだ? 辞めないなら……」

「辞めます辞めます! な!」

「お、おう! カツアゲなんてだせーもんな! ちゃんと稼いでこそだ!」

「そう言う訳で、さ、さよならー!」


 俺の異様な雰囲気に完全に呑まれたカツアゲ集団は、必死にそう叫ぶとあっという間にその場から逃げ出してしまう。

 けっ、そうやって強い奴に無条件で克服するなら最初から悪事なんか働くなっつー話だ。


「……まったく、もっと能力を有意義な事に使えってんだ」

「あ、あの……」


逃げるカツアゲ集団を見送りながら、ぶつくさと文句を言う俺に対し、絡まれていた少年が声を掛けてくる。


「あん?」

「ありがとうございました。その、助かりました!」

「あー、いーっていーって! たまたま通りかかっただけなんだから」

「それでも、です。犬落瀬清司さんって言えば……傍若無人と聞いていたので怖かったんですが、実際に会ってみたら優しい人で驚きました」


 少年のその言葉に、俺は少しだけ戸惑ってしまう。


「? どうかしましたか?」

「いや、何でもない。……それよりも、この街にはああいう輩がゴロゴロ居るんだから気を付けろよ。そんじゃ、俺はもう行くからな」

「はい、ありがとうございました!」


 ペコペコと頭を下げる少年に手を振って答えながら、俺はその場を立ち去る。


「…………誰も居ないよな?」


 しばらく進み、周りに誰も居ない事を確認した俺は脱力するようにズルズルと地面に座り込む。


「ぶはぁ! あー、めっちゃ緊張した……運よく逃げてくれて助かったな」


 俺は、先程の事を思い出しながらポツリと呟く。


「しっかし、本当に犬落瀬のネームバリューは凄いな。名乗っただけで、皆ビビるんだもんよ。……だけど、この調子で俺は……になりきれるのかねぇ」


 俺は、空を見上げながら自分がとなるきっかけになった出来事を思い出すのだった。

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