第28話 これから

「クレイン、メルト。お前らのその話、のってやるよ」


 俺は2人に対してそう言った。


「ほ、本当かい!?」

「二言はねぇよ。それにお前らの目的はそのまま俺の目的でもあるからな。都合がいいんだよ」


 これは本当のことだ。俺は明日にでもユルベルグに向かってユルベルグの王やその側近を殺そうと考えていたのだから。

 俺のこの行動にはこれといって特に理由はないが、強いて言うならばフレアの自由の為だろうか。


「そうと決まれば早速作戦を説明するわね!」

「ああ」


 そのままメルトは地図を広げて説明を始めた。その説明は長く、途中で集中が切れてしまったが、概ね難しいことは言っていなかったように思える。何故なら作戦は単純明快だったからだ。

 その作戦とは、反乱を企てている騎士たちが城の前で暴れ、そのスキを狙ってフレアを含めた少数精鋭が城に潜入して王の首を取るというものだった。


「……相手の戦力は分かってんのか?」

「大体は分かっているよ。それに、このグランドレアに強者が何人も来たから当初の予定よりも注意すべき相手の数は減っているんだ。これは幸運だったね」


 その強者とは俺の村を襲った騎士やフレアの姉たちを指しているのだろうか。もしそうならばこいつらの実力が推し計れるな。つまり、こいつらも大したことはないザコだ。


「で、今残ってる強者は何人いんの?」

「数で言えば20人だけど、本当に注意すべきなのは3人だ。王の側近であるその3人はフレア様でも勝てないかもしれないからね……」

「そうよ。でも同じ勇者のカイ君がいるのなら安心できるわ! フレア様をよろしくね!」

「……ああ」


 2人はこう言うが、どうせその3人も大したことのない騎士なのだと思う。そもそも、フレアが勝てない人間など俺ぐらいなものだろうよ。俺以外だと他の勇者にもフレアが勝てない相手がいるかもしれない。

 実際にフレアと戦った俺だからこそ言える。フレアに勝てるような騎士はユルベルグにいないだろうと。大体、フレアの姉たちを強者と呼ぶ人間の評価はアテにならないと考えるべきだったな。


「カイよ。そんなことより私はもう眠いぞ」


 確かに日はとっくに落ちており、もう深夜と呼べる時だろう。


「そうだな。ユルベルグには明日出発するか」

「もう出発するのですか!?」


 クレインとメルトは驚愕の表情で俺を見る。何が問題だったのだろうか。


「そうだけど?」

「で、でもカイ君もフレア様も今日は戦いずくで疲れているだろう? 明日に出発して疲れは癒えるのかい?」

「問題ねぇよ。これぐらいなら日常の運動に達してないくらいだから」

「私も問題ない。寝れば癒える」


 どうやらフレアも問題無く明日に出発できるようだ。


「そ、それならいいんだが……」

「本当に勇者って凄いのねぇ……」

「というよりもこの2人がとんでもないだけだな。この人外どもめ」

「おい、ニーナ! ありがとう!」

「何故私は今褒められたのだ……?」


 俺を人間扱いしないということは魔族扱いしているということ。それは俺にとって最高の褒め言葉だ。褒めない理由がない。


「カイ……眠い……」


 ふと声のする方を見ると、フレアは今にも寝てしまいそうだ。


「お前宿は?」

「取ってない……」

「俺も取ってないんだよな。今からでも間に合うかな……?」


 もし宿の部屋が埋まっていたら森で野宿でもするか。幸いそのための装備一式は持っているし。ちなみに2人分あるからフレアも野宿可だ。


「だったら僕たちの部屋に来るといい。僕とメルトは個人的に宿を取っているんだ」

「だったらお言葉に甘えさせてもらおうかな。おいフレア、メルトに連れて行ってもらえ」

「う……む……」

「フレア様ーーーー!!」


 今にも倒れそうだったフレアをメルトが慌てて支える。


「悪いけどフレア様を私の背中に乗せてくれないかしら? 1人だと辛くて……」

「分かった」


 俺はフレアをメルトの背中に乗せる。しかし乗せた瞬間にメルトが床に沈み込んだ。


「うげっ!」

「どうしたメルト?」

「お、重い……」


 ああ、フレアの手甲と背中の脚部装甲が重いのか。それも当然だろう。感覚と視覚的な情報を合わせてみるとそれらは人間が持てる重さではないだろうからな。


「風の魔法で浮かせればいいと思うけど」

「そ、その手があったわね!」


 どうやら解決したようだ。メルトは風の魔法を発動させてフレアの手甲と脚部装甲を浮かせる。


「んじゃニーナ、レンフィーエン。邪魔したな」

「ああ。また会おうカイ。今度会う時までに腕は何とかしておく」

「そん時を楽しみにしてるよ」

「帰り道、気を付けてくださいね」

「お前も達者でなレンフィーエン」

「はい!」


 そうして俺たちはニーナの病室を後して、そのまま民家を出る。


「待たせたなアンバー」

「ガルウ」


 民家の外で待っていて貰ったアンバーは民家の前に座り込んでいた。


「フ、フフフフェルグラントウルフ!?」

「何でこんな町中に!? というか何でこんなところに!?」


 メルトとクレインは2人そろって驚いていた。


「なんだ? フェルグラントウルフは珍しいか?」

「珍しいというか、フェルグラントウルフは希少で滅多に見れないと……」

「成程。ならよかったじゃないか。ここで見れて」

「でも戦闘力も異常に高いって……」

「頼りになるってことじゃねぇか」


 俺はアンバーのことをいい奴だと思っているのだが、2人は何だか納得がいかないようだ。それはアンバーがどうとかではなく、フェルグラントウルフという種に対する反応だったようだが。


「まぁ気にすんな。いい奴だよ」

「そ、そうは言っても……」

「いいから早く宿に案内してくれよ。俺だって眠いんだ」

「わ、分かった」


 そうしてアンバーに警戒しつつもメルトとクレインは町を歩き、しばらく歩いた後に宿に着いた。


「ここだよ」

「へぇ。立派な建物だな。ここならアンバーも入れそうだ」

「多分大丈夫だと思うよ。ここは広いし、ペット可だから」


 瞬間、アンバーが唸ってクレインに牙を見せる。


「な、何で!?」

「そりゃぁペット扱いされたからだろ。コイツはペットじゃなくて俺の友達だぞ」

「ガルウ!」

「す、すみませんでした……」


 そうして俺、アンバー、クレインは宿の部屋に入り、メルトとフレアは隣の部屋に入る。


「本当に広いなー!」


 部屋は広く、アンバーも問題無く寝られるようでありがたい。


「それじゃもう寝ようか」

「ああ」


 そうして俺たちはすぐにベッドを準備して睡眠に入った。明日はいよいよこのグランドレアを出てユルベルグに出発だ。フレアたちの話を聞いた感じだと、ここからユルベルグに着くまでには1週間必要らしい。

 まぁ魔族の村からここに来るまでにも同じくらい掛かったのだし、仇を探す手間もない今回の方が楽ではある。

 それに今度はフレアとアンバーがいるのだ。1人でないというのはやはり頼もしいものだと思う。

 ユルベルグに着くまで少しフレアと話してみるとしようかな。聞きたいことや確かめたいこと、話しておきたいこともあるのだし。

 とにかく今日はもう、寝るとするか。

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