重契約者の魔法学院生活
あっつまし
プロローグ
8年前、世界は魔物によって滅ばされかけた。人々は逃げ惑う事しかできなかった時、精霊が姿を現し人々と契約する事により、世界を救うための力、魔力を与えた。そして精霊と契約した人々はその力を使い魔物の侵略を止め、押し返す事に成功した。そして今、世界は魔物が現れる前まで続いていたように平和に暮らしている
4月の上旬、俺は今日から通うことになる『ターミル魔法学院』の入学式が終わり、校舎内を見学して回っていた。ほかの新入生もちらほらと校舎を見学している姿が見える。
「しろー!」
俺を呼ぶ声が聞こえる。幻聴だろう。俺はそう思い込むようにして一人すたすたと歩き続けた。
「ちょ、こらっ!止まりなさいよっ!」
さっきまでだいぶ後ろにいた感じだったがいつの間にか俺を抜き、前に陣取ったそいつは仁王立ちで俺の行く手を遮る。
「・・・・・・あ、紗雪じゃないか!偶然だなぁ」
俺はできる限りの作り笑いを浮かべながらできる限り不愉快に聞こえないように誠心誠意、目を見ずに、言葉を話す。
「人と話すときは目を見なさいよ、しかもあんたわざとやってるでしょ・・・・・・一発なぐるわよ」
「うおーい、ちょっと待ってくれ、冗談だ冗談。幼なじみの仲じゃないかスキンシップだよスキンシップ」
そう言いながら俺は紗雪の手を握り、もう少しで俺の頬にダイレクトに直撃していたであろう拳の力を緩めてやる。
それにしても紗雪もかわいくなったものだ。昔はどこからどう見てもおまえ男じゃん、って感じだったが今では出るところも出て女の子になっている。こうして時は流れるんですね、お父さん、僕は今気付いたよ・・・・・・
「真白、あんた私の手を触りながら何考えてるのよ、この変態が!」
「うおっち、当たったら痛いだろ、何してくれてんじゃい!」
紗雪の容赦ないけりが俺の頭の上を通過していった。後少し反応が遅れていたら今頃俺は脳天直撃で地面にダイブしていたことであろう。
「あんたならよけれるでしょ」
「いや、だいぶ今日のはえげつなかったぞ、そして紗雪おまえに言いたい」
俺は十分な間をとってから紗雪に告げる。
「親父くさいかもしれんが、俺は白が一番好きだぞ!」
俺は今日一番の笑顔でそう告げてやった。そう、避けたとき偶然見えてしまったのだ。これは故意ではなく事故なのであしからず。
最初は「白、何のこと?」と言っていた紗雪だが言っている意味がわかったのか急に顔が真っ赤に染まりぷるぷると体が小刻みに震え始めた。
そこまでうれしかったのだろうか、なら俺も言った甲斐があるってものだ。
「嬉しいなら言葉にしたらいいんだぜ」
ついでにこう格好をつけておいた。すると紗雪は真っ赤な顔を上げて俺を見つめたと感じたときには何故か紗雪の姿は見えておらずその代わりに、入学した俺たちを迎えてくれているような青空が視界一面に広がった。そして頬に感じる普通じゃないくらいの痛み、そして俺は理解した。あぁ、人間って魔法や機械がなくても飛べるんだな・・・・・・
「うおっっふ!」
「もうシロなんて知らない!」
そしてそのまま地面にたたきつけられた俺を無視して紗雪は一人で行ってしまった。追いかけようにも痛すぎてマジで悶絶ものです。
「またきれいに舞う蝶になってたな真白」
いなくなった紗雪の代わりにそこには中学からの友達である智彦が俺をのぞき込みながら嫌な笑みを浮かべて立っていた。
「智彦、お前また助けに入らなかっただろう」
「そりゃあ大事な幼なじみ同士の交流を邪魔するわけにはいかないカナーって思ってな」
智彦は、うわははははと高笑いしながら俺の背中をバンバンと叩く。
あの痛いです智彦さん、これ絶対赤くなって風呂入る時痛くなるから・・・・・・
「まぁいいや、そんでお前のクラスはどこになったんだ?」
「何言ってんだよ、クラス発表は後日知らされるって言ってたろ。今日はもう自由だから校舎を見学してたんじゃないのか?」
「そんなのは全く知らん!俺はふらふらと歩いてただけだっつーの」
「あ、ならさ」
智彦は突如何かを思い出したかのように持っていた新品の鞄の中をガサガサと音を立てながら何かを探し始めた。そして探し物は見つかったようで、あったあったと言いながら取り出し起動する。
「それ、なんだ?」
「真白、ちゃんと事前に配布された物とかの確認をしたのか?」
「いや全く」
ふんっ、と鼻息も思いっきり出し自信満々に言ってやる。
俺は今まで一度もそういった物を確認したことはないぞ、まいったか!
