第13話 復讐完了
俺が人間の暮らす人間領に来たのは、人間を知る為。そしてもう1つは、魔族の村を、俺の村を滅ぼした人間に復讐をすること。
実行犯である騎士団は既に全滅させ、親玉の騎士団長は今も魔法で苦しんでいることだろう。
そして今、俺の目の前には騎士団に村を滅ぼす命令を下した王がいる。その王は言った。魔族は世界の癌であると。
「いい度胸だよ、王様。この俺を前にそんなセリフを吐けるなんてな……」
こいつは罪悪感など微塵も感じていないことが分かったし、こいつが魔族をどう思っているのかも理解した。
ならば俺のやるべきことは1つ。
「今からお前には、最大限の苦しみを与えてやる。殺してくれと頼んでも殺しはしない。永劫苦しめ、人間」
俺の精神力は魔法を温存していた為、全快している。これならばやれることをやれるだろう。
まずは、拘束からだ。
「汝の罪を数え積め、血に濡れし茨が罪ごと縛る。伸びしは業。巻きしは罰。《ギルティアソーン》」
王の足元に魔法陣が現れ、そこから赤い茨が伸びる。数多の棘を持つ茨は王の腕や脚と胴体、首などの全身に巻き付き、王を拘束する。
「い、痛いいいいい! 離せえええええ! わああああああ!!」
締め上げられた王は刺さる茨の痛みに苦しんでいるようだ。その証拠に先程からうるさく叫んでいる。
「棘が、棘がああああ! 早く離さんかあああああ!!」
「締まれ」
俺はさらに棘を食いこませる。全ての棘は短く、あまり鋭くもない。故にいつまでも刺さらずに痛みを与え続ける。
「こんなもんで済まさねぇよ……」
拘束した後、俺は王を内側から苦しめる為の魔法を使う。
「生けるものが詠うのは苦しみで、死んだものが詠うのは誘いの詩。喜びの叫びは地に、苦しみの叫びは天に。《パラダイスディセンド》」
王の足元に現れた魔法陣から現れたのは枯れた木。その枝の1つがうごめき、王の口に入る。
「ガッ……ゴホッ……」
数秒後に枝は王から抜け、そのまま消える。
「ゲホッ、ゲホッ! 何を……した……?」
「すぐに分かる」
以前、騎士団を全滅させる為に使った《パラダイスディセンド》。これにより王は病に侵される。
「なっ!? 骨が、骨がああああああああ!!」
王の腕がまるで軟体の生物のようにだらんと垂れる。王の言葉から判断するに、骨がなくなったようだ。
「ああ、セスタス病か」
「セ、セスタス病……?」
セスタス病とは、数十年前に流行ったらしい全身の骨がゆっくりと溶けてなくなる病だ。どの歴史書にも載っている筈だが、まさか知らないとはな。人間の王は学も無いらしい。
「お前の全身の骨が無くなる病気だよ。それにお前はブルエン病にもなっている」
ブルエン病とは血液を生み出す器官の働きが弱くなる病気だ。通常の半分くらいしか血液を生み出せなくなる為、死にやすい。発症すれば全身に特殊なシミが現れる為、分かりやすいのが救いだ。
どちらの病気も今は特効薬があるのでそこまでの脅威ではないが、薬を飲まなければ死ぬ。
「でも、まだ足りない。俺の恨みは晴れない」
まだまだ苦しんで貰わなくてはならない。俺から村のみんなを奪った罪は、重い。
「もう、もう止めてくれ……! 何があったのかは知らんが、私が悪かった! だからもう助けてくれ!!」
王は謝罪をした。しかし、俺に王を許す気はさらさらない。
「黙れよ。でも今からお前を不死にしてやる。感謝してもいいぜ?」
まぁ、条件付きの不死ではあるが。
「聖なる夢は幸せを運び、聖ゆえにそれを見ることは叶わない。逃げ惑う星は天に。追い掛ける屑は獄に。《スターダストナイトメア》」
俺は王の頭に右手を当て、魔法を使う。
「な、何をするつもりだ……!?」
「肉体に害はない。肉体にはな……」
右手に魔法陣が現れ、王の中に沈む。それからすぐに、王は叫びをあげた。
「うわああああああああああああ!!! やめろ!! 来るなあああああ!!!」
王は狂ったように暴れ出す。しかし赤き茨に拘束されている以上は満足に動くことも出来ず、棘が刺さることにもお構いなしでジタバタと暴れている。
《スターダストナイトメア》は対象に幻覚を見せ、死のイメージを幾度も見せる魔法。その死の幻覚は現実と錯覚するほどであり、心の弱いものならばすぐに死ぬだろう。
「あああああああああ!! 殺さ、殺さな――」
そして王は無言になり、下を向く。気のせいか、白目をむいていたような気がする。首に手を当ててみれば脈が無かった。
「……死んだか。でも、まだ足りない」
この程度で死なれては困る。まだ拷問が足りていないのだから。
「雷鳴轟くは空の響き。轟雷恐れるは人の意識。《ストラーボルト》」
俺は心臓の辺りに手を当てて雷の魔法を使う。人間の心臓は、死の直後に電流を浴びせることで再度動き出すことが多い。
成功率は半々だと言われているが、確実に生き返らせるコツがあるのだ。故に、心臓などの肉体が無事であるならば絶対に生き返らせることが俺には出来る。
「……ハッ!!」
どうやら王は目を覚ましたようだ。
「さぁ、続きといこう」
俺は剣で王の両腕と両脚を切り落とす。
「ぐぎゃあああああああああああ!!!」
王は叫ぶ。またショックで死んだようだが、俺は止血のために氷の魔法で傷口を凍らせてから雷の魔法で生き返らせる。
