第9話 王はどこだ

 城に入った俺は王を探しに適当に歩いていた。

 この城に初めて入った俺は迷い、さっきから同じところをグルグルと歩いているような気がする。

 それに何故か、歩いている人間を全く見ない。城には多くの人間がいると思ったのに。


(これじゃ王がどこにいるのか聞くことも出来ないな……)


 しかし、今の俺には適当に歩くしか選択肢がないのだ。

 そうして歩いていると、鎧を着た人間が沢山出て来た。その数は13人だ。そいつらが着ている鎧は、俺が殺した騎士団の奴らが着ていた物と同じ。やはりあの騎士団はこの国の騎士団で町がいなかったようだ。


「貴様が侵入者だな! 一体何者だ!?」


 その内の1人が俺に正体を問うた。


「俺はカイ。王に会いに来ました」

「王に会いに来ただと!? ならば何故、門番を殺した!」


 どうやらこいつも礼儀を知らない人間のようだ。まったく、礼儀を知る人間はここまで少ないものなのか。


「俺の邪魔をしたからだ。でも、ちゃんと忠告はしたぞ?」

「よくも抜け抜けと……!」


 鎧を着た人間たちは俺を睨んでいる。


「どうやってあの4人を殺したのかは知らないが、我々に勝てるとは思うなよ! あいつらの仇を打ち、貴様を牢にぶち込んでやるっ!!」


 奴ら13人は一斉に腰の鞘から剣を抜き、構えた。どうやら俺と戦うつもりらしい。


「お前ら、王がどこにいるのかを教えてくれるなら見逃してやるぞ?」


 情報は貴重だ。奴らが俺の求める情報をくれるのならば、見逃してやっても構わない。


「たわけ! 全員、やれええええ!!」


 13人が次々に俺へと剣を振りかぶって走って来る。

 走るのも遅ければ剣の速さも足りない。剣筋もめちゃくちゃだし、構え方や動きも素人程度だ。


(所詮、人間なんてこの程度か……)


 俺は兵士たちの剣撃を避けながら思考する。

 城の中にいて王を守るような兵士ならばそこそこは強いと思っていた。しかし、期待外れもいいところだ。

 これでは魔法を使うまでもないし、本気を出す必要もない。3割程度の力でもおつりが来るだろうが、殺す相手に対して手を抜くことは許さないという父さんの教えは守らなくてはならない。

 だから俺は、本気で殺す。


「覚悟は出来てるってことで、いいんだよな……?」


 俺は問うが、兵士たちには俺の問いに答える余裕はないらしい。


「うるさい! 死ね!」

「この! このぉ!!」

「何故当たらない!?」


 兵士たちの剣撃は全て空を切る。

 奴らの攻撃が俺に当たることなどありえない。


「じゃぁ、死ね」


 俺は高速で走り、剣の一振りで2人殺す。そして返す剣でもう1人。

 綺麗に横並びで掛かって来た2人の兵士が剣を振るう前に横薙ぎで首を落とし、後ろから攻撃して来る兵士の腕を取って地面に叩きつける。そして心臓を刺した。


「これで、6人」


 俺は委縮している兵士たちへと攻撃を続ける。

 次々と剣で攻撃して来る兵士たちは信じられない程に弱く、本気で相手をすることが可愛そうに思えてくる程だった。

 俺よりも遅く振るわれる剣は避けると思考してから避けられる攻撃であり、魔法を1度も使ってこないおかげで攻撃パターンも読みやすい。

 この一瞬でもう5人を殺した。


「残りは、2人か」


 その2人はブルブルと震えながら俺に剣を向けている。2人とも命の取り合いをしたことがないのか、11人の死体を見て顔面を青白くしていた。


「く、来るな……!」

「頼む! 殺さないでくれ!」


 2人はその顔に恐怖を刻んでいる。この程度の戦いで恐怖した、ということだろうか。

 これくらいの命の取り合いは、狩りをする上で毎日のように起こることなのに。

 これだから、人間は愚かで脆弱なんだ。


「王の居場所を教えてくれるんなら殺さない。最初に言っただろ?」

「わ、分かった! 言う! 言うから……殺さないで!」

「ああ。教えてくれるなら殺さないって約束する。ただし、嘘を吐いたら苦しませてから殺す」


 俺の魔法ならば、俺の剣や格闘の技術なら、いくらでも拷問出来るのだから。


「こ、この道を真っ直ぐ行ったら、大きな階段がある。そこを昇って、さ、3階まで行くんだ……。そうしたら、左に、大きな扉がある。その扉にはこの国の紋章があるから、すぐに分かると思う……。そこに、王がいる」


 兵士の1人は震えながら言った。もう敵意はないようだし、言葉遣いを緩めて警戒を解いて貰おう。


「ありがとう。約束通り、君たち2人は殺さないよ。でも、保険は掛けておくな」


 そんな2人はよく分からないという顔をしていた。


「移すは現の姿也。記すは夢の心也。《パレットサーチ》」


 俺は2人に触れ、魔法を使った。この魔法は印をつけた者の居場所を把握出来る魔法だ。俺の指に、俺にしか見えない糸が巻かれ、その先にはこの2人がいる。

 そうやって相手を見失わないようにするのがこの魔法の力。発動中は他の魔法が使いにくくなるが、この2人が嘘を言っていなければ解除すればいいし、嘘を言ったならば追って殺せばいい。簡単な話だ。


「君たちの為に、もう一度だけ聞いておく。嘘は言っていないな?」

「はい!」

「勿論です!」

「よし、君たちが嘘を言っていないことを祈るよ。じゃぁな」


 俺は言われた通りに進み、行く先々で出会う兵士たちと戦った。黙って俺を通せば、俺は奴らを見逃すと言ったのに、兵士たちは俺に戦いを挑んできたのだ。

 戦力分析もできない弱者などに俺を止めることは出来ない。俺は兵士たちを殺しながら先へと進んだ。

 50人近く殺したくらいだろうか。俺はついに、2人が言っていた紋章のある扉を見つけた。


「ここか……」


 俺はその扉を開けた。

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