そんな俺の心の声を知ってか知らずか智彦は話を進める。
「これはアミュと呼ばれる学園専用の携帯みたいな物らしい。この中には学園内のマップだけじゃなくて、大会への応募や自分の成績の確認などの機能が備わっており、もちろん通話することも可能だ。必要不可欠らしいからしっかりと毎日持っとけよ」
「そんな便利な物が入っていたとは、早速帰って確認だな。素晴らしい情報をありがとうそしてまた明日」
軽く礼を智彦に対して言い、俺は一刻も早くアミュに触れてみたい好奇心でそそくさと家に帰るために足を進める。
「待て待て待てぇーい!」
俺の腕を後ろから智彦が掴み、体重の移動ができなかった俺は倒れそうになるがなんとか持ちこたえて智彦へと向き直る。
「なんだよ、俺は一刻も早く家に帰ってアミュを触れてみたいんだ!邪魔をしないでくれ!」
「いやいや、せっかくなんだから校舎一緒に回ろうぜ。ほら、えっと・・・・・・」
そう言い智彦はアミュを使い何かないかとSNSなどを使って確認しているようだ。だが特に面白そうな物はないのかいっこうに見つかる気配がない。
「俺、マジで帰っていいか?」
「ちょ待てって、テュイッターなら何かあるかもだから」
テュイッターとは自分の打ち込んだ近況に対して共感する人などがいたら、その近況を見るために観客となって、リアルタイムで情報が入ってくるアプリのことだ。
そしてテュイッターを開いた智彦の顔色が変わった。そしてすぐに俺の腕をとり校門方向へと走り始めた。
「お、早く帰りたくなったか?」
「真白やべえぞ、紗雪ちゃんが校門前で男子生徒に絡まれているらしい」
「は?」
紗雪は気性が荒い部分があるが誰であろうと喧嘩をふっかけるようなマネはしない。憶測するに俺を殴り逃げた後に走っていてぶつかったのだろう。
「くそっ!」
俺はスピードを上げて校門に向かってダッシュする。幸いなことに校門から俺達のいた所はそんなに離れておらずすぐにたどり着けた。
そこには中心に一定のスペースが空いておりそれを囲むように生徒の群れができている。その生徒達の隙間を抜けて真ん中に到達すると紗雪の目の前には金髪でイヤリングをしており目つきの悪いいかにもヤンキーですオーラを出している上級生がいた。紗雪は必死に頭を下げており、その光景を見た俺も紗雪の横に行き一緒に謝る。
「すいませんでした。俺がこいつをいじめて泣かせてしまったため先輩に迷惑がかかりました」
「シロ・・・・・・」
「あぁ?お前、誰よ・・・」
ヤンキーは頭を下げる俺をのぞき込み、睨みながら質問をしてくる。
「こいつの幼なじみです」
「はぁん、んで?」
「へ?」
「いや、いきなり出てきたからどんな誠意を込めた謝罪があるのかなーって思ってさー、まさか謝るだけとかじゃないよな?」
「それは・・・・・・」
ヤンキーは返答に迷う俺の姿を見て一つの提案を出した。
「ならよ、模擬戦闘なんてどうだ?」
「模擬、戦闘・・・・・・」
8年前、この世界は突如現れた魔物によって人々が何人も殺された。その魔物を倒すために精霊との契約を持って戦う人間を魔道士と呼ぶ。その魔道士を育成するために作られたのがこの学院『ターミナル魔法学院』だ。そして少しでも生徒の実力をあげる措置として生徒同士で戦う模擬戦闘という授業がある。模擬戦闘は私闘であっても申請を行い受理されたら闘技場での試合が可能となる。
「中等部の時に戦い方は学んだはずだろ~?もしかして~、怖いの?」
わざと語尾を伸ばしてあからさまに煽ってくる、本来なら絶対にこの手の話は乗らないのだが、ここは乗らないと収集がつかない。
「その試合を受けたら、この事を許してくれますか?」
「もちもち、そんなのモチよ~。勝たなかったらまぁ何があるかわからないけどね。んじゃ試合の日時は俺が決めるから決まったらそっちに学院側からアミュに連絡行くから、逃げんなよ?」
ヤンキーは最後に一睨みしてその場を後にした。
「は、はぁ・・・・・・」
「紗雪」
「紗雪ちゃん」
気が抜けたのか紗雪は言葉になっていない声でその場に座り込んでしまった。そんな紗雪に俺と智彦は近より何処も怪我がないかなどの状況を確認する。
見た感じ紗雪には怪我もない。一安心していると少し時間がたって力が入るようになったのか紗雪はいきなり俺の肩を思いっきり揺さぶりながら「何してるのよー!」と叫んでいる。
いやいや紗雪さん、今現在のあなたが何してるのよ。俺目がぐるぐるしちゃって吐いちゃうよ。うえってなっちゃうよ?