「……も、もう……止め、て。殺して、くれ……! 頼む……!」
王は目に涙を溜めて俺に懇願している。
「うるさい」
そんなもので許されると思わないでもらいたい。
もう俺の父さん、テイドさんやアルマさん、村のみんなは帰って来ないんだ。もう会えないんだ。
他ならぬ、お前のせいで。
「お前は犯しちゃならない罪を犯した」
俺は王の頭を抱え、その目を見て言う。
「生存の為に、食う為に生物を殺すのならばいい。邪魔する者を殺すのも構わない。だが、生き物を殺す以上は報復されることも考えなくてはならない。それが摂理。それが理だ」
誰かを殺せばその仲間や家族が悲しむ。その彼らが殺した存在を憎むのは当然だ。
それを甘んじて受ける覚悟や意志がないモノは、生き物を殺してはならない。そんなモノには、殺す資格がない。
「だからこれは、当然の事象だよ」
「あ、あああ……」
両腕と両脚をなくした王は茨に釣り上げられているような形だ。自ら動くことは出来ないだろう。
そして王の体はセスタス病により全ての骨を失った状態であり、体を固定できない為、ぐにゃぐにゃになっている。残っているのは神経や臓器、歯や血、皮膚くらいだろう。
そんな王でも歯は残っているためにしゃべることは出来る筈だ。
「さぁ、次だな」
「……ま、まだ……やる……のか……?」
王は今にも死にそうな声で俺に問い掛ける。愚問すぎる質問に、俺は呆れてしまった。
「言っただろう? 殺さずに永劫苦しめる、と」
俺は、言った言葉を取り消すつもりなど無い。
「人間が思考する為に必要なのは脳と脊髄、神経。肉体的に生きるために必要なのは臓器と血だと言われている。後は栄養か。でもな、闇に飲まれれば栄養なんていらなくなるし、死にもしなくなる」
つまり、肉体的に生きるために必要な部分だけを闇に飲ませるのがまず初めにやることだ。その為に俺は魔法を使う。
「影の中に潜むものは夕闇に誘われし漆黒の太陽、それが煌めくときは曙を消した時。闇を侍る理は球。球を担う理は闇。《ブラックスフィア》」
掲げた右手に魔法陣が現れ、そこから黒い球体が現れて胴体と首だけとなった王を包む。
肉体は闇の飲まれ、王の肉体の代わりを成す。もう王の肉体はこの世に存在しない。
この魔法は肉体だけを闇が喰う。つまり脳と脊髄、神経は闇に飲まれずにそのまま残っているのだ。
「一度死ねば《スターダストナイトメア》は解除される。だが、死なないお前に《スターダストナイトメア》を使えばどうなると思う?」
無論その答えは簡単だ。魔法の効果が続くまで幻覚を見続けることになる。俺は王に悪夢を見せる為の魔法を使った。
「聖なる夢は幸せを運び、聖ゆえにそれを見ることは叶わない。逃げ惑う星は天に。追い掛ける屑は獄に。《スターダストナイトメア》」
これで王は悪夢を見る。死ねない以上、効果時間が続くまで苦しむがいい。
「あ、あああ……ああああああああああ!!!」
だが、まだ終わらない。
俺は王に向かって数多の攻撃魔法を使う。精神力が尽きて魔法を使えなくなるまで、何回も、何種類もの魔法を使った。
そしてしばらく経った。
俺の精神力は限界に来ており、使える魔法は後2つくらいだろう。
「あ、へへへ……くか、けきいいいき……」
王は精神が壊れかけているようだが、苦しめることが出来ているのならば俺としては本望だ。幾度ともなく聞いた王が苦しむ声。それは村のみんなへの鎮魂歌となるだろう。
(これで、少しは気分が晴れた……かな)
そして、仕上げだ。
「走る雷は止まらず駆ける。唸る雷は叫んで回る。《ボルトサークレット》」
俺は王の心臓へと魔法を当てる。これは対象から電気を奪い、それをエネルギーとして効果が続く雷の魔法。生態電流などでは力が足りない為、しかし俺がこれに強い電気を与えることで、長時間対象に攻撃し続ける魔法へと変化するのだ。
だから俺は、《ボルトサークレット》に強力な雷の魔法を当てる。
「轟く雷鳴、天空より顕現せし魂は何物にも阻むことこれ敵わず。入りて走るは神の怒り、降りて走るは天の怒り。《ディバイングラインド》」
天より数多の雷の全てが王へと集中的に降り注ぎ、王の体を焼く。
「ぐああああああああああああ!!!」
王は叫ぶ。この魔法で何度死んだのだろうか。
そして《ディバイングラインド》を受けた《ボルトサークレット》は強力な魔法へと変化し、王の脊髄と神経を焼き尽くす。
「ああああああ!! ああああああああああああああ!!!」
あれだけの雷を受ければ、《ボルトサークレット》の効力は3日くらい続くだろう。
「……これで、トドメだ」
俺は落ちていた槍を拾う。おそらくこれは、逃げた兵士の武器だろう。俺としては丁度いい。
俺はその槍を王の心臓や脊髄を避けて肉体に突き刺した。
「ぐあああああああ!!」
自力で槍を抜くことができない王は、《ボルトサークレット》の効果が終わっても、槍を突き立てられたことによる痛みを一生受け続けることになる。
死なない体と、肉体に刺さった槍。それが生み出すのは終わらない痛み。そして永遠の苦しみ。
「終わった、か」
これで俺の復讐は……完了だ。
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