第13話 牛角

 ここのところ俺のテンションは低かった。

 気分転換に散歩に出てみたものの、頭の中を巡るのは同じことばかり。

 それはミユたちが異世界に戻る日が近づいていること。

 滞在できるのは、こちらの時間にしてあと数日程度らしい。

 もちろん永久に俺の家に居候するとは思っていなかったのだが、帰ることを告げられると、やはりショックはある。

 はじめは可愛いけど危なっかしい迷惑な居候いそうろうといったイメージだったが、ともに数週間を過ごす間に……まあ、なんというか……親愛の情というか、その、あれだ、離れがたい気持ちというか、一緒に居たい気持ちというか……正直、口に出すのが恥ずかしい感情が芽生えてしまった。

 お別れする日のことを思うと、胸がキュッと苦しくなる。

 ずっと一緒に居れたらいいと思うが……。

 だからといって、異世界に旅立ち、こちらの世界を捨てるわけにはいかない。

 別にこちらの世界で成し遂げたい大それた夢があるわけでもないが、家族がいるし、それに平凡な暮らしではあるが、それが嫌いなわけでもないのだ。

 いっそのことトラックに跳ねられたら、こんな気持ちにもならないのだろうが……。


成彦なるひこ、どうした?」

「うわっ」


 突然声をかけられ、俺は思わず小さく叫ぶ。

 振り返ると、そこには見慣れた顔。

 女騎士のリディアだ。

 しかしその姿はいつもと違って、チャイナドレス姿。

 考え事をしながら歩いていたせいで気がつかなかったが、ここは以前、リディアにアルバイトを紹介した中華料理店の前だ。

 リディアの手には中華料理店のチラシ。どうやら集客のためのチラシ配布中らしい。


「バイト受かったんだね。似合うね、チャイナドレス」


 西洋人風の顔立ちでチャイナドレスは違和感があるものの、騎士として鍛えられた、出る所は出て、引っ込むべきところは引っ込んでいる抜群のプロポーションのおかげで、なんだかんだで着こなせてしまっている。

 俺は深い意味なくただ感想を述べたつもりだったのだが、リディアの顔が見る見るうちに真っ赤になる。ドレスのスリット部分を引っ張って、すらりとした太ももを懸命に隠している。


「なっ、わ、私の……、服……関係ない。成彦、元気ない。どうした?」

「いや……別に」


 誰かに話してスッキリしたい気分ではあるが、リディアに悩みの原因を打ち明けるのはさすがに躊躇する。

 なにせ、リディアは俺がミユと婚約して異世界に行くことを阻止するためにこちらの世界にやってきたのだ。

 単なるセクシーチャイナドレス姿のフリーターではない。


「嘘、よくない。成彦、元気ないの丸出し」

「丸出しかな?」

「戦場、元気ないヤツ、基本、死ぬ」

「それはそうだろうけど、戦場じゃないから」


 これ以上詳しい話をするわけにもいかないし、リディアはバイト中、立ち話はこれくらいにして、先へと進もうとするが……。

 リディアが俺の手をしっかりと掴んで、引き留める。


「もうすぐ、バイト終わる。終わったら、話そう」


 腕を掴んだまま、真っすぐに俺の目を見るリディア。

 その目は真剣そのもの。「うん」と言わないと手を離さない、そんな決意が伝わってくる。

 どうやら俺を本気で心配してくれているらしい。


「わかったよ。じゃあバイト終わったらね」


 リディア、なんだかんだ言っていいヤツじゃないか。騎士らしい熱く真っすぐな性格。こちらの世界では少ないタイプの……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。


 ………………存在だ。

 なんだか思考にものすごく間があった気がする。

 それにさっきまで青空だったのに、太陽が空を紅く染めながら、ビルの谷間に消えようとしている。

 そして首筋に鈍痛!

 リディア、またやりやがったな。

 いいヤツなんだろうけど、このチョップ癖だけはどうにかしてほしい。

 俺は辺りを見渡し、自分がどこに居るのか確認する。

 ここはリディアの働く中華料理屋の前、入り口の脇にもたれかかっている状態だったようだ。

 せめて、外に放置はやめろよ!


「成彦、目、覚めたか? バイト終わった」


 俺が目を覚ますタイミングを見計らったかのように、リディアが店内から出てくる。

 もしかして手刀の強さで気絶時間を調節できるのか?


「今日、バイト、暇だった。暇、逆に疲れる」


 リディアは労働の疲れを身体から振り払うように、両手を高々と上げ、伸びをする。


「入り口付近に気絶した人がもたれかかってたらさ、客は来ないだろ」


 どう考えても、リディアの手刀が原因。チラシ撒いた意味なしだ。

 手刀に関する抗議はまだまだし足りないが、気になる点がもう一つ。リディアはバイトが終わったにもかかわらず、相変わらずチャイナドレス姿だ。


「それ制服じゃないの?」

「これ、制服、違う」


 リディアは相変わらずの拙い日本語ながら必死に経緯を説明してくれる。

 どうやら店長がリディアの私服の持ち合わせがないことを憐れんでくれたらしい。


「今着てるの、最初に貰ったもの、これ今日、貰った、そして新しいこれ、制服」

 

リディアはわざわざ店内に戻り、自分の貰ったチャイナドレスと現在の制服を並べて見せてくれる。

 似たようなデザインのチャイナドレスだが、徐々にスカート部分の丈が短くなっている。


「この世界、コックさん、偉くなるほど、帽子、長くなる。店員、偉くなるほどスカート短くなる」


 リディアは誇らしげに胸を張っているが……、残念ながらそれは嘘だ。

 そもそも、こぢんまりとした街の中華料理屋さんで、なぜチャイナドレスの制服が? と、不思議には思ったが……。

 さては……採用理由自体がミニのチャイナドレスを着せたいからだな……。

 しかも計画的に少しずつ短くして……。

 なんて店長なんだ!

 大変好感が持てる!

 しかしリディアは店長の思惑などまったく気にしていない様子。


「私の出世、いま大事じゃない。成彦、心配。元気ない。顔色悪い」

「顔色が悪いのは手刀を喰らったせいだと思うけど……」


 店の前で立ち話もなんだ。俺とリディアはプラプラと歩きながら近所の公園へと向かう。

 ベンチで缶コーヒーを飲みながらぽつぽつと語りあう。


「コーヒー、苦い、地獄味。しかし騎士、訓練されているから耐えられる」


 リディアはブラックコーヒーをちびりと飲んでは苦悶の表情を浮かべている。

 言っていることは立派風だが、ただの小さい子と同じだ。


「だったら、甘いの飲んだらいいのに」


 俺は苦笑しながら言うが、リディアはブンブンと首を振る。


「成彦と同じもの飲む。そして語り合う」


 ベンチの隣に座るリディアがぐっと身体を近づけ、俺の顔を覗き込む。


「そ、そっか。そんな語るほどのことも……」


 本当は誰にも話したくないのだが、リディアの〝語り合うぞ!〟的な圧力がすごい。

 キリリとした真剣な目で真っすぐに俺の顔を見ている。


「私、できることないか? 誰を殺せばいい?」

「おい! 暴力で解決を図るな!」

「じゃあ、私、なにできる? 成彦のために」

「ありがたいんだけど、なんでそんなに親身になってくれるの?」


 そもそもリディアは俺をさらい、なんだったら既成事実を作って、ミユとの婚約を阻止するために異世界からやってきたのだ。俺の精神状態はリディアにとって心配する必要がない。


「……成彦、私を救ってくれた」


 リディアは少し恥ずかしそうにはにかみながら、言葉を続ける。


「私、成彦さらったのに、餃子、焼きそばUFO、食べさせてくれた。あれ、なかったら、死んでた。命の恩人、騎士、受けた恩、必ず返す」

「命の恩人って、そんな大げさなことはしてないけど」

「UFOのやみつき濃厚、エクストリームソースの味、一生忘れない。私、やみつき濃厚、エクストリームソースの恩、成彦に返す」


 そう言えば、UFOのパッケージに〝やみつき濃厚 エクストリームソース〟って書いてあるな……。

 そうか。やみつき濃厚、エクストリームソースの恩か………………。

 ……どんな恩だよ!

 しかしリディアは真剣そのもの。

 真っすぐな視線を俺に送り続けている。

 なんだか逆にこっちが相談しないと悪い気がしてきた。


「あのさ……まあ、ミユたちがね……」


 俺はぽつりぽつりと言葉を選びながら、ミユとエレノワが異世界へと戻る日が近づいていることについて、そして、そのことを考えると、寂しくて心が落ち着かないのだと伝える。

 本当に照れ臭い話題だが、リディアの生真面目さと、無駄な暑さのおかげで、少しは恥ずかしさが軽減される。

 リディアにとっては有利な展開だ。こんな話をしたら「やった!」とガッツポーズをされるかと思ったが……。

 予想外に神妙な顔つきで聞いている。

 真っすぐに俺の目を見ながら、リディアが尋ねる。


「成彦はミユ様が好きなのか?」


 実にストレートな質問。

 リディアはじっと俺の顔を覗き込みながら、俺の返事を待っている。

 答えないといつまでも待っていそうだ。

 言いたくないが、仕方がない……。


「うん、たぶん」


 日暮れ間近の公園のベンチに座って恋愛相談。

 俺にとっては青春度が高すぎて、全身がもぞもぞしてしまう。


「じゃあ、結婚……するのか?」

「向こうの世界に行くのはね……家族もいるし」


 やれやれ、なんでこんな話をチャイナドレスを着た異世界の女騎士にしているんだ……。

 俺は小さくため息をつきながら、自嘲気味に笑う。

 缶コーヒーもすでに空。話すことも話したし、正直ちょっとだけ心も軽くなった。

 俺はベンチから立ち上がろうとしたときだった。

 突如、リディアが俺の手を握りしめる。


「成彦、私ではダメか?」


 ただでさえ近くにあった顔をさらに近づける。

 済んだ青空のようなブルーの瞳が、夕陽を受けてキラキラと輝いている。

 そしてその頬は夕陽よりも真っ赤に染まっている。


「私なら、一生、こっちの世界、いる。だめか?」

「リディアも向こうの世界に家族がいるでしょ」


 リディアは手を握ったまま、小さく首を横に振る。


「私、戦争孤児、家族いない」

「友達は?」

「騎士、友達いらない。作っても、すぐ死ぬ。成彦が思ってるより、すぐ死ぬ」


 ……別になにも想定してないけど。そ、そっか。

 そんなつもりはなかったのに、嫌なことを聞いてしまった。

 しかしリディア本人はちっとも気にしていないようで、さらに情熱的に俺の手を握りしめる。


「これ任務、関係ない、成彦、寂しいと私の胸、キュッとなる。私では役に立てないか?」


 つないでない方の手を自らの胸に手を当て、誓いを立てるかのように言う。

 切なげな表情。任務と関係なく、本心で言ってくれていることも伝わってくる。

 まさかこんな展開になるとは……。

 こんなときはどうしたらいいんだ!?

 正直、俺はモテるタイプではない。こんな経験もしたことがない。

 気持ちはすごくありがたい。

 本当に嬉しいけど。

 いまはミユのことが……。


「取りあえず、友達になろう」


 これが不慣れな俺にできる精一杯の回答。

 この答えでいいのか自分でもさっぱりわからない。


「……友達、……友達」


 不思議そうに何度も「友達」と繰り返すリディア。

 友達がひとりもいなかったのだ。友達のイメージすらわかないのかもしれない。


「そうだよ。まずは友達になろう。さらうとかさらわれるとかの仲じゃなくて」

「友達……。なにしたらいい? 友達はなにする?」


 改めてそう言われると、困ってしまう。

 趣味の合う友達なら、その趣味を。学校での友達なら学校であったことの雑談などをするか……。

 取りあえず間違いないのは友達とは気軽な感じで飯に行くということだ。

 そして友達と行く飯と言えば「牛角」である。

 肉を焼きながら、どうでもいい話をだらだらと話し、他人が聞いたら全然面白くないジョークでゲラゲラと笑い合う。

 まさに最高の時間である。

 

 〝焼肉には人を元気にする魔法がある〟

 

 これは牛角のキャッチフレーズだが、いまこそ、その魔力に頼る時だ。

 どれくらいのMPで、どれくらい元気が回復する魔法なのかよくわからないが、とにかくそんな魔法にかかりたい気分だ。


「友達とは一緒に牛角に行くものだよ」


 俺はこちらの世界での掟であるかのように、堂々とそう宣言する。

 

「おお、いつもの成彦の感じ、出てきた。行こう、牛角、友達だから」


 リディアはそう言うと、俺の肩に手を回す。

 たぶんリディアは友達なら肩を組んで歩くと思っているのかもしれない。

 しかし、プロポーション抜群の上にチャイナドレス。

 どうしても脇腹あたりにあたる胸の膨らみが気になって仕方がない。もちろんいい意味で!

 そして気になりつつも、肩を組み返すわけだけれども!

 俺たちは友達というより、へべれけに酔ったサラリーマンのように肩を組み合いながら、牛角を目指す。


   ◆


「人、いっぱい。私のバイトの店、全然違う」


 リディアは店内を見渡しながら悔しそうに「くっ」と呟く。

 リディアの言う通り、牛角は繁盛していた。

 というか、牛角チェーンはなぜかいつも賑わっている。空いている牛角など見たことがないくらいだ。


「こちらの世界の人は友情を確認したいときに、牛角を訪れるんだ」


 俺は適当な繁盛している理由を述べながら、席へとつく。

 牛角は焼肉店、当然ながらテーブルには肉を焼くロースターがついている。

 それを不思議そうにしげしげと見つめるリディア。

 異世界でも肉を焼くことはあるだろうが、このようなテーブルは存在しないようだ。


「ここでいろんなお肉を焼いて、食べる店だよ。お肉好きだよね?」

「肉、大好きだ。ハントするのも、食べるのも」


 リディアはうんうんと大げさに何度もうなずく。

 これは相当の肉好きと見た。


「牛角ではハントしなくても大丈夫かな。ここから選べば、出てくるから」


 俺はそう言いながら、メニューをリディアに広げて見せる。


「カルビ、ハラミ、タン……。どれも食ったことのない動物」

「それは動物の種類じゃなくて、肉の部位だね」


 俺の説明を聞いて、「ほほう」と感嘆の声を上げるリディア。


「戦場では肉、丸かじり。部位、気にしない」


 どうやら丁寧に部位が分かれていることに感心しているらしいが……。

 丸かじりか……。それはそれで美味しいのかもしれないけど。


「そっか、取りあえず、僕が選ぶね」


 丸かじり派ではない俺は、まずはオーソドックスにタンから注文する。

 しかもネギとんタン塩だ。牛タンと変わらず美味しいのに、値段が安い。絶対お買い得だ。

 タンをいっておいて、熟成やわらかヒレ、次にカルビ、ハラミの順がいいだろう。


「まずはあっさりとした肉を食べて、それから、タレのついたこってりとした肉を食べるのがルールなんだ。そうしないと焼肉奉行ぶぎょうに怒られるからね」


 俺はあんまり肉を焼く時にごちゃごちゃ言うのは好きじゃない。

 しかし、割とルールにうるさい人も多い。今後のためにもリディアにも基本は伝えておくべきだろう。


「……奉行。勉強したから知ってる。ガーディアンのような存在。恐ろしい」

「本物の奉行じゃなくて、口うるさい人を奉行って言うだけだから。ほらこのトングで焼くの」

 

 俺は豚タンを焼きつつ、説明する。

 リディアも見よう見真似でタンを網の上に置く。

 リディアはしばらくタンの焼け具合を確認し、さっと裏返した。


「タンは裏返さないでいいから! 薄いから片面で十分焼けるし、ネギが落っこちちゃう」

「クッ、そうか……」


 タンを食べたら熟成やわらかヒレだ。

 これは厚切りにカットされており、サイコロステーキ的なイメージだ。

 俺はヒレをリディアと俺の分、ふた切れ投入すると、厳しい目で焼き加減をチェックする。

 こういった厚切りのこれはある程度火を通したら、すぐに食べず、ちょっと皿の休ませると余熱で旨味が……。

 リディアが勝手にカルビを投入している!


「ちょっと、肉は一種類ずつ! 味がごちゃごちゃになるし、焦げちゃう!」

「クッ、ぬぬぬ」


 リディアは慌ててカルビを網の上から回収しようとする。


「いや、もう焼いちゃたから、そのまま焼こう。カルビはまず八割焼いて、裏返して、二割焼く……」

「奉行だ! 成彦は奉行だ! 焼肉ガーディアン!」


 リディアが俺を指さし、睨みつける。


「ち、違う、俺は奉行じゃない!」

「奉行なのに、奉行じゃないフリする! 私、勉強した。それ覆面捜査官! 焼肉覆面捜査官!」


 いっぺんにいろいろと説明しすぎて、リディアのフラストレーションが爆発してしまったようだ。

 そんなつもりはなかったのだが、ただ、基本だけは踏まえた方が、焼肉を楽しく……。

 しかしリディアにとって俺は悲しいかな、焼肉奉行。しかも遠山とおやまきんさん的な奉行じゃないフリをする焼肉奉行。

 違うんだ。俺は普通の市民だ。焼肉は楽しく好きにやればいいと思っている。

 ただ、大きめの肉を裏返す時にただ反転するんじゃなく、上下も反転させないと、焼き具合にムラがでるとか、味付けをしてある肉をさらにタレにつけるんじゃないとか、それくらいのちょっとしたことが気になるだけで…………。

 …………あれ? もしかして俺は奉行なのか!

 俺は知らず知らずのうちに奉行になっているのか? 無自覚奉行なのか?

 無意識に肉町奉行所で勤務していたのか……。なんてことだ。


「すまない、リディア。俺は自分でも気づかないうちに、奉行になってしまっていたのかもしれない。でも信じてくれ。本当の俺は自由を愛する焼肉市民なんだ!」


 俺は切々と本心を訴える。

 そう、今日牛角に来た目的はリディアとの友情を深めるため。

 肉の焼き方にとらわれて本来の目的を忘れてはいけない。こんなことでは焼肉の人を元気にする魔法の効果も得られない。


「もう、焼き方でごちゃごちゃ言わないよ。一緒に肉を焼きながら、仲良くなろう」


 俺の気持ちが伝わったのか、リディアに笑顔が戻る。

 こうやって笑ってくれると、騎士の面影はなく、本当にひとりの可愛らしい女の子に見える。


「成彦のこと信じる。友達だから。肉を食べて、元気出そう」


 ミユへの気持ちを打ち明けても、なおも友達として、励ましてくれる。

 そんないい子と焼肉を食べられているだけでも十分、細かい焼き方などいいじゃないか……。

 ミユへの気持ちについて、自分の中でまだ整理はできないが、リディアのおかげで心が軽くなった。

 いい友達を持てた……。


「リディア、あのね」

「どうした?」


 俺はリディアに友達になってくれたことのお礼が言いたかったのだが……。


「焦げてる! さすがにこれはダメでしょ!」


 我慢ができなかった!

 カルビが焦げてカリカリのベーコンのようになっている。適当に網にぽいぽいと肉を乗せるからこんなことになるのだ。


「成彦、また奉行! 焼肉ガーディアン!」

「奉行としてじゃなくて、市民としての警告だよ! これじゃ、もう食べられないでしょ」

「騎士、焦げてる肉、気にしない!」


 リディアはそう言うと焦げたカルビを口に運ぶ。

 なんて強情な……。ここまで焦げたら食べるレベルじゃないだろうに。

 しかし、焦げ焦げの肉をジャリジャリと噛みしめながらも、なんだか楽しそうなリディア。自分が無理して焦げた肉を食べているのが可笑しいのか、クスクスと笑いがこみ上げている。

 つられて俺もついつい笑ってしまう。

 こんなくだらないことで笑い合うなんて……。

 焦げた肉を通して、俺とリディアはすっかり友達になれた気がしたのだった。

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