「なんで、なんで私なんかかばって、毎回あんたが身代わりになるのよ・・・・・・・・・」
こいつは昔から運がなく、よくこういった事が起こる。そのたびに俺が代わりに場を納めてきたんだが魔道士になるためにいつまでも頼ってちゃだめよ、と入学式を境に頼るのをやめると決めていたそうだ。だが結果的に俺が助けることになって最初から実行できなかった自分が悔しいのだろう。
「大丈夫だ、何処までいってもやるのは模擬戦闘だから。ダメージ防止の魔法もついてるし死んだりはしないさ」
「さて、まぁ考えても仕方ないし今日はもう帰って入学祝いでもしよう」
そう言って立ち上がり紗雪を立たせてからそのまま家に帰るために校門に向かおうとしたら目の前に一人のきれいな女の人が立っていた。見た目から察するに上級生だろう。
そしてどんどん近づいてきて俺の目の前にたちこう告げた。
「確認をとります、貴方が本条真白さんですね」
「は、はい」
「私は生徒会の者ですが本当に香川昇との模擬対戦を行うんですか?」
「もちろんです。その約束ですから」
香川昇とは先ほどのヤンキーのことだろう、何故生徒会の人間がいるのかが理解できないが約束通り戦うために意思があることは伝えた。
「わかりました。ならば彼からの申請書を受理させてもらいます。日時は本日から2日後の水曜日午前10時です。場所は第一訓練所をお使いください。そして高等部に入っての初めての模擬対戦だと思いますので一つ教えときます。模擬対戦が終了するのはどちらかが倒れた時、もしくは降参した時でしかありえません。よろしいですね?」
「はい」
「対戦では生徒会の人間がジャッジとしてつくのでそれも知っておいてください、それでは」
生徒会の女の人はそれだけを言うとスタスタと校舎の中へ入っていった。
どちらかが倒れるか降参するまでか・・・・・・一応中等部である程度の戦う知識・訓練は身につけてきたが相手は俺よりも一年多く習っている人間、そして見た所戦いになれている風だった。状況的には最悪、か・・・・・・
「シロ、本当にごめん」
紗雪は泣きそうになりながら俺に謝る。
「うーむ、しおらしい紗雪もかわいいものだ」
「んなっ!」
俺の一言に紗雪は手を出しそうになるが、さっき庇ってもらった状況を思い出したのだろう、プルプルしながらも出しそうだった手を引っ込めた。
「まぁいいさ、俺にドンと任せとけ」
紗雪の頭を軽くなでてやる。そうすると紗雪のプルプルは止まった。だが顔はよく見えないが耳が真っ赤になっている、この大衆の前で頭をなでられている姿がよっぽど恥ずかしいのだろう、だがそんな姿もまたかわいい!
「よし、じゃあ入学祝いって事で俺の家いくぞ、紗雪、智彦」
「おう」
「し、仕方ないわね、今日くらい一緒に騒いであげるわよ」
いつものテンションに戻った紗雪とさっきから何もしてくれなかった親友の智彦と一緒に家で入学パーティーを行うために俺の家へